第12話-①
玉座の間でドラゴンの姿と化したタカシと対峙するユウキ。タカシが降りてきた際の衝撃音を聞きつけ、同じく戦いが終わったコニールと、アオイとシーラと、鎖で縛られたアンジュが玉座の間に駆け付けた。そして彼女達もその異形の姿見て絶句する。
「なんなの……これは……!」
理解が追い付かないシーラに、異邦人の事情を知っているアンジュは脂汗が流しながら答えた。
「あれは……タカシのギフト能力だ……! 確か”食肉同値”とかいう……!」
「なに……!? 食肉……!?」
シーラがアンジュに質問しようとするが、タカシは翼を羽ばたかせ、空を飛ぼうとする。それに対してユウキがタカシに尋ねる。
「待て……! 鈴木先輩はどこに行った……!?」
「あ~……?」
タカシはしばらく考え、そして人間の方の胴体から、ドラゴンの身体の胴体を指さした。
「ああ、シズクの事か。食っちまったよ。今頃は”ここ”だ」
「く……食った……!?」
タカシは翼をさらに羽ばたかせると、壊れた天井から空に飛んでいこうとする。それに対してユウキは叫んだ。
「待て! どこに行くつもりだ!」
しかしタカシは鬱陶しそうに気だるげに答えるだけだった。
「あ? 別にお前らに興味はねえんだよ。俺はただ好きなようにやるだけだ」
そしてタカシは飛び去って行った。一旦の危機を脱し、ユウキは力が抜けてその場でへたり込んでしまう。
「はぁ……はぁ……くそ……なんなんだ……!」
アオイ達もユウキに駆け付けてくる。そして肩の骨がまた折れているのを見て、シーラは持ってきたバックから薬瓶を取り出した。
「また肩を折られたんですか……! とはいえ薬の前に……」
シーラはアンジュへと目をむける。そしてアンジュの鎖を取ってやった。
「もうエドワード王子も、異邦人も全員いない。だからあんたを捕えておく必要もなくなった。……だけど、せめて兄さんの怪我を魔法で治してやってくれないか」
アンジュが言うことを聞いてくれるかどうかの賭けではあったが、アンジュは素直にユウキの肩に回復魔法を掛け始めた。
「まだ異邦人は一人いる。そしてアイツが”一番ヤバい”……! シズクさんもいない今、もうアンタたちに何とかしてもらうしかないのよ……!」
「一番ヤバい……? どういうこと……?」
「それは……」
町の方角から破壊音が聞こえてくる。それを聞いたアオイ達は近くの窓から町の様子を見た。すると町から火の手が上がり始め、町が破壊されていく様子が見えていた。それを見たコニールは驚きの声を漏らす。
「バカな……! もうクーデターは終わったはずだろう!? 何を目的に破壊を……!?」
「……目的なんてない」
アンジュは魔法をかけながら、額から滝のような汗を流し、息を荒げて答えた。
「アイツは……タカシは……何も考えてなんかいない。ただムカついたから……殺したいから人を殺すだけ。だからシズクさんはアイツの能力を封印していた……!」
「封印って……!」
コニールはアンジュの方に顔を向けると、ユウキの身体の近くに何かが落ちていることに気が付く。
「あれ……? これって……”スマホ”じゃないか?それに……2台も……?」
先ほどシズクが襲撃される直前――ユウキに向かって投げたものが、この2つのスマホだった。アオイはそれらを拾うと、動くかどうかを確認する。
「これ……動く、動くわ! 電話も……機能が生きてる!」
アオイが持っているスマホを見て、アンジュは話を続ける。
「それは多分”シズクさん”のと……”タカシ”のスマホのはず……。シズクさんがわざわざ渡したということは……タカシを止めろって最後のメッセージか……」
アンジュは魔法をかけ終わり、グッタリとしてその場で項垂れる。ユウキの肩はまだ治りきっておらず、かなり腫れあがっていたが、そこにシーラが薬瓶から薬をかけた。
「我慢してくださいね……。さっきより怪我の具合が酷いから痛むかもしれませんが……」
ユウキの右肩から煙が上がり、ユウキは悶絶しながらもグーサインを出す。
「だ……大丈夫だ……! 2度目だからまだ耐えられる……!」
さらに町から破壊音があがり、悲鳴も聞こえ始める。それを見てコニールは焦燥に駆られる。
「おいおいおい! さっきからかなりヤバいぞ! アイツ、本当に何をする気なんだ!」
アンジュは息を切らしながらも、ユウキたちに向き直る。
「……お願い。タカシを止めて……! 私は……シズクさんだってここまでの破壊と虐殺は望んでいなかった……! 私が償えることならなんでもするから……お願い……助けて……!」
アンジュは土下座をして、額を地面に擦り付けるほどに頭を下げた。それを見てアオイはアンジュの背に手をあてる。
「……頭を上げて」
アンジュは頭を上げると、そこではユウキ達が準備体操を行っていた。ユウキは右肩の動きを確かめながら顔をしかめる。
「つつ……! 流石にまだ痛いか……! でももう時間も無いし、行きながら治るのを待つしかないか……」
シーラは荷物の確認を行いながらユウキに言う。
「それでも回復魔法がかかってるからさっきよりはマシですよ」
コニールも屈伸をしながら話に加わった。
「まずはユウキ君単独で行ってもらって、後に私たちが追い付く形を取ろう。とにもかくにも、1秒でも早くまずは奴の動きを止めないと……!」
ユウキ達はアンジュに言われるまでもなく、止めに行くつもりであった。呆然とするアンジュに、アオイは持っていたスマホを1台渡す。
「まずはユウキがあのタカシとかいう異邦人を止めに行く。だけど、ユウキが移動している間にも、あなたには私たちに情報を提供してほしい。あのタカシって異邦人の情報が、今の私たちには何よりも重要だから」
アンジュはスマホを受け取り、それをじっと見つめていた。そしてアオイはユウキにもスマホを渡す。
「ユウキは通話状態で話を聞きながら向かって」
ユウキは受け取り、笑顔でアオイに答えた。
「アイアイサー」
そしてユウキは玉座の間から離れて駆け出していく。それを見てアンジュはアオイ達に尋ねた。
「どうして……どうして何も言わずにタカシを止めに行ってくれるの……?」
アオイ・コニール・シーラはそれぞれ顔を合わせる。
「どうしてって……なぁ……?」
コニールは苦笑しながらアンジュに答えた。
「単純に私たちがバカなだけだよ。見返りもなく、ただやらなきゃいけないと思ったことだけをやる、バカなだけさ……」
× × ×
アンジュはクーデター計画に関わる数少ない女性だったこともあり、シズクから親しげに扱われており、異邦人のことについて詳しく聞いていた。そのためユウキ達の事やタカシの事についての詳細も知っていた。
異邦人には“世代”が存在する。100年前に来た第一世代の異邦人。40年前に”ステータス”が与えられてくるようになった第二世代の異邦人。そして10年前から“ギフト能力”を与えられるようになった第三世代。スマホによる“アプリ”を使い能力を管理できるようになった第四世代。そして――。
× × ×
アオイ達は城を出て、町中を走って進んでいた。ユウキだけは先行しているためここにはおらず、アンジュはスマホを持って、通話状態にしながら話している。
「タカシはつい最近新しく作られた“第五世代”の異邦人になるの。実は第三世代と第四世代にはそこまで大きな違いはなかった。シズクさんも第三世代だし、サイトウとかいう第四世代もいたけど、弱かったしね」
アオイは初めて会った異邦人サイトウを思い出す。確かにあのサイトウはスマホを持って鎧人形をコントロールしていた。そして今思えば身体能力も他の異邦人と大差ないことに気づく。
「だけど第五世代の異邦人は“つくり”から違うって、シズクさんは言っていた」
第五世代の異邦人はまず特徴としてギフト能力を“2つ”持つことが出来た。第三世代と第四世代のいいとこ取りで、その身に宿した能力と、アプリで管理する能力の2つをハイブリットに使うことが出来た。
また、ステータスも第四世代以前とは顕著な差があった。ヤードたちもタカシの暴走を止めるために何度か戦っていたが、1対1ではヤードたちは勝つことが出来なかった。とはいえ能力を絡めたり、複数人で戦えばその限りではなかったが。
そのためシズクはタカシのスマホを没収し、アプリを使用する能力を封印したうえで、シズクの能力である“同調能力”でタカシのステータスも抑え込んでいた。
「そんなヤバいやつをどうして連れてきてたの……?」
アオイがアンジュに尋ねると、アンジュは苦々しい顔をしながら答えた。
「……守護竜を倒すのにタカシの力が必要だったから。シズクさんでも守護竜相手は無理だという判断で、第五世代の異邦人でタカシの能力が守護竜を相手するのに好都合だったから……」
『でも守護竜は“俺”とコニールさんが倒した』
スマホからユウキの声が聞こえてくる。ユウキは屋上を走りながらタカシの下へ向かっていた。
『気づかなかったけど、あの時にあのタカシってやつも近くに居たんだな……。それで俺たちが離れた後にドラゴンを取り込んだのか……』
ユウキは続けてアンジュに質問をする。
『俺もアオイもこちらの世界に来たのは1週間前だ。俺たちも第五世代の異邦人ってやつなのか?』
ユウキがアンジュに尋ねるが、アンジュは首を横に振った。
「いいえ。あなたたちは調査しましたけど、第三世代の異邦人だってシズクさんは言ってました。ただ――」
『ただ?』
× × ×
ドラゴンの“力”を得たタカシは城下町で破壊のかぎりを尽くしていた。タカシの能力“食肉同値”は、取り込んだ相手の力を自分のものにするという能力であり、今まで“6人”この能力で取り込んでいた。
しかしその大半がその辺の一般人であった。そのため特に今までステータスにプラスに作用することはなかった。しかし守護竜の力は素晴らしく、タカシの身体を“異形”なものに作り替えるほどであった。
城下町に残っていた、現体制派・クーデター派の兵士それぞれが、町を襲うタカシへと力を合わせて立ち向かっていった。しかし彼らは全く敵うことができず、やられていく。そして何よりも先ほど町を破壊していた守護竜と比べ、“悪意”がタカシには存在した。
「あははははは!!!」
タカシは笑いながら避難所と思われる箇所に光線を乱射する。周囲からは火の手が上がり、悲鳴がこだまする。先ほどの守護竜はあくまでクーデター派と、それに与した(と思われる)民衆が攻撃対象だった。しかしタカシは違う。自分以外の全ての人間が攻撃対象で、なにより守護竜より“知恵”が回っていた。
「ざまーみろ!ざまーみろ!ざまーみろ!」
タカシの目の前で、逃げ遅れた母親とその小さな息子が倒れていた。息子はぐったりとしている母親に声をかけ続ける。
「お母さん!起きて……お母さん!」
母親は微かに動いていてはいたが、身動きが取れなくなっており、掠れた声で息子へと言った。
「逃げて……お前だけでも……お願い……」
それを見てタカシは醜く唇を歪ませる。そしてその親子を踏みつぶそうと右足を上げたその時だった。タカシの顔面に衝撃が走り、タカシはバランスを崩して倒れる。親子は何が起こったのか理解が出来ず辺りを見回した。するとしばらくしてから金属音が近くで鳴り響き、その方向を見ると巨大な大鎌が地面に転がっていた。
「な……なんだクソ……!」
タカシは体勢を立て直して立ち上がると、目の前の建物の屋根の上に、黒い人型の影が月明りに照らされているのが見えた。そして転がっていた大鎌が消えると、その黒い影――ユウキの手元に大鎌が現れる。
「…………俺がこの世界に来た意味、それが今、完全にわかったよ」
先ほどのアンジュとの会話で、ユウキは自分が“不具合”から生まれた存在であること、ステータスに異常を起こしており、この“力”を手にしたことを知った。そしてここに来るまでにタカシによる破壊の跡、そしてたくさんの犠牲者を目にしてきた。
「俺はアオイを守るためにこの世界に来たと思っていた。それも正しいんだろう。……だけどそれだけじゃなかった」
ユウキの胸にはかつてない“怒り”が渦巻いていた。自らの意思で、悪意を持って破壊をもたらしたタカシ――“異邦人”の存在が許せなかった。そしてシズクが“異邦人キラー”と呼ばれていた事が頭に浮かぶ。
「…………俺がこの世界に来た理由。それは“お前ら”のようなヤツを狩るためだったんだ。そうだ、俺は今日から……」
ユウキの背後には満月が輝いており、その光と全身を包むマントによって、ユウキの身体は陰になって隠れていた。しかし大鎌は艶めかしく光っており、その姿は誰の目にも“死神”を想起させるものであった。そしてユウキはその姿に違わぬ、重く暗い声で言い放った。
「”異邦人狩り”だ」




