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第8話-①

 シズクは前に黎明亭の前で会った時や、パーティー会場で会った時とは違う、もっと言えば過去に世話になっていた頃とも違う、殺意を宿した目をユウキに向けていた。


「鈴木先輩……! 戦うって……!」


 ユウキはシーラが以前話していたことを思い出す。タカシとかいう異邦人が暴れていた際、周りの心配を一切しなかったこと。そしてそれは異邦人として他者を傷つけたことがあること――殺したことがあることを示していると。


「別に俺たちは異邦人に敵対する気は無いんだ! この国の王様がどう変わろうが知ったことでもない! ただ、家に帰る方法がわかればそれでいい! お母さんが末期の病気なんだよ!」


 ユウキはありのままの本心を話した。しかし、シズクは淡々と言い放つ。


「そう。……でもこっちはもう2人……いや、さっきやられたヤード含めて3人もやられてるんだけどね」


「それは……! 向こうから来たから……!」


 ユウキは回答に困りうつむいてしまった。シズクの横にいたエドワードは、そんなユウキを見てシズクに尋ねた。


「あいつが例のはぐれ異邦人か。事前に“写真”で見せられてはいたが……あれはお前に任せていいんだろうな」


「ええ。というよりも、私じゃないとキツイでしょうね。さっきも兵士をなぎ倒してたけど……。どうやら“あの情報”は真実だったようで」


「そうか。ではそちらはお前に任せるとしよう。こちらはこちらで進めさせてもらおう」


 エドワードは改めて兵士たちを呼び始める。それを見てシーラはユウキに声をかける。


「兄さん! 急いでそのスズキセンパイってのをやっちゃうんだ! じゃないと囲まれて、私たちが逃げられなくなっちまう!」


「くっ……!」


 シーラの指示を聞き、ユウキはシズクに剣を構えた。


「やる気になったようね。だけど、無駄な努力ってやつは存在するわけでね」


「うおおおっ!」


 ユウキからシズクに対して斬りかかっていった。しかし構え方も素人そのもので、不格好すぎる剣の持ち方だった。それを見てコニールは顔を覆う。


「うわっ!? あんな振り方じゃ……!」


 シズクは両手を前に構えると、ユウキとの間合いを測り、難なく剣を避ける。そしてユウキの手首を掴んだ。


「しまっ!?」


 ユウキはそこから何が繋がるのか”知っていた”。そして急いて手を振り払おうとするが、全く抵抗できないことに気づく。


「えっ!? 待っ……!?」


「でやっ!」


 シズクはユウキの手首の”関節を極める”と、そのままユウキを投げ飛ばした。


「がはっ!」


 ユウキは背中から叩きつけられ、そのまま肩から捻り上げられる。ユウキを見下しながら、シズクは勝ち誇るように言った。


「”肩取り”ってやつ。君には昔極めたことがあったね」


 赤子の手を捻るようにユウキがやられてしまい、シーラもコニールも絶句していた。


「ば……バカな……あのユウキ君が……! 何をされたんだ……!」


 そんな中、アオイは呟くようにある単語を出した。


「……”合気道”」


「アイキ?」


「ドー?」


 聞いたことのない言葉に、シーラとコニールは同時にアオイに尋ねる。


「合気道……向こうの世界、ようは日本の”武術”です。鈴木先輩は実家が合気道の道場とかなんとかで、子供のころからやってたって聞いてました。……実際に遊びでちょっと教えてもらったこともあったんですが……!」


 アオイの説明を聞いて、シズクはアオイに目を向けた。


「その事を知ってるってことは、君が本当に”もう一人の結城君”なんだね。……さすがに聞いたことないな、はぐれ異邦人が性別が別れて”2人”になるなんて……」


 シズクが抑えているユウキの肩に力が入る。ユウキは痛みに悶え大声を上げた。


「い……痛い痛い痛い! 折れ……折れる……!」


「や……やめてください鈴木先輩! それ以上やったらユウキの肩が……!」


 アオイはシズクに懇願するが、シズクの表情は嗜虐の楽しさに染まってきていた。


「折れるって? ……こんな風に!」


 ボゴン! と鈍く不快な音が響く。そして一拍置いて、ユウキの叫び声が鳴り響いた。


「ぎゃああああああ!!!!!!」


 ユウキの肩が曲がってはいけない方向に曲がっていた。シズクはユウキの肩から手を離すと、埃を払うように手をはたいた。


「さて……これで男の結城君は無力化完了。……で、あとは瞬間移動能力を使うとかいう女の方と、口だけうるさい役立たずと、武器も持ってない尻軽か……」


 ユウキは痛みに悶え、目から涙を流しのたうち回っていた。それを全く気にせず、こちらの品定めをしてくるシズクの目からは、アオイは何も感情が読み取れなかった。アオイは唾を飲んでシズクに尋ねる。


「鈴木先輩……変わりました?」


「ん? ……ああ、そりゃあね。だって結城君と最後に会ったのだって5年前じゃない」


 ユウキが倒されたことにより、兵士たちはユウキ達を取り囲んでいく。周りの衛兵も無力化され、ルシアン王と大臣の方にも兵士が行き、剣を向けていた。


「ま、結城君は5年で成長できるような要領いい子じゃなかったと思うけどね。実際、見た目そんな感じっぽいし」


「…………私からしたら、鈴木先輩は5年で”落ちぶれた”と思います」


「……あ?」


 アオイの言葉にシズクの表情が瞬時に怒りに染まった。そのあまりの変貌ぶりにアオイは背中に滝のような汗が流れるのを感じた。シズクは額に血管を浮かばせながら、アオイに向かっていった。


「お前のようなイジメられてたチー牛に何が分かんだよ! 私がどれだけの思いをしたか、お前にわかんのかよ!」


 シズクは平手打ちをアオイにぶつける。アオイはつんのめって後ろに倒れた。――そしてそれを見てシーラが違和感を覚える。


(……うん? なんか今おかしくなかったか……?)


 アオイは顔を上げる。痛みで目には涙が浮かび、鼻血が出ていたが、臆することなくシズクに言い放った。


「何度だって言います! あなたは……5年前は、こんなに平気で人を傷つける人じゃなかった! 私は……”俺は”、尊敬していたんだ! あなたを!」


 堪忍袋の尾がキレたシズクは、絶叫してさらに振りかぶる。


「うるせええええ!!!」


 その瞬間、天井が崩れ、ガレキが床に降り注いできた。あまりに突然の衝撃にエドワードもシズクも動きを止めるが、アオイはその一瞬を逃さなかった。シズクに左手を触れると、窓の方向に右手を向ける。


「しまっ……!」


 一瞬でシズクの姿が消え、窓の外にシズクが瞬間移動していた。そしてアオイは急いで天井の崩壊の原因を確認する。すると、そこには巨大なドラゴンがおり、ルシアン王と大臣に剣を向けていた兵士たちがドラゴンの爪の餌食となっていた。ルシアン王は先ほどと打って変わって、生気にみなぎった表情に変わっている。


「間に合った……間に合ったぞおおお!」


 そして対照的にエドワードが焦りの表情を見せていた。


「くっ……!現れたかパンギア王家を守る守護竜”エルヴィス”が……!」


 エドワードはシズクが飛ばされていった窓側の方に目を向ける。


「あの守護竜を倒すには、”シズクの力”が必要な計画だった……! 仕方ない、一度引くぞ!」


 エドワードは兵士たちに退却命令を出す。――しかし。


「兵士たちよ! コニール達を連れていけ!」


 エドワードは退却前にコニールたちを捕えるよう命令を出した。シーラとコニールはあっという間に兵士に取り囲まれ、拘束されてしまう。


「しまっ……!」


 コニールは抵抗もする暇もなかった。コニールはセンスと剣筋で戦うタイプの剣士であり、丸腰の今は下手するとその辺の兵士となんら変わりない戦闘力となっており、呆気なく捕えられてしまう。15歳の普通の少女であるシーラは猶更であった。


 ユウキも肩の痛みで悶絶し続けており、無抵抗のまま捕まってしまう。そしてアオイにも兵士たちの手は伸び始めていた。――そしてアオイは瞬時に決断した。まずはダッシュでコニールとシーラの下へ向かう。そしてシーラを”左手”で触った。


「姉さん!?」


 シーラはその聡明さでアオイが何をしようとしたか一瞬で理解した。


「だめだ姉さ……」


 しかしシーラが止める前にシーラは瞬間移動で飛んでいく。兵士の拘束も無視して、シーラの姿だけが消えていった。そして次はコニールに手を伸ばす。


「アオイく……」


 コニールも続けて消える。そして今度はユウキに手を伸ばそうとする。エドワードもそこでアオイが何をしようとしたか気づき、兵士たちに命じた。


「そ……その女を捕えろ!」


 兵士たちはアオイに飛び掛かり、アオイの上に兵士たちがかぶさるが、アオイはギリギリでユウキの足を左手で掴むことに成功する。そしてシーラ達を飛ばしたところと、同じ方向に右手を向けた。


「……ユウキ、あとは頼んだよ」


 ユウキは痛みで頭がチカチカする中、そのアオイの声だけは明確に聞こえた。


「アオイ……!」


× × ×


 そして気が付くと、ユウキは城の裏側の林の中で目を覚ます。横には同じように飛ばされて、悶えているシーラとコニールが横たわっていた。ユウキは肩の痛みで身体を起こすことができず、何とか自分たちが飛んできたと思われる最上階――天井が壊れた玉座の間を見上げた。


「アオイ……なんで……」


 ユウキは失いそうな意識の中、コニールに肩を借り、最後の気力をふり絞ってその場から逃げる。それはこの世界に来て、初めての”敗北”だった――。


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