第11話-①
コニールとウェインは玉座の間の前の廊下で対峙しており、兵士たちは下がって息を飲んでいた。コニールがエドワード王子の死体を見つけたのは1時間ほど前の話だった。アオイを探すためにまずシズクを探す形を取り、そのためにまず最前線の兵士を一人捕らえようとした時だった。
コニールが知っている王家の隠し通路を進んで最上階に行こうとしたところ、ウェインが隠したエドワード王子の死体を見つける形となってしまった。そこからシーラが頭をフル回転させ『シズクを倒す為の作戦』を考えだし、エドワード王子の死体を運んでクーデター派の前に立つことになった。
(……“クーデターを止める”が主目的じゃないのが、全くシーラらしいけどさ……)
コニールはその場にいる全員の注目を集めながら、次の作戦を実行するために大声で叫ぶ。
「エドワード王子は“敵に討たれた”! そして私は……先ほどにエドワード王子に求婚されており、その申し出を受けるつもりだった!」
その言葉を聞いてウェインの表情が凍り付き、兵士たちの間に更にどよめきが走る。
「私は……エドワード王子の意志を継ぎ、君たちを率いろうと思う! ついてきてくれるか!」
兵士たちは雄たけびと歓声を上げる。それを見てウェインは心の中で必死に考える。
(バカな……! 一体何が起きているんだ……!? 私が率いてルシアン王を討つはずだったのに、いつの間にかコニールが……!?)
困惑するウェインを見て、コニールは唇をゆがめた。そして剣をウェインに突き付け、兵士たちへと叫ぶ。
「まずは裏切り者の始末からだ! エドワード王子が討たれたのは、そこにいるウェインが王子を裏切ったからだ!」
突然の発言にウェインは絶句する。
「な……!」
ウェインが裏切り者と聞き、兵士たちは困惑してしまう。大多数の兵士は異邦人の事も知らない、エドワード王子についていっただけの者たちであった。
それでもコニールがすぐに受け入れられたのは、コニールが国民に“人気があった”から。対してウェインはエリートとして憧れの対象ではあったが、コニール程の人気はなかった。そしてその衝撃をコニールは――シーラは狙っていたのだった。コニールは冷や汗を流しながら、それを表情には出さずに心の中で思う。
(守護竜倒しちゃって、もうこの国にはいられないから何やったっていいだろ、って言うけどこれはやりすぎだろ……! シーラにもっと考えてくれって言ったの私だけどさぁ……あの子は将来犯罪者になるというか、もう手遅れなレベルで犯罪犯してそうだ……)
エドワード王子の死体を見つけた時、すぐにウェインの仕業だとコニールは察した。そしてコニールがエドワードに求婚されていた事、最前線にいる連中は、コニールが守護竜討伐に関わっていることを“知らない”ことにシーラは気づき、この悪魔的な策略を思いついた。
兵士の一人がコニールの命令を聞いてウェインを捕らえようとする。しかし別の兵士はその兵士を止めた。
「おい、お前……!」
「で……でもコニール様が……!」
「コニール様が嘘ついている事とかを考えないのか!?」
兵士たちの間で動揺と不信が広がり始める。シーラはウェインが少なくとも計画を明かしている腹心がいることを看破していた。そしてそうであれば、このような事態になった際に、ウェイン側に付く兵士と、そうでない大多数の兵士で“仲間割れ”が起こることも。
そして動揺が集団の中に広がりきり、クーデター派は今度は“コニール派”と“ウェイン派”で争い始めてしまった。ウェインはそれを見て止めようと叫ぶ。
「何をしているお前ら! 辞めろ!」
しかし声は届くことなく、争いは更に過激さを増していく。そんな中、コニールはウェインの目の前にまで歩いてきていた。
「……終わりです、ウェイン。……あなたが野心から今回のクーデターに参加し、エドワード王子を暗殺したのでしょうが、それがあなたのミスだった」
ウェインは俯き、肩を震わせる。
「く……く……!」
「…………ウェイン。もう辞めよう?」
コニールがウェインの肩に手を置こうとした瞬間、破裂音が響き渡った。その聞いたこともない甲高い破裂音に、コニールは慌てて飛び退く。
「何が起こったんだ!?」
そして“コニール派”の兵士たちが倒れていき、残りはその音と威力に恐れをなして逃げ出していく。そして10人ほどの“ウェイン派”の兵士だけが立っていた。彼らはそれぞれ、手に“筒状の長い棒”を持っていた。
「く……クハハハハハ!!!」
ウェインは高笑いし、自身も懐から筒を取り出す。
「素晴らしい……素晴らしいじゃないか……! さすがは異邦人の“技術”だ……!」
コニールは脂汗を額から流しながらつぶやく。
「何なんだあれは……!」
「あれは……“銃”です……!」
コニールの背後から声が聞こえて振り向くと、そこにはマントのフードが捲れ、顔がパンパンに腫れあがったユウキがいた。その顔を見てコニールは思わず声をかける。
「だ……大丈夫か?」
ユウキは腫れあがった顔でモゴモゴと喋りづらそうにしながらも答えた。
「大丈夫れふ……。ですが、あの銃はヤバい……! 見た感じ、なんか100年前くらいの単発式の銃みたいですけど、あれで撃たれたら一発で致命傷です……!」
「撃たれたらってことは、飛び道具ってことか……」
それを聞いてコニールは前へと歩き出していく。ユウキは驚いてコニールに叫んだ。
「何やってるんすか! 出てくる弾は音より早いんですよ! 撃たれたら……!」
「私の事より君の方が大変だろう!? 大丈夫、上手くやるよ!」
コニールが突っ込んでくるのを見て、ウェインは顔を強張らせる。
「何を考えてるコニール! 撃たれたらお前は……!」
そのウェインの表情を見て、コニールは勝ち気に微笑んだ。
「死ぬんでしょう! わかってますよ! ……当たるんだったらね!」
兵士達は発砲するが、コニールは一発も当たらずに距離を詰め、銃を構えた兵士たちの懐にもぐりこんだ。そして流れるような動作で切り払うと、10人もの兵士が瞬く間に倒れていった。
「コニール……貴様……!」
「最近本当に忘れられがちなんですけど、私は“天才“なんでね。そんな扱い慣れてない武器を向けられようが、対処は簡単なんですよ」
ウェインは銃を捨て、剣を取り出すとコニールに向けて構えた。
「何故だ!? なぜこんな理にかなってないことをする!? 君がここで戦う理由がどこにあるというんだ!?」
「何故って……」
コニールは頭を掻きながら答えた。
「何故なんでしょうね?」
「はぁ!?」
コニールの答えにウェインは絶句する。しかしコニールは気にせずに答えを続けた。
「あの子たちとは一週間前に会ったばっかだし、お金がもらえるわけでもないし、別に恋愛関係にもあるわけでもないし。……むしろ恋愛関係だったのはそちらの方ではあるんですが」
しかし言葉とは裏腹にコニールの剣を持つ手は迷いなく力強く握られていた。
「……でも、人が生きるのはそれだけじゃないって気づかされたんですよね。私は『私が正しいと思ったことを信じて生きる』。24年生きてきて、上手く言語化できなかった私の生き方を、“あの子たち”が1週間で気づかせてくれたから」
コニールの言葉を聞いて、ウェインは青筋を浮かばせながら怒鳴った。
「そんな青臭い理屈! そんなのはお前が天才で、容姿端麗で、どうとでも生きれるからだろう! どうせここで負けても、お情けで私に助けてもらえればと思っているんじゃないか!?」
「かもね。……それもシーラから気づかされた」
コニールはシーラの敵意を持った態度の裏に隠されたものに気づきかけていた。詳細な事情は知らないが、嫉妬と敬意が複雑に織り交ざった感情が見え隠れしていた。
「だから、これが終わったら一度あの子と二人きりで食事を取ってみるよ。案外、気が合いそうだからさ」
勝手に一人で結論づけているコニールを見て、とうとうウェインはこらえきれずに飛び出した。
「貴様はぁぁぁぁ!!!」
コニールは冷静に、そして冷徹にウェインの剣筋を見切ると、後頭部に剣を叩きこんだ。
「……訓練用の“不殺魔法”がかかった剣です。ユウキ君の前で人を殺すなんてできるだけしたくありませんから」
ウェインは白目をむいてその場に倒れる。そして先ほどの銃撃で散っていった兵がコニールの下に集い始めた。
「コニール様……!」
「俺たちはどうすればいいんですか!?」
コニールは次の命令を求める兵士たちを見て、深くため息をついた後、兵士たちに言った。
「じゃ、クーデターはもう終わりで」
「「「ええ!?」」」
驚愕する兵士たちにコニールは更に命令を下した。
「これから君たちに命令するのは、同じことを“全ての兵士”に伝えることだ。なに、ここで終わったからと言って君たちが罰せられることはない。ルシアン王はもう守護竜まで失って権威は失墜し、エドワード王子も亡くなっているのだから。私が“責任”を取るだけだ」
「そんな……コニール様……!」
兵士は心配そうな目でコニールを見るが、コニールは気丈にふるまった。
「大丈夫だよ。それよりもまずは目の前の事だ。ほら、行った行った!」
「「「は!」」」
兵士たちは敬礼して散っていく。それを見てコニールは顔には出さずに首より下から冷や汗ダラダラになりながら心の中で呟いた。
(これで“指名手配”確定か……。全く関わってないのにクーデターの実行犯にまでなってしまった……。だけど……まぁ……それでもいいか。なんていうか心が……軽やかだ)




