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第10話-④

 クーデター派は玉座の前にまで侵攻し、エドワード王子はその最前線にいた。守護竜は”異邦人”が倒し、抵抗する現体制派はほぼもう制圧しきっており、エドワードの玉座はもう目の前にあった。


 そしてあとは玉座の間の扉を破るだけのところまで進んだところで、エドワードのところへウェインが駆け付ける。そしてウェインは息を切らしながら、敬礼をしてエドワードに言う。


「王子! 緊急の報告がございます!」


「どうした」


 エドワードは報告させようとするが、ウェインは周囲を見渡す。ウェインが伝令を使わず”自分で”報告に来たということから、機密性と緊急性の高い情報を報告しに来たと判断した。


「わかった。そこの部屋にはいるぞ。おい! 中から待機中の兵を全て外に出せ!」


 エドワードは近くに陣取っていた部屋にウェインと共に入っていく。そして中の安全を確認するためにウェインが先に入り、エドワードが続いて入る。そして誰も入ってこないようにエドワードは鍵を閉めた。


「うむ。それで報告とは……」


 しかし次の瞬間、ウェインはエドワードの口を塞ぎ、喉にナイフを刃を通した。突然の奇襲にエドワードは声を上げることもできず、絶望に満ちた目をウェインへ向ける。ウェインは唇を歪ませながらエドワードに囁いた。


「私は別にルシアン王の支配体制さえ壊せればよかった。別にあなたが侵略戦争を企もうが、異邦人と組もうがどうでもいい。……だが”あの女”を貴方に渡すことなんで私は聞いていない……!」


「が……! ……ぐ……!?」


 ウェインはエドワードがコニールを妃にしようとしていた事に言及していた。あの場でエドワードがウェインに話を通しているというのは”嘘”であった。エドワードはそれぐらいのことは事後承諾で問題ないだろうと、高をくくっていた。


 しかしウェインの執着心はエドワードの想像を超えていた。エドワードは何かを言おうと口をモゴモゴとさせるが、それを察したウェインが嘲笑しながら言う。


「ああ、大丈夫ですよ。ここで貴方がいなくなっても、戦場ですからいくらでも言い訳は効きます。それにこの部屋にも王家しかしらない”隠し通路”がありますから、貴方の死体にはしばらくそこにいてもらい、全部終わった後に出てきてもらいます」


 エドワードの動きが弱くなり、ウェインはエドワードの口から手を離して、取り出したハンカチで手を拭き始めた。


「それに貴方の部下が”必要以上”に城下町で暴れましたからね。ここで貴方が死んでも、その後継者が貴方の地位を受け継ぐのに、文句を言う民衆もいないでしょう……それもあなたがやっていたことだ」


 エドワードの動きが止まり、目を開けたまま呼吸も止まった。それを見てウェインは近くの本棚を操作して、隠し通路への入口を開ける。そしてどこにエドワード王子の死体を投げ捨てた。


「さようならエドワード王子」


 ウェインは隠し通路の扉を閉めると部屋を出る。


「ウェイン隊長!……エドワード王子はどこへ!?」


 周囲の兵士たちはエドワードとウェインが一緒に入って、ウェインしか出てこなかったことに疑問を抱く。しかしウェインは惑う兵士たちに檄を送った。


「聞け! 兵士たちよ! エドワード王子は火急の用の為に一度城を出ることになった!ここから先は私が指揮をとる! 我らの手でルシアン王を討ち取り、エドワード王子への土産とするのだ!」


 兵士たちは士気を上げて雄たけびを上げる。その様子をウェインは心の中でほくそ笑みながら見ていた。――これで次の”王”は私だ。と


× × ×


 シズクは忙しく城内を走り回っていた。ユウキ含むはぐれ異邦人の討伐を命じていたマイルとの連絡が取れなくなり、自分たちで倒すはずだった守護竜が、いつの間にか倒されていた。この2つはおそらくユウキ一行がやったものと判断せざる得なかった。何をどうやったのか理解はできないが、そうとしか考えられなかった。


 そしてシズクはそれを確認するためにアオイを閉じ込めた地下の牢屋に行こうとした。しかし地下への階段を降りていく中で、扉が不自然な外れ方をしていた。それと見てアオイは嫌な予感がして階段を駆け降りていく。そこには服が焼け焦げて上半身裸のインチと、空の牢屋だけがあった。


「おい……何があったの!? 結城君はどこに行った!」


 シズクが詰め寄ると、インチはしどろもどろになりながら答える。


「あの……その……アイツ能力だけじゃないくて、魔法も使いやがって……! 拘束を焼き切って、俺にも魔法をぶつけて逃げていきやがった……!」


 アオイがいた牢屋には焼き焦げたタオルの破片があり、インチの服の焼き焦げも辺りに散らばっていた。シズクは苛立ちをぶつけるように、近くのテーブルをぶん殴る。テーブルは殴られた箇所から真っ二つに折れ、インチはその威力を見て息を飲んだ。シズクは表情を見せないように俯きながらインチに言う。


「…………男の方の結城君がもう城内に入ってきている。女の方はマップに載らないからどこにいるかわからないけど、男の方はマップに載っている。あの子一人でここまで来れるとは考えづらいから、コニールとロマンディの孫も一緒にいるはずだ」


 シズクは顔を上げる。その顔には怒りが張り付いており、インチは全身の体温が下がるのを実感した。


「……つまりお前は能力を使って女の方の結城君を探せ。もう失敗は許さない。”アンジュ”も連れて本気で身柄を押さえてこい。……わかったか?」


 インチは体格が一回りも小さいシズクに本気の恐怖を抱いて返事をした。


「は……はい!」


 インチは牢屋から駆け出していく。アオイは散らばっているインチの服の破片を掴むと、それを握りつぶした。


「……魔法だってそう簡単に覚えられるようなもんじゃないはずだ。つまり、異邦人としてのステータスが魔法の習得をアシストしたんだ。ずるい、ずるい、ずるい、ずるい……!」


× × ×


 アオイは上の玉座の間に向かうことにした。確かに敵地のど真ん中に行くことになるが、その分ユウキ達にもわかりやすいはずだ、と思ってのことだった。道中、何度か兵士たちとはスレ違うものの、見た目でわかりやすいユウキやコニールと違って、ただの女の子ということもあり、殆どスルーされていた。


 そして玉座の間がある最上階へとたどり着く。流石にここからは下手に兵士に見つかるとマズいと思い、近くにあった部屋に一旦身を隠す。


「ふぅ……あとはここからどうやってユウキ達と連絡を取ろうか……」


 アオイが隠れた部屋はゲスト用の寝室だった。もう深夜ということもあり、中は薄暗くなっていた。ベッドの横に外を覗く窓があり、アオイは一旦外の様子も確認しようと窓へと近づいていく。


 そして窓に手を駆けた瞬間、寝室のドアが思いっきり蹴破られる。そこには筋骨隆々の男と、ロングの緑髪の女性が立っていた。


「見つけたぜぇ……!」


「な……! インチと……確かシーラと同じ学校のアンジュ!?」


 現れたのはインチとアンジュだった。インチの能力を知らないアオイは何故見つかったのかわからずにパニックに陥る。


「なんで!? 何がどうして見つかったの!?」


 アオイは右手をインチに向け、魔力を右手に集中させる。


「ファイエル!」


 アオイは火炎魔法を放つが、それはインチの目の前で霧のように散っていった。


「え!?」


 インチの目の前に防御陣が展開しており、隣のアンジュが杖を片手に前面に魔法を放っていた。


「驚いた……! 魔法学校にも通っていないだろうに、その威力の魔法を使えるなんて……!」


 アンジュはアオイの魔法の威力に驚いていたが、それだけだった。


「ま……。ド素人なのは間違いなさそうだけどね。さっきインチから聞いたけど、慣れてもないのに同じような威力の魔法を二度も続けて打ってたら……!」


 アオイの鼻から何か生暖かいものが垂れる。アオイはとっさにその液体を手で拭うと、手が真っ赤に染まっていた。膝からも力が抜け、その場にうずくまる。


「が……! 何が起こったの……!?」


 真っ赤になった自分の手を見るアオイに、アンジュは意地悪い声で言った。


「魔力切れよ。あんただって無理して走ったら体力は無くなるし、ゲロも吐くでしょう? それとおんなじ。魔力を使いすぎて体調を崩してんのよ」


 近づいてくるインチに抵抗しようと、アオイは近くの机を左手で触って瞬間移動を行う。しかしインチは身体全体に力を込めると、自分の目の前に飛んできた机を身体で弾き飛ばしてしまう。


「はーっ! さっき言っただろう! お前の瞬間移動なんて、気合入れてれば簡単に弾けるってなぁ!」


 インチはアオイに左手を触らせないように組みつこうとする。――インチの名前は大沢篤。総合格闘技の元プロ格闘家だった。素人の、それも女の子を抵抗させずに組み伏せることは、インチにとって造作ないことだった。


 ――アオイは最後の賭けに出た。アオイは近くの壁を左手で触る。だがインチは何を飛ばされても問題ないとばかりに足を止めることはなかった。


「何しても無駄だって言って……!」


 だがアオイは右手をインチではなく、外に向けた。そして”壁そのもの”を瞬間移動させ、壁は遥か空中へと瞬間移動し、地面に落ちて轟音を響かせる。更にアオイは最後の魔力を振り絞って、近くのベッドに火炎魔法を放った。


 ベッドは燃え上がり始めるものの、インチはその行動の意味が理解できずに足を止め、首をかしげる。


「何してんだお前……」


 だがそれはアオイが信じた”奇跡”が実ることに繋がった。近くの部屋の窓が蹴破られ”黒い影”がその窓から飛んでくる。そしてアオイの背後には”壁がなく”、その黒い影は何にも遮られることなくアオイの下まで飛んできた。そしてその黒い影――ユウキはアオイに微笑みかける。


「確かに……そうすれば場所は一発でわかるな……”アオイ”」


「追い詰められた末の賭けだったけどね……”ユウキ”」


 アンジュの後ろから黒髪の女性が現れる。その姿を見たアンジュは顔をひきつらせながら、声をかけた。


「シ……シズク様!? どうしてここに!?」


「スマホのマップで男の方の結城君を追ってたらね……。あんな派手なことしたら、そりゃ合流しちゃうか……!」


 ユウキの背後から茶色の髪の少女が姿を現す。


「姉さん……無事ですか!」


 その顔を見てアンジュはさらに驚いた。


「あんたは……! シーラ……!」


「アンジュか……! それにスズキセンパイともう一人の異邦人も……!」


 轟音が鳴り響き、城の壁がえぐれるように消え、しかも火の手が上がり始めた事もあって、周囲にいたクーデター派もその異常に気づく。そして兵士たちがこの寝室に駆け付けてきているのが、消えた壁の向こうからも見えていた。それを見てシズクは不敵に微笑む。


「さて……感動の再会といったところだけど、こっからどうする気? 兵士たちもじきに駆け付けてくる。しかも見たところ女の方の結城君は体調が悪そうだし。何よりもう今度は逃がすつもりもない……!」


「そんなん決まってるじゃん」


 シーラはシズクに負けないほどに、不敵な笑みを見せつける。


「お前ら全員、ここでぶっ倒す。残念ながら、こちとら”無策”で来たわけじゃないんでね」


 廊下を駆け付けてきている兵士たちの動きが止まる。兵士たちの前にはコニールが剣を持って立ち塞がっていた。そして傍らにはエドワード王子の死体も転がっている。動揺する兵士たちとかき分けて、ウェインがコニールと対峙していた。


 ユウキはシーラを背中から降ろすと、シーラはうずくまっているアオイに駆け寄る。そして鼻血を垂らしているのを見て絶句するが、アオイは微笑みをシーラに向けた。


「へへへ……魔法、使えるようになったよ」


「姉さん……!」


 シーラはアオイに肩を貸して一緒に立ち上がる。そしてユウキに顔を向けて言った。


「あの筋肉野郎とアンジュは私と姉さんでやります。兄さんは、あのスズキセンパイを頼みます!」


「ああ……」


 ユウキは右手から大鎌を出現させる。それを見てユウキとシーラ以外の面々が驚いた表情を浮かべた。


「ユウキ!? それは!?」


「ちょっと説明すると時間がかかるからまた後でになるけど……」


 そしてユウキは大鎌をシズクに向ける。


「今度こそ、鈴木先輩を止めてみせる。だからアオイ……お前もやられんなよ!?」


 ユウキはアオイに手を伸ばす。アオイもそれに応えるようにユウキに手を伸ばし、拳を付き合わせた。


「ええ、ユウキもやられないでよね!」


 時間は深夜0時を回り、寝室の時計の時を告げる音がボーンと鳴った。それはユウキとシズク。アオイ・シーラとインチ・アンジュ。そしてコニールとウェイン、それぞれの戦いのゴングを鳴らすかのようであった。

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