第9話-④
ユウキ達はクーデター派の拠点へと向かっていた。外はもう完全に夜になっており、通りの民家も全て人が避難しているために灯りは無く、月明りが道を照らしていた。
異邦人としてのステータスがあるユウキと、騎士として身体を鍛えているコニールに比べ、シーラは体力で大幅に劣るため、ユウキが背負って走る形とっていた。
コニールが事前に偵察を行っていたこともあり、クーデター派の拠点がどの辺にあるかはおおまかな予想がついていた。
「だいたい商店街の箇所だ。……略奪するための物資が大量に転がっているからね」
コニールは走りながらユウキに言う。ユウキはシーラを背負いながら走っていたが、全く息を切らさずに答えた。
「了解です。……ただ向こうは、俺の接近に気づいちゃうのかな。スマホで俺の位置がわかるみたいだし」
シーラはユウキの背中から質問に答えた。
「そこは現地の様子を見て判断するしかないっすね。……ところで今更の疑問なんですが」
「何だ?」
シーラは自分が腕を回しているユウキの肩を見ながら言う。
「兄さんが骨折して宿屋で休んでいた時、まだ肩治ってなかったはずじゃないですか。なのに何で兄さんは動き回れたんでしょうね」
「そりゃあ……まぁ……」
ユウキも答えに悩むが、コニールが代わりに答えた。
「ギフト能力だろう。……モモさんの」
「ああ……」
シーラはモモの能力の事を、考えから完全に外していた。
「確かにそうか。なんだろう、単純に傷を治す能力、って感じなのかな」
コニールは肯首せずに答える。
「そうかもしれないけど、決めつけるのはよくないな。……というかシーラ。君、なんかヤケに頭の回転が遅くなってないか?どうした?」
「いや……」
シーラは赤面しながらゴニョゴニョと呟く。
「だって……こうやって男の人に密着するなんて初めてだから……」
それをよりによって耳元で囁かれる形になったユウキは足を止め、前かがみになった。急に足を止めたユウキをシーラは心配する。
「ど……どうしたんすか兄さん!?」
「い……いや……なんでもない……せっかく気にしないようにしてたのに……」
何が起こったか“大人”であるコニールだけが理解していた。
「まぁ……うん……ユウキ君の弱点がわかったけど、落ち着いたらさっさと……」
言葉の途中でコニールは表情を変え、周囲を見渡す。そのコニールのただならぬ雰囲気をユウキも察し、シーラを降ろして耳を澄ませた。そして周囲から複数の足音を拾った。
「囲まれてる……?」
「ほう……気づいたか」
ユウキ達が進もうとした道の正面から、一人の男が姿を現す。それと同時に周囲から兵士が20人ほど姿を現した。シーラは正面から現れた男の顔と眼鏡を見て、その名前を呼ぶ。
「あんたは確か……マイルとか言う……!」
「そうだよロマンディの孫。さっきはお前にしてやられたがな」
マイルはナイフを取り出すと、周りの兵士と共にユウキ達に詰めていく。
「だが、これだけの人数で囲めば“コニール一人”ではどうにもならないだろう?」
マイルは明らかにユウキを“戦力”として数えていなかった。おそらく周りの兵士にも同じことが伝えられているのか、臆せずにユウキ達へと詰めてくる。
(宿屋の件が伝わっていれば、兄さんがマントで戦うことができるって少しは警戒するだろうに……。その辺の情報共有が上手くいってないのか、もしくはそのマントすら失敗だったと知っているか……)
シーラは色々と考えたが、おそらく後者の可能性が高いと判断した。マントで攻撃した際もショックを受けて立ち尽くしているところを見られていたからだ。
(そしてやっぱり兄さんの位置は奴らには筒抜けな訳ね。……だけど、あのバカ眼鏡。マジで扱いやすくて助かるわ~。店や紋章の事はわかってないの丸わかりじゃない。とりあえず叔父さんやモモさんは安全だな……)
シーラは唇を歪めた。絶体絶命の状況にも関わらず、不敵に笑うシーラにマイルは苛立ちながら叫ぶ。
「何笑ってるんだ小娘! どういう状況なのかわかっているのか!?」
シーラが笑っていると聞き、ユウキとコニールもシーラの顔を覗き見る。すると確かにシーラは笑っており、それを見てユウキもコニールも安心を覚えた。
「なるほどね。……いつも通りのシーラに戻ったわけだ」
「この状況、なんとかする方法を思いついたわけだな」
シーラはユウキの背中を叩き、発破をかける。
「ええ。兄さん、ちょうどいい相手だ。”例の武器”をここで試しましょう」
「ああ……わかった!」
ユウキは右手を前に出す。それを見て、マイルはユウキをバカにするように言った。
「何をやっている! お前が他人に攻撃できないことは、ボスやインチを通じて知っているんだよ! そんな真似事をしたところで……!」
「来い!」
ユウキは右手に力を込めると、右手の先に光が走る。
「何っ!?」
マイルは聞いたこともないその現象に困惑するが、その間にユウキの右手には武器が――”大鎌”が出現していた。その刃の大きさは2m程と、ユウキの背よりも大きい代物だった。
おおよそ人間に扱いきれる大きさの物ではないが、ユウキは異邦人の”ステータス”の恩恵で、軽々とそれを手に持っていた。
「な……それがなんだと言うんだぁ!」
マイルはユウキに向かって突撃していく。それと同時の周囲の兵もユウキ達に向かっていく。
「シーラ、コニールさん!伏せて!」
ユウキはシーラ達に伏せるように指示をすると、シーラ達はすぐさま伏せた。
「るおおおおっっっ!!!」
そしてユウキは雄たけびを上げると、大鎌を1周するように振り回す。次の瞬間、襲い掛かってきた兵士たちは全員吹っ飛ばされ、かろうじて水を前面に出して防御したマイルだけが助かっていた。その光景を見てコニールは驚愕する。
「想像以上の破壊力だな……!」
ユウキは周囲の状況を確認する。周りの兵士たちは動かなくなっているが、血が出たり骨が折れたりといったことはユウキからの目線では確認できなかった。
実際、大鎌に掛かっている不殺魔法の影響で重傷を負った人間は誰もおらず、その衝撃で気絶しているだけであった。
(よし……! これなら行ける……!)
ユウキはショックを受けることなく、鎌を持ったままマイルへと詰めていく。今のユウキの一撃を受けてマイルは恐怖に陥り、後ずさっていく。
「ひ……ひ……!」
「お前に聞きたいことがある」
ユウキは後ずさっていくマイルに詰めながら尋ねる。
「さっきの宿屋で兵士に襲われた際……兵士に命令をしてたのはお前か?」
ユウキの質問にマイルは勢いよく頷いた。
「そ……そうだ! ボスが……シズクがお前ともう一人のはぐれ異邦人を、殺れと指示をしたんだ! あの女の指示で襲っただけだ!」
「鈴木先輩が……!」
ユウキはその言葉に軽いショックを覚える。だが気を取り直してさらに質問を続ける。
「あと、お前の仲間とかいうインチってやつの能力を教えろ。それを答えるのであれば、見逃してやるよ」
「何言ってんすか兄さん!?」
その言葉を聞いてシーラは驚くが、ユウキは気にせずに続けた。
「俺があの二人よりも優しくて甘いのは、お前もよく知ってるんだろ? ……逆に言えばそのことを知っているということは、そのインチのやつは何か情報を集める能力とか持っているんじゃないか……?」
「こ……答えられるか! 仲間の能力なんてそう簡単に……!」
ドン!という音が響き、マイルはその音を聞いて身体が硬直する。その音は、マイルの身体のすぐ横を大鎌が通り過ぎ、地面をえぐった音だった。ユウキはドスを効かせた声でマイルに言う。
「次は当てる」
その迫力に負け、マイルは涙を流しながら答える。
「わ……わかったぁ! インチの能力は”植物を操る”能力だ!お前らの動きを監視してたのも、インチがあの宿の周辺に草を植えて、情報を得られるようにしてたんだぁ!」
「そうか……」
ユウキは右手から大鎌を消すと、マイルに背を向けた。
「約束通りだ。能力を教えてもらったんだから見逃す。……さっさと行っちまえよ」
「「「……え?」」」
その場にいたマイル、シーラ、コニール全員が目を丸くした。マイルは恐る恐る尋ねる。
「……俺の言うことが嘘だとか、そういうことを一切考えないのか……!?」
ユウキは目を細めながらマイルに言い返す。
「え、嘘なの?」
「違う違う違う!本当だ!」
「じゃあそれで終わりじゃん。……さっさと行っちゃえよ」
マイルは恐る恐る下がろうとする。――しかし、シーラ達の足下に何かを見つけ、目に光りが戻る。
「わかった……それじゃあ……」
マイルは一気に後ろに飛びのいた。
「死ね!」
次の瞬間、シーラとコニールの足下から水が噴き出す。シーラは自分たちの足下を見て、声を上げた。
「しまった!? 点検口が!?」
シーラ達は近所一帯の給水路の点検口の上に立ってしまっていた。夜ということもあり、点検口に誰も気づかなかったのだったシーラもコニールは水に飲まれ溺れていく。
「あっはっはっは!どうだ! 俺の能力を忘れていたのか! 俺の”流水支配”は水を操る能力! こうやって多くの水の流れる箇所があるなら、俺は無敵なんだよ!」
「シーラ! コニールさん!」
ユウキは助けようと手を伸ばすが、水の勢いが非常に強く、ユウキまで水に飲み込まれそうになり、その場から避難する。しかしその間にもシーラ達は呼吸もできずにもがいていた。
「くそっ……!」
ユウキはマイル本体を止めようとするが、マイルはすでに大量の水で自分の周りに結界を作っていた。もし足を踏み入れてしまえば、ユウキもシーラ達と同じように水に飲まれてしまう。それを悟ったユウキは動けないでいた。マイルはそれを見て、興奮して声を上げる。
「ほらほらどうする! 俺を倒そうとして時間を掛ければ、あの女たちの命は無いぞ! アイツらを助けたかったら、お前がアイツらを救出して、代わりに飲み込まれるしかないんだ! どうだ俺を舐めやがって! 俺の勝ちだぁぁぁぁ!!!」
そう叫んだ瞬間、マイルの胸に大鎌が突き刺さっていた。
「…………んえ?」
突然の胸の痛みに、マイルはショックで能力を解除してしまう。シーラ達の自ら解放され、咳き込みながらも呼吸を取り戻していた。
「しまっ……」
マイルは胸から大鎌を取ろうとするが、それは光となって消えていった。そして瞬きの間に大鎌はユウキの右手に戻っていた。
「な……何をしたんだ……?」
マイルは息も絶え絶えにユウキに尋ねると、ユウキは何の気もなく答えた。
「何って……鎌を投げただけだが。近づけないなら、そうするしか無いだろ?」
「そ……そんな……」
水の結界も解け、ユウキとマイルの間に互いを阻むものは何も無くなっていた。ユウキは一歩ずつマイルへと近づいていく。マイルは夜の闇の中、全身黒づくめのマントの男が大鎌を持って近づいてくる姿を見て、恐怖から”ある単語”を呟いた。
「し……”死神”……!」
――そして死神の鎌は、”卑怯者”を裁くかのように、脳天に振り落とされた。




