第11話-③
ユウキとシズクは城の廊下で対峙していた。ユウキの後ろではコニールがクーデター派の兵士たちに対して演説を行っており、そして正面にいるシズクはそれを止めるために飛びかかろうとしていた。
(これがシーラの言う作戦か……。あとは他にもいくつかあるけど、果たして上手くいくか……)
シーラの作戦とは、シズクの目の前でクーデターを阻止しようとすることで、慌てさせることだった。クーデター成功の有無はシズクにとっても重要なはずであり、目の前で計画が破綻させられる事になれば、ユウキとの戦いに集中しきれないだろうというものだった。
そしてそれは成功しており、シズクは明らかに集中力を欠き、目の前のユウキが目に入っていなかった。そしてユウキがシズクの道を塞ごうとすると、シズクはブチ切れながらユウキに向かっていく。
「邪魔すんじゃねえーーーっっっ!!! ぶっ殺すぞ!!!」
ユウキは大鎌を構えながらシズクに言い返す。
「通しませんよ。そしてあんたをここで止める」
ユウキはシズクに対して大鎌を振るった。しかしシズクはそれを難なく避け、そしてユウキの側頭部に当身を叩きこむ。思わぬ衝撃をくらったユウキは目から火花を散らした。
「な……!?」
ユウキは体勢を崩し、シズクはすかさず今度はユウキの顔面に突きを叩きこむ。
「私が君に遊びで掛けてた合気道はさぁ……あくまで投げや関節技しかしてなかったけど、合気道だって武術なんだから当身くらいあるわよ……。まぁ当時は使うなって言われてたけどさぁ!」
ユウキの顔面にパンチが何発も叩きこまれていく。ユウキは防ぐこともできずに全部もらってしまう。そしてグロッキーになり、シズクはその隙にユウキの手首を掴もうとする。
「なんか私を止めるって言ってたけど、何にも出来なかったじゃない!」
しかしシズクは掴む直前、何かに気づいて動きを止める。そしてコニールを止めようと慌てていたのにも関わらず、その場から飛び退いた。
「まさか……! いや、そんな……!」
「……ちっ」
自分の手首を掴まれなかったユウキは”舌打ち”をし、フラフラだった足下をシャンとさせ、まっすぐに立った。そして口から血反吐を地面に吐きながら言う。
「ぺっ!……マントで上手く隠せてると思ったのに、気づきますか……」
ユウキの手首には厚手のリストバンドが巻かれていた。
「そう。鈴木先輩の予想通りですよ。このリストバンドには”針”が仕込んである。普段は見えてないけど……」
ユウキはリストバンドを押し込むと、中から針が飛び出した。
「こうやって針が出るようにね。掴んでビックリしたらその隙を突こうと思ったのに……」
「そりゃ、昼に会った時はつけてなかったから疑うけどね……」
このリストバンドの作戦は、ユウキの発案であった。とはいっても仕組みはごく単純で、厚手のリストバンドの中に針を折って仕込んだだけのものであった。ユウキが中学生の頃にシズクの合気道を遊びで掛けられたことがあり、その際に手首を取る技が多かった上に、肩を折られた時も手首から取られた事を思い出してのものだった。
ユウキは不敵に微笑むが、それとは裏腹に殴られた顔がどんどん腫れてきていた。そして背後から銃声が鳴り響き、ビックリして後ろを見る。すると兵士たちが何人か倒れ、銃を持った兵士だけが立っていた。
「銃!?」
ユウキは兵士たちが持っている銃を見て驚く。ここまで多くの兵士たちを見てきたが、銃を持っている兵士は一人も見たことがなかった。となると、あれはこの世界の物ではなく――。
「異邦人が作った銃ってことですか……!」
「ピンポーン。正解」
コニールも銃に衝撃を受け退いてきており、ユウキと背中合わせの状態になる。そしてユウキとコニールで少し話し込んだのち、コニールは銃を持った兵士たちに突っ込んでいった。ユウキは再びシズクに向き直る。
「く……」
なおも自分に向かって来ようとするユウキを見て、シズクは余裕の笑みを浮かべる。
「ふふ……まだ無駄なのがわからないの? ここまで、君の攻撃が私に一発も当たっていないことくらい、流石に理解してるよね?」
「まだまだ……! このくらいじゃ……!」
そして次の瞬間、轟音が外から響いて来た。それはアオイがインチとの戦いで床を瞬間移動させた音であったが、その音に驚いたシズクは、思わず音の方向へと振り向いてしまう。
「な……何の音!?」
そしてユウキはその瞬間を見逃さなかった。なぜなら今の音はシーラが立てた”作戦”の一つだったからだ。ユウキが目にも止まらぬ早さで突っ込んでくるのを”ようやく”確認できたシズクは慌てて防御の姿勢を取る。
「しまっ……!」
ユウキの鎌がシズクのガードした腕に当たる。そしてユウキは思いっきりその鎌を振りぬいた。
「うおおおっ!」
シズクは思いっきり鎌に振り回される形になり、近くの壁に激突する。
「がはっ……!」
シズクは口から反吐は吐いたものの、致命傷というわけではなく、壁にはじかれた後は中腰ながらも倒れることなく立っていた。
「浅かった……か!」
ユウキは今の一撃で倒せなったことに強い焦りを覚えた。なぜなら本来の作戦では今の一撃で決めなければならなかったからだ。そしてこの一撃で決め切れなかった代償は――。
「……なるほど。さっきの音も、私の”能力”も、全部計算のうちって事か……」
シズクは先ほどまでの焦りも、舐めた態度も見せること無く、淡々とユウキに言い放った。
「女の方のユウキ君と合流する前に、ロマンディの孫と打ち合わせでもしてあったのかな? ”戦いの最中”に轟音を鳴らすからそれを陽動に使えって。あと……私の”同調能力”の仕組みはどこでわかる機会があったのやら……マイルの奴が脅されて漏らしたのかな?」
そのシズクの変貌を見て、ユウキは冷や汗が額に流れるのを感じた。シズクの推察がほぼ正解だった。シズクの能力に関しては、シーラが玉座の間でのユウキとシズクの戦いを見て、ほぼ間違いがない推理をしていた。
玉座の間での闘いの際、シーラはユウキの動きがいつもより”遅く”感じたこと。そしてアオイに平手打ちをした際の”威力”に違和感を感じていた。特に後者に関しては、ユウキが普段から力の加減にかなりの苦心をしていたのを見ていたこともあり、ユウキを圧倒したにしては常識の範囲内の平手打ちであることに違和感があった。
そして脱出する際も、ユウキはシズクから離れたらいつも通りの動きを取り戻していたこともあり、その能力への推理を積み立上げた。事実、シズクの能力は『対面している相手のステータスを同じにする』能力であり、シズクの注意をそらす作戦を多く用意したことも、シズクの注意が逸れればそれだけ、ユウキが元の力を取り戻せるだろうという物であった。
しかしシズクにトドメを刺す前に、ユウキ達がシズクの能力に気づいたことに、シズクに気づかれてしまった。さらにコニールの方もウェインを倒してしまっており、作戦通りにいけばクーデターはもう終結に向かってしまっていた。その様子を見て、シズクはため息をつく。
「あーあ……まさか結城君に全部メチャクチャにされるなんて……。この計画、1年前から準備してたんだけどな……」
ユウキはアオイ達の姿を探す。向こうもすでに静かになっていたが、ユウキはアオイの勝利を確信していた。そして背後のコニールの方もすでに終わって、兵士たちが散らばり始めていた。ユウキはシズクに懇願するように言う。
「鈴木先輩……! もう辞めましょうよ……! これ以上、鈴木先輩にだって戦う理由は無いでしょう!? 俺だって……もう戦う意思は無いんだ!」
「理由……? 意思……?」
シズクが顔を俯かせると、その後に高笑いして顔を上げた。
「あっはっはっは! 理由なんていくらでもあるわよ! 例えば……君をぶっ殺したい気持ちとかさぁ!」
シズクはユウキに向かっていく。ユウキは大鎌を出してシズクを迎撃しようとする。しかしシズクは冷静にその様子を見ていた。
「どういう魔法を使ってるかわからないけど、ギフト能力とは関係なしにその大鎌を出せるみたいだね。……そして考えられてもいる。私とステータスが同じになったとしても、”私”のステータスで、その鎌を振るうだけの力はあるだろうと。……でもね」
シズクはユウキの大鎌を弾き、ユウキの肩を掴んだ。ユウキは関節技を掛けられると思い、その手を払いのけようとする。しかしその瞬間、ユウキの腹部にシズクの拳がめり込み、ユウキは後方へと吹っ飛ばされる。
「げっほっ!」
吹っ飛んでいくユウキをシズクは追いかける。
「そんな大鎌! 同格の相手に1対1で使えるわけないでしょう! 今まで何の努力もしてない君と! 今までずっと努力してきた私が! 対等に戦えるはずないだろうがぁああああ!」
ユウキはさらにシズクから殴打をもらい、体勢を立て直すためにさらに下がろうとする。そして近くにあったドアを開けると、そこには広い空間が広がっていた。
「ここは……」
ユウキは辺りを見回すと、その光景には見覚えがあった。多くの人を出迎える為であろうスペース、壊れた天井、そしてボロボロになった”玉座”には誰も座っていなかった。
「玉座の間か……! 王様含め誰もいないのは、皆逃げ出しちゃったのか……?」
ユウキは左肩に痛みを感じたかのように抑える。追い付いたシズクもそこがどこだか理解すると、笑みを浮かべた。
「おあつらえ向きな場所じゃない。昼間に君の肩をブチ折ったこの場所で、今度は邪魔も入らないで決着をつけましょうか……!」
「どうして……」
ユウキはずっと疑問に思っていたことを口に出した。
「どうしてそんなに俺やアオイが憎いんですか!? 俺が知ってる鈴木先輩はもっと……優しい人だったはずだ!」
ユウキに質問をすると、シズクの目に強い憎しみの炎が灯った。
「勘違いしないでくれる? 私が嫌いなのは”男”。そして何の努力もしてないのに、力を得ているような男には最高に虫唾が走るのよ……! 特にお前みたいななぁ!」
「……何があったんです? 一体何が……」
「ふっ……そうね……。もうアンジュとかには話したことあるし……」
シズクは壊れた天井から刺し込む月の光を眺める。今日は満月ということもあり、月の光が強く輝いていた。
「ノータリンながらここまで頑張ってきたご褒美として、少し話してあげようか。私がどうやってこの世界に来たか……」




