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第1話-③

 少し時間を置き、落ち着いたユウキたちは1階にある居間に集まっていた。今の真ん中にあるテーブルにはユウキとシーラ、そしてアオイも座っていた。


「……服、変えたんだな」


 ユウキがアオイに尋ねると、アオイは照れながら答える。


「うん。シーラさんの服を借りたんだけどさ。女物なんて着るの初めてだから慣れないや」


 ユウキはアオイから返してもらった学ランに着替えなおしていたが、自分の服がないアオイはシーラから借りたシャツとタイツを履いていた。そしてその会話に違和感を覚えたシーラがアオイ達に尋ねる。


「……? 女性の服を着たことがない……? あんたらいったい何者なの? というか何歳?」


「あー……」


「えーと……」


 ユウキとアオイは互いに答えに詰まった。そして顔を合わせてアイコンタクトで示し合わせると、二人とも小声で回答した。


「「……た……多分18」」


「多分ってなんやねん……。まぁでも私より3つ上か。私が15だし……ってお二人さんどういう関係よ。雰囲気似てるから兄妹とかと思ったけど、双子とか?」


「「う~~ん……」」


 再びユウキとアオイの二人は腕を組んで悩んでしまった。そもそもなんでこうなったのか全くわかっていないため、どう説明するにも全く答えがわからなかった。そうこう悩んでいると、ユウキは鼻腔に何かさわやかな香りを感じ顔をあげる。すると、先ほどアオイと一緒にいた中年女性がお茶を4人分持ってきてテーブルの前に立っていた。


「お茶持ってきたよ。……2人とも丸々1日寝っぱなしだったんだ。このお茶には元気になる成分が入ってる。ゆっくりでもいいから全部お飲み」


「い……いただきます」


 ユウキとアオイはお茶をもらうと、頭を一度下げてからコップに口をつける。湯気が立っていて熱いのもあるが、それ以上に不思議な味で二人は面食らった。


「んなっ!? なんかピリピリする……!?」

「でも甘くて美味しい……?」


 思えば数日ぶりのまともな飲み物に、二人は感動して啜って飲んだ。ようやく助かったことを身体で実感すると、緊張が解けたのかようやく落ち着いて周りを見ることができた。


 居間にはいろんな薬品や器具が並んでおり、何かの資料なのか本も大量に散乱していた。まるでステレオタイプな”魔女の家”を想像させるものであり、ユウキは自分の状況を改めて思い出して中年女性に尋ねる。


「あの~……もしかして、”魔法使い”ってやつです?」


 ユウキの問いに中年女性は笑みを浮かべて答えた。


「ああ。そうだよ。よくわかったじゃないか」


 ユウキはその中年女性の姿もここでようやくじっくりと見る。見た目はおそらく40後半くらいだろうか。シーラとは違い金髪の髪の毛ではあったが、雰囲気がシーラにそっくりだった。


「え~と……シーラさんのお祖母さんですよね……? お名前は……」


 ユウキがそう言った途端、ユウキの脳天に衝撃が走り、ユウキは前につんのめった。


「おぶぇ!!!???」


「誰がバアさんだい! わたしゃまだバリバリだよ!」


 ユウキは涙目になりながら顔をあげた。


「だ……だってシーラさんがおばあちゃんって呼んでたのに……」


「わたしはディアナってんだ! ディアナ姉さんとでも呼びな!」


 自己紹介をしたディアナに、ユウキはぼそりと呟くように言う。


「姉さんって見た目でもないけどな……」


「聞こえてるよ!」


「ぎゃん!!!」


 ユウキは改めて衝撃を受けて、今度は後ろにのけぞって椅子ごと倒れていった。


× × ×


 ユウキとアオイは3日前にこの”異世界”に来た経緯を、すべて正直にディアナとシーラに話した。話を信じる信じないの前に、何をどうすればいいのか全く見当がつかなかったからだ。


 故郷の日本のこと、もともと結城葵だったのにユウキとアオイに分かれたこと、そして入院している母のために早く帰りたいことを。


 一連の話をすべて聞いたディアナ達は困惑した表情を浮かべていた。それを見て、アオイはおずおずとディアナに尋ねる。


「え~とディアナさん? やっぱり魔法使いのあなたでも、こんな現象は初めてみたいなやつです……?」


 アオイの質問にディアナは頷いて答える。


「ああ、異世界とかなんとか、そんな話は聞いたことないね。……それに1人が2人に分かれる魔法なんて……分身魔法はそりゃあるが、あんたたちのような例は流石に……」


「なんか頭打ったりとかした?」


「……それすっごい失礼じゃない?」


 アオイはシーラにツッコむように言うが、シーラは態度を崩さずにつづけた。


「だってそんなアホみたいな話信じられる? 双子とかなんとかの方がまだ信憑性があるというか……。というかアオイだってつい数日前まで男だったなら、なんで口調なそんな乙女チックなんだよ」


 シーラの指摘にアオイは顔を赤くして答える。


「いやこれは……。なんというか、この声で男口調だと凄い違和感があって……自然に変わっていったというか……」


「はぁ……なんだろう、オカマってやつ?」


「もうおよしシーラ」


 ディアナはシーラを叱るように言った。


「アオイの身体は私が調べたが特にそういった怪我はなかったし、二人一緒に頭がおかしくなるなんてあるかい? ……それに私には、二人が嘘をつくような人間には見えないんだよ」


 シーラは不承不服ながらも反論はできずにいた。


「まぁそうだけどさ……それにしたって……ねえ?」


 シーラは怪しげにユウキたちを見るが、ユウキは少しムッとしながら言い返す。


「俺らからしてみれば、”魔法”なんてもんがそもそも突拍子がないんだって。そんなのゲームの中の話だったし……」


「ゲーム?」


「あ……そうか、こっちゲームとか無いのか……」


 そう話していると、突然外で衝撃音が起こり、家が大きく揺れる。


「うおっ!!??」


「な……何!?」


 突然の衝撃にユウキとアオイが動揺するなか、ディアナはすぐに立ち上がって、玄関のドアへと向かう。


「あんたたち! 私が様子を見てくるから、後ろにいな!」


 ディアナが外に出ると、一人の少年が庭の真ん中に立っていた。辺りには砕け散った石くれが散らばっており、もうもうと土煙が上がっていた。


「私の守備ゴーレムたちを倒したのか……!? あんたは一体……!?」


「ディアナさん!? 大丈夫ですか!?」


 後ろからついてきたユウキたち3人がディアナに追いつく。そしてディアナと同じく庭に立っている少年をユウキ達も見つけた。――そしてユウキはその少年を見てあることに気づく。


「……あいつの服、ナイロンのジャージじゃないのか……?」


「え!? そんなのこっから見てわかるの!?」


 アオイは驚いたようにユウキに言う。ユウキたちと少年の距離は30m以上離れており、見た目の様子はわかってもどんな服の繊維かまではアオイにはわからなかった。しかしユウキはその少年の見た目までくっきり見えているようだった。


「それに……なんか顔立ちが日本人っぽくないか?……シーラさんたちは何というか外人っぽいのに……」


 少年の見た目は、黒髪のツーブロックで、年齢はユウキたちと同じくらいに見えた。服が上下ともにジャージ姿であり、そしてよく見ると右手には――。


「……スマホを持ってる!?」


 ユウキは声をあげて驚いた。ユウキたちのスマホは全く通信がつながらず、そして歩いているうちにバッテリーも尽きて使用不可能になっていた。しかしあの少年は今も手で持っていること考えると、あのスマホは使えているのかもしれない。


「お~い! すいませ~ん!」


 ユウキは叫びながらその少年に向かって駆け出していく。ユウキからしたらこんな孤独な世界で会えたかもしれない”同郷”の人間なのだから、無警戒で行くのは仕方がないかもしれなかった。しかし、その少年の足元に転がる石くれが示すものが、何かを知っているディアナはそうではなかった。


「バカ! うかつに近づくんじゃない!」


 ユウキが近づいていった途端、ユウキの腹部に衝撃が走り、ユウキは数十メートル後ろへと吹っ飛ばされていく。


「ユウキ!?」


 アオイがユウキに駆け寄ろうとするが、目の前の異様な光景を見て足を止めた。


「なに……あれは……?」


「なるほど……これが私のゴーレムを壊した”正体”か……!」


 アオイたちの目の前に、3メートルほどの鎧人形が立ちふさがっていた。そして少年はようやくアオイたちにその顔を向ける。その表情に好意は無く――敵意と嗜虐が伺えた。


「やぁ……お前が目的の”異邦人”か」

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