表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
34/43

第9話-②

 ユウキの肩に魔法薬をかけてから1時間後、ようやく魔法薬の副反応も終わり、ユウキ達は動ける態勢が整っていた。――しかし、あくまで“態勢”が整っただけだった。シーラもコニールも、グレゴリーすらも面持ちは暗かった。


「……これからどうするんだ?」


 グレゴリーがシーラに尋ねるが、シイラは力なく返事をする。


「……さぁ?」


 シーラの顔から覇気が消え去り、そこには疲れ切った15歳の少女がいるだけだった。シーラはコニールの方へ顔を向けるが、コニールも首を横に振った。


「……だめだ。何も思い浮かばない。怪我が治ったからといって、じゃあどうすればいいんだ?」


 状況は最悪だった。結局ルシアン王の疑念は晴らせず、クーデター派はコニール“だけ”懐柔する気であり、ユウキやアオイが投降したところで身の安全は保障されないだろう。何よりはぐれ異邦人である以上、追跡を逃れる手はない。更に“モモ”も狙われていることがわかり、無関係のはずだったグレゴリー達もこの騒動の渦中に叩きこまれてしまった。


 ――だが、逆に言えばコニールは投降し、クーデターが達成されてしまえば妃としての第二の人生が待っているし、シーラはあくまで無関係であるとして逃げることもできるだろう。そしてそれを2人とも自覚しているからこそ、何も言い出せずにいた。


× × ×


 コニールに両親の記憶はない。生まれた時に町の教会の前に置かれていたと、養父である教会の神父から話を聞いていた。ただ幼い頃から聡明であり、同じような立場の子は他にもいっぱいいると理解していて、自分だけが特別不幸だとも思わなかった。


 人生が大きく変わったのが8歳のころだった。町で行われた剣術大会に出場し、子供部門ではあるが、13歳までの子が参加できる大会で優勝したのだった。その際に剣術の才能を見初められ、教会から離れて騎士見習いとしての人生が始まった。


 そこでもコニールは多大な才能を発揮した。剣術に関して、他を寄せ付けない才能を発揮し、13歳のころにはもう隊の中で敵うものはいなくなっていた。また、この歳になると自分が美人であるという自覚も持ち始めていた。当時騎士団の中でも有望株であったウェインと出会い、歳は少し離れていたものの恋人同士になった。


 そして15歳で平民出身ながら騎士になり、18歳のころには王を助けるという大殊勲を挙げて上級騎士になるという、おとぎ話のようなサクセスストーリーを歩んできた。


 だが自分はいったい何のためにここまで来たんだろう。コニールはそれを自問自答することが増えてきていた。別に騎士になりたかったわけでもない。ただ才能があるからと勧められただけだったから。ウェインと恋人になったのも当時異性に興味があったのと、言い寄ってきた男たちの中で一番顔と身分がマシだったから。


 努力をしてこなかったわけではないが、低きを選んできた人生でもあった。そしてまた今度も――。


× × ×


 皆が黙っている中、ユウキが立ち上がる。


「……よし、もう動ける。……アオイを助けに行かなきゃ」


 その言葉を聞いて、全員が顔を上げてユウキを見た。シーラは慌ててユウキに尋ねる。


「な……別に今動かなくてもいいでしょう!? そもそもどうやって助けるつもりなんですか!?」


「どうやってって……そんなのシーラが思いついてないなら、俺にわかるわけないだろう?」


 そのユウキの言葉にシーラは絶句していた。


「え……何言いだしてるんですか兄さん。何もどうしようが無いじゃないですか! あのスズキセンパイとかって奴に手も足も出なかったじゃん! それにどこに行っても敵だらけだし! どうしろって言うのよ!」


 それを聞いてユウキは悲しそうな表情を浮かべ、そして一人で店の出口に向かっていった。


「わかった。……じゃあここでお別れだ」


 一人出ていこうとするユウキに今度はコニールが止めに入った。


「一人で行ってどうする気なんだ。君は迂闊に他人に攻撃できないし、何よりシーラの言う通り、スズキセンパイに勝つ見込みはあるのか?」


「だから何だっていうんですか!?」


 後ろ向きな――だが正論を言っているシーラとコニールに、ユウキは食い気味に言い返す。


「アオイが捕まってるんですよ!? 勝ち目とかなんだとか、そんなの関係ないだろ!」


 今までユウキが見せることが無かった押しの強さに、シーラもコニールも驚いて反応ができなかった。そしてそれはユウキも同じだった。結城葵だったころに、俺はこんなに自分の意志を口に出すことができたっけな。そう思いながらも、ユウキは止まることなく話を続ける。


「それに、さっきコニールさんが言っていた、クーデター派が略奪を行っている話だって、鈴木先輩が関わっている以上、異邦人と無関係とは言えないだろ!? できるできないじゃなくて、このまま動かないことが俺には耐えられないんだよ!」


 ユウキは人を傷つけることができない。それは母親の教育の賜物であった。度胸がないだけと蔑むことはできるが、異邦人としての力を手にしても、その教育のおかげでユウキは道を踏み外さずに済んだ。


 そしてその”良心”が今、ユウキの心を激しく苛んでいた。ユウキに1mmも責任があるわけではないのだが、自分と同じような異邦人が他者を傷つけていることに強いストレスを感じていた。


「俺は……行きます。動くことで、俺がこの世界に来た意味が、わかるような気がするから」


 ユウキはモモに目を向けた。先ほどの兵士の襲撃で殴られていたこともあり、今は静かに休んでいた。ユウキはモモと話したときのことを思い出す。――この世界に来た意味が、きっと君にもあるよ。そしてユウキはその言葉の意味がわかりかけてきていた。


「俺は……アオイを助けたい。初めて会ったとき、そう心に決めたんだ」


 ユウキは目を閉じて、アオイと初めて出会った草原での出来事を、思い出す。たとえそれが自分自身だとしても、あの時自分はこの子を守ると、そう心に決めたのだから。


 ユウキはドアノブに手を伸ばす。しかしそれを一つの声が止めた。


「待って!」


 そう言ったのはシーラだった。


「……行ったとして、じゃあ兄さんはどう戦うつもりなんです? なんか編み出したっていうマントを武器にして戦う方法だって、無理だってわかったんでしょう?」


 シーラはユウキがマントで戦った際、相手を必要以上に傷つけてしまい、動けなくなった事に気づいていた。鎧や服の上からマントで叩く分には問題なかったが、顔などの肌が露出されている部分に当たった場合、むしろ重傷を負わしてしまていた。無論、ユウキもそれに気づいており、不機嫌そうにシーラに返答する。


「じゃあどうしろって……」


「方法があります。兄さんにピッタリの”ある方法”が」


 シーラは立ち上がった。


「これは私が独自に研究したもので……、さっきの魔法薬なんか目じゃないくらいに金がかかってる代物です。それを兄さんに託します」


 それを聞いて、店の店長は驚きながらシーラに詰め寄る。


「オーナー!? 待ってください”アレ”は……!」


 シーラは店長へ優しく微笑みながら言った。


「いいの。アレは……私より……”こんな”私なんかより、この人が持つのに相応しいものだから」


 さっきと打って変わって急に活動的になったシーラに、ユウキは疑問をぶつけた。


「シーラ……いいのか……?」


 シーラはユウキに笑みを返しながら答える。


「いいんですよ。とってもいい話を聞かせてもらいましたから。……それは向こうも同じみたいで」


 シーラはユウキの後ろ側を指さした。ユウキがそちらの方に顔を向けると、そこには立ち上がったコニールがいた。


「私も行くよ。君だけじゃあ、何をどうすればいいか判断が付かないだろう?」


「コニールさん……」


 コニールもユウキに対して微笑んで答える。


「前にも言ったけど……君は”いい子”だ。……教えられたよ。何も損得だけで動くことはないってことを」


 今までコニールはなんで自分が戦ってきたのか、全くわからないまま今まで生きてきた。今だって具体的にわかっているわけではない。しかし、今のユウキの言葉で少しわかってきたことがあった。


「確かにこのままここでじっとしているなんて、耐えられることじゃないからな」


 ただ自分が正しいと思ったことをやるだけ。たとえそれがどんなに不器用で損なことであったとしても、自分で決めたことなら笑って前に進めるから。


 それをこの子に教えてもらったから。私は、私の思うまま、この子の進む道を切り開いてあげたい。それが私の”やるべきこと”だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ