第9話-③
ユウキ、シーラ、コニール、店の店長の4人は、店の奥へと進んでいく。そして店長室の奥に、厳重に施錠された地下への扉があった。店長は近くの棚から鍵を取り出すと、扉の鍵を開けていく。その様子を見ながら、シーラがユウキ達に説明する。
「これから兄さんに託すものは”紋章魔法”というものです」
店長により扉が開けられ、店長が先に地下へと降りていく。それに続いてシーラ達も降りていった。その間にもシーラの説明は続く。
「この紋章魔法は、あらかじめ紋章に刻まれた魔法が自動で発動するという仕組みで、魔力を殆ど使わずに魔法を使えるようにするためのものでした」
「……そんな魔法、聞いたこともないが……?」
コニールは疑問を口にした。シーラは茶化すこともせず、淡々と説明を続ける。
「……私が開発したんだ。いや、まだ開発途中で一般には全く知られていない。この店が魔力障壁で覆っているのも、開発していることを隠したかったからだしね」
ユウキはコニールに疑問の目を向けるが、コニールはため息をつきながら答えた。
「はぁ……そうだよ。ユウキ君のお察しの通りだよ。100%違法の研究だよそれは」
シーラは悪びれもせずにコニールに言った。
「べっつに人体実験をしてるわけでもないし、爆発するような研究でもないし、怒られる筋合いはゼロだけどね。せいぜい法律に違反してるだけで。……なによりこの研究は私に絶対必要だったんだ」
ユウキはグレゴリーから聞いた、シーラの個人的事情を思い出していた。生まれつき魔法を使うための魔力がなく、魔法学校を退学になったという過去を。
「……だけど、私に紋章を刻んでも、魔法を使うことはできなかった。それに他にも問題が山積みだったしね」
シーラは指を3本立てた。
「まず1つにコスト問題が解決できなかった。紋章1つ作るのに家1個は立てられる金が掛かる。2つ目は紋章化できる魔法がかなり限られたこと。これは今後の研究次第だけど、今は物を出し入れするくらいの魔法しかできてない。3つめは1人につき1つしか紋章を刻めない事。まだ鋭意研究中って感じだけど、外様に出せるほどの実用性は無い、が実状ですね」
そこまで聞いて、ユウキはシーラに疑問をぶつけた。
「……それで、その未完成の紋章を俺に刻んで、何ができるように……?」
シーラは1本目と3本目の指を閉じ、2本目の指だけを残したまま答えた。
「唯一実用化に成功した、この”物を出し入れする”魔法が、兄さんに一番ピッタリな魔法なんです。……それがこれです」
階段を降りた先の部屋にユウキ達は入っていく。そこには壁に立てかけられた、剣や盾と言った様々な武具が並べられていた。ユウキはそれらの武具を眺めながらシーラに尋ねる。
「うわあ……これは……何?」
「私のコレクションです。一時期、こういった武器を集めるのにハマった時期がありましてね。色々ありますよ、大剣とか、なんだとか」
「……それで?」
「もしこれらの武器が”不殺魔法”が掛かった状態でいつでも出せるとしたらどうです?」
「…………え?」
ユウキはようやくシーラがどういう提案をしているかを理解し、合点がいった。
「その”物を出し入れする紋章魔法”を使って、不殺魔法の武器をいつでも手に持てるようにするのか……!」
「そうです。それなら、さっきの城での戦いの時に見たいに、罪悪感0で武器を振るえるはず。兄さんのその”ステータス”ってやつを全力で活かせば、姉さんを救いにいけるかもしれない……!」
辺りの武具を眺めながら、コニールはシーラに尋ねた。
「だが一体どういう仕組みになるんだ?」
コニールの問いを受けて、シーラは店長に声をかける。
「店長。ちょっと見せてやって」
「はい」
店長は右手を前面に出す。右手の甲には円形の紋章が刻まれていた。
「はっ!」
店長が気合を入れると、右手の先にペンが現れた。それを見てユウキとコニールは驚いて声をあげる。
「「うおっ!?」」
驚く二人を見て、シーラは満足そうな表情を浮かべた。
「これが私の研究成果です。これのいい所は一度壊れても」
シーラは出現したペンを、地面に叩きつけて踏んで折り曲げた。そしてペンが消えると、店長は再び右手に力を籠める。
「もう一度!」
そしてまたペンが出現すると、ペンは元通りの状態で出現していた。シーラはそのペンを取ると、近くの紙にサラサラと線を描く。
「こうやって元通りになることです。紋章にあらかじめ決められた通りの物体が出現するので、紋章に不殺魔法がかかるように刻んでおけば、いつでも不殺魔法の武器が取り出せるわけです」
「へえ~。…………ちなみこの紋章ってどうやって刻むの?」
ユウキは不安になってシーラに尋ねた。ユウキの不安を感じ取ったシーラは苦笑しながら答える。
「フフ……。大丈夫です。痛いもんじゃありませんよ。刺青とかでやっちゃうと取り返しがつきませんからね」
シーラは机からハンコを取り出した。
「魔力を込めたハンコを使って、手に刻み込むんです。消すのも同じ要領で消します。1つ刻んだらもう新しいのは刻めないんじゃ、不便極まりないですしね」
「ホッ……」
刺青じゃないことがわかり、ユウキは胸をなでおろす。
「じゃあこっからが本題。兄さん、その手に刻み込む武器を何にするか、ここで決めちゃいましょう」
シーラは周囲の武器を見せるように手を広げた。ユウキは不安そうにシーラに言う。
「いや……武器を決めようって言っても、どれも使ったことないからよくわからないんだよな……」
コニールは近くにあった剣を手に取った。
「無難に剣でいいんじゃないか? あんま変なもの出せるようにしても困るだけだろう?」
コニールの提案にシーラは深くため息をついた。
「はぁ~……全くわかってないな」
コニールはイラつきながらシーラに言い返す。
「何が!?」
シーラは呆れながらコニールに答えた。
「そんな普通の剣なんて、さして苦労しなくてもその辺から拾えるじゃん。そうじゃなくて、替えが効かず持ち運びが普段不便な何か、の方が重要なんだよ。特に兄さんの力なら、どんな武器でも軽々振るえるんだから」
「ぐっ……!」
シーラの正論にコニールは押し黙る。そしてユウキは今のやりとりを聞いて心の中で感心していた。
(そうか……全く気付かなかったけどそういう選び方をすべきなのか……。普通に剣を選ぶところだった……)
ユウキは今のシーラとコニールのやり取りを胸に、改めて武器を見渡す。シーラはどうやら古今東西あらゆる武器を収集していたようで、身の丈ほどの大剣や、槍など様々な武器があった。そしてユウキは“あるもの”を見つけ、そこで足を止める。
「どうしたんす?」
足を止めたユウキにシーラは声をかける。ユウキの目線は一つに集中しており、しばらく考えた後にユウキは決意してシーラに言った。
「決めたよ。これにする」
ユウキが決めた“あるもの”をコニールも目をむけるが、一目見た途端ユウキに慌てて忠告をするために近くの剣をつかむ。
「いやいや!これはダメだって! “こんなもの”手にしたところで……! それよりこっちの剣にしたほうがやっぱいいって!」
必死に否定するコニールをよそに、シーラは顎に手を当てて思索していた。
「いや……ありだな……。ちなみにどうしてこれを選ぼうとしたんです?」
シーラはユウキに尋ねる。ユウキは迷いなくシーラに答えた。
「完全に直感だな。どれ使っても使い方なんてわからないけど……これは一目見た時にビビッと来たんだ。これしかないって」
「そうすか……。でもそういうインスピレーションが、こういうのを選ぶには一番だと思います」
2人が武器について話している中、コニールは自分が手に取った疑念の目を向ける。そしてじっくり目を通して、少し考えて何かに気づいたのかハッと声を上げた。
「あっ!!!???」
いきなり声を上げたコニールに周囲は驚いてコニールに目をむける。
「ど……どうしたんですか急に!?」
ユウキがコニールに尋ねると、コニールは冷や汗を流しながらユウキに答えた。
「これ……私の剣だ……。3年前くらいに持ってたやつ……。ここの印に覚えがある……」
コニールは剣の鍔部分にある、ひし形の印を指さした。
「確か折れてそのまま捨てたはずなんだけど、なんでこんなところに……?」
ユウキはゾッとしてシーラの顔を見た。シーラは放心して表情を失っていた。ユウキはグレゴリーが言っていた“ある事”を思い出していた。
(そういやコニールさんの推し活にハマってるって話があって、剣の使い方まで習っていたって話もあったけど……。まさかこの武器全部その時のコレクションってこと? そんで……あの剣はコニールさんの剣をなんらかのルートで手に入れたってことか……)
コニールはそんなことにも気づかず、久しぶりの剣との再会に驚いていた。
「いや~……こんな偶然があるんだな~……。まさか巡り巡ってこんなとこに来るなんて」
事情を知っているユウキと店長は引きつった笑みを浮かべながら顔を合わせる。そしてユウキは目の前の武器を指さした。
「とりあえずあれでお願いします……」
「ははは……わかりました……」
× × ×
そうして紋章を刻む処理が完了し、各々が店を出る準備を始める。ユウキは肩の治療のために制服を脱いで軽装であったが、この準備の間に制服に着替えなおしていた。
「……やっぱりその服装で行くんだな」
隣で準備をしていたコニールがユウキに尋ねる。その質問にユウキは微笑みながら答えた。
「ええ。これが俺の正装ってやつですから。“結城葵”であることを忘れないための」
ユウキはマントを羽織り、フードを深めにかぶる。顔はフードに隠れ、全身黒ずくめの恰好になった。
「……よし。これで準備完了」
「それで“あの武器”を構えると、確かにサマにはなりそうですね」
シーラはユウキの恰好を見て言う。それに対してユウキは照れながら答える。
「いや、この組み合わせを考えていた訳じゃないんだけどさ。……そういうのも併せて、収まるべきところに収まった。っていうのかな」
ユウキ・シーラ・コニールの3人は外へ出る態勢を整えた。対してグレゴリーとモモと店長は、店の奥へと非難する準備を整えていた。グレゴリーは申し訳なさそうにシーラに言う。
「すまん……俺たちは……」
謝るグレゴリーにシーラは笑顔で答えた。
「別に謝る必要なんて全くないって! ただモモさんが異邦人として追跡されるリスクがある以上、騒動が収まるまではここにいた方がいいのは間違いないんだから」
モモは不安そうにグレゴリーの腕をつかむ。
「グレゴリーさん……モモが悪いの?」
不安がるモモを、グレゴリーは優しく抱きしめる。
「いや……モモは悪くない。ユウキたちが何とかしてくれるから、今は一緒に避難していよう」
シーラは店長の肩を叩いた。
「色々と済まないわね。ここまで付き合わせちゃって」
「いえ……オーナーには世話になってきましたから。こういう時くらい恩を返させてください」
そのやり取りを見て、ユウキとコニールは小声で話す。
「あいつ……マジで一体何なんでしょうね」
「私も随分天才ってチヤホヤされてきたけど、あの子に敵う気はしないよ……」
そうして全員の準備が完了した。奥へ避難するグレゴリー達3人は地下へ降りていき、ユウキは外へのドアに手をかける。ユウキは振り返ってシーラ、コニールの顔をそれぞれ見た。そして決意を新たにし声をかける。
「よし、行こう!」




