第7話-③
ヤード、マイルとの戦いが終わり、アオイの能力でガレキが落ちた騒音が鳴り響いていた為か、兵士が集まってきていた。ユウキたちは兵士たちに見つからないよう、急いでその場から撤退していた。
ユウキたちは城近くの空き家に身を隠していた。城に向かっている道中に、水や食料を拝借しており、城に乗り込む前の最後の休憩を取っていた。
「ほ……ほんとに勝手に入って、何も言われないの……?」
アオイは不安になってビクつきながら辺りを見ていた。それはユウキも同じで、どこかソワソワしていた。シーラだけがのほほんとパンを貪り食っていた。
「大丈夫ですって。みんな兵士に誘導されて避難してるんですから。このパンとかだって、店主が商品置いて避難しちゃったから、金だけ置いてもらってきたでしょう?」
「そうだけど……」
シーラはユウキとアオイにパンを手渡す。
「これから敵の本丸に突っ込むわけなんですから。食うもん食っとかないと目回して倒れちゃいますよ」
ユウキは受け取ったパンを眺めはしたが、とても口に入れる気にはならず、小さく頷いた。
「うん……」
しばらく沈黙が流れ続けるが、ユウキがうつむいている原因をシーラが察し、ユウキに話しかけた。
「兄さん……さっきの戦いで何にもできなかったこと、後悔してるんです?」
「う……」
シーラに言われたことが図星だったのか、ユウキは肯定も否定もできずにただ黙ってしまった。先ほどの異邦人との戦いで、アオイとシーラが活躍し、異邦人を一人倒していたが、ユウキは何もできずにただ突っ立っていただけだった。
「だって……! 何にもしてなくて……それじゃ単なる臆病者じゃないか……!」
自己嫌悪に陥るユウキにシーラは慰めるように声をかけた。
「……私は、兄さんが臆病者だとは思いません。兄さんは強いから、人を傷つけたくないって気持ちを持てるんです。……それは何よりも大事なことですよ」
「でも……!」
ユウキはアオイも顔を見る。アオイの顔は先ほどの戦いでかなり憔悴しているようだった。シーラの指示があったとはいえほぼ一人で戦っていたようなものなのと、結局ヤードという異邦人に飛び道具とはいえトドメを刺したのはアオイの能力なのだから。
だがユウキには自分の手で誰かを傷つける”覚悟”を持つことはできなかった。もう1週間近く前ではあるが、一番最初に出会った異邦人であるサイトウの胸を押した時の感覚がまだ右手に残っていた。肋骨をたたき割り、致命傷を与えてしまったあの感覚を。
悩み続けるユウキに、シーラは少し息を吐いてから提案する。
「ふぅ……もし、人を”過剰に”傷つけることなく、戦うことがあるという手段があるというなら、兄さんは戦えますか?」
シーラの突然の提案にユウキは顔を上げた。
「……え?」
シーラはパンを一気に口に押し込むと、立ち上がってユウキに手を伸ばす。
「実はあるんですよ。……兄さんでも、罪悪感を抱かずに戦う方法が」
× × ×
パンギア王城にて、コニールはクーデター派、現体制派どちらにも囲まれた状態で身動きが取れなくなっていた。しかしコニールにはじっとしていることはできず、まずはルシアン王に直接接触し、自身がクーデター派に加担しているという疑いを晴らすことが先決だった。
とはいえ変装はコニールが一番苦手とすることであった。良くも悪くも見た目が整い過ぎており、変装しても身にまとうオーラですぐにバレてしまうということが多々あったのだった。そのため結局コニールが取った方法は――。
× × ×
ルシアン王は城最奥部の玉座に座っていた。周囲には数十名の護衛兵を並べてはいたが、ルシアン王の表情は不安で染まり切っていた。
「だ……パルネオ大臣! 大丈夫なんだろうな!エドワードの奴はすぐに倒されるんだろうな!」
ルシアン王は横にいるパルネオ大臣に縋るように言う。パルネオの身体は醜く太っており、ルシアン王とはまた別の意味で汚職に手を染めていることを感じさせる風貌であった。事実、汚職の限りを尽くしており、コニールが異邦人調査という閑職に飛ばされるきっかけになったのはこのパルネオのせいでもあった。
「大丈夫です。大丈夫ですとも……!」
パルネオも私腹を肥やす悪徳大臣の一人ではあったが、無能ではなかった。それゆえ、自分たちが置かれた立場の窮地の度合を認識していた。
(や……やばい~!逃げ遅れた~!私も、ルシアン王も民衆からの評判は最悪だ……。このまま降伏したところで、処刑は免れないだろうし……なんとか逃げる方法を考えなくては~!)
ルシアン王は爪を噛み、不安を紛らわせようとした。元々王の器ではないことはルシアン王自身がよくわかっていた。先々代の王である自分の父親からも、愚鈍だの臆病だの、いい評価を貰ったことは一度もなかった。
しかし、先代の王である兄だけは違った。自分の臆病な性格を慎重で冷静であると褒めてくれ、兄は生きている時は兄の政治を全力でサポートしていた。
しかし兄が病に倒れ亡くなり、兄の息子であるエドワードが王位を継ぐという話になった時に”魔”が刺した。なぜ自分がずっと影の存在でなければならない、なぜ自分がずっと周りから蔑まれなければならない。
そしてエドワードが王位を継いだ際に、他国への侵攻を計画していたことを知り、ルシアンの中でいくつかの思考が短絡した。今までにない行動力を発揮し、大臣たちを丸め込み、他国の協力も取付け、エドワードでほぼ当確となっていた王の座を掠め取ったのだった。
だがその代償は凄まじく大きなものだった。増やした自分の味方は全員腹に一物を抱えており、私腹を肥やし始め、その責任は全て王である自分に向かった。自分もストレス発散のために、贅沢の限りを尽くしたり、女に手を出したりしたが、気が晴れることはなかった。
何よりも”王”の座がルシアンに取ってキャパシティを超える重さとなっていた。しかし今更手放すこともできない。エドワードに王位を渡したところで、邪魔者となる自分を生かしておくわけもなく処刑するだろう。また、戦争を起こさないことで協力していた他国との関係も全て破綻となってしまい、亡命すら受け入れられないのも容易に想像ができた。
だからルシアンは勝たなければならない。――しかしその人望の無さと無能さから、ルシアンはその為の行動すら取れずにいた。そしてその時だった。
「陛下!」
玉座の間の扉が開けられる。大軍が来たと思い、ルシアン王・大臣共に身体を震わせて反応するが、扉の前にいた人物はただ一人だった。
「コニール・ハインライン上級騎士! ただいま馳せ参じました!」
扉を開けたのはコニールであった。ここに来るまでにいくつかの方法があったにも関わらず、コニールが選んだのは正面突破だった。敵意が無いことを示すために、武器も一つも持たず、鎧もつけず、薄いシャツとズボンだけの恰好であった。
「コニール……!」
コニールの姿を見たルシアン王の目が憤怒に染まる。
「貴様……よくも裏切ってくれたな……!」
「陛下!それは敵の流言でございます! 私はクーデターに加担してはおりません!」
コニールは王座へと近づいていくが、ルシアン王は唾をまき散らし怒鳴った。
「嘘をつけ! お前は……私を恨んでいるのだろう!」
「陛下……!」
コニールは冷や汗をかいた。はっきり言ってしまえばコニールが恨んで当たり前のことをされてきたのは事実なので、ルシアン王のこの妄言もあながち的外れではない。しかも横にいる大臣もコニールといざこざがあって、閑職に飛ばした張本人であるため、それを恨んでないというのもまた筋違いなので、凄まじく面倒なことになってしまっていた。
周りの兵士もコニールが王と大臣にどんな処遇を受けたか知っているため、コニールを捕えることもできず、かとってコニールに加勢するわけにもいかず、気まずい空気が流れてしまっていた。
(やばい……。私はもうこの局面にいたっては、別に王とか大臣とかどうでもいいんだけど、私が積んだわけでもない”業”ってやつが私に振りかかってきている……!)
その時、またもドアが開けられる。今度は事前の挨拶も、ノックもなく乱暴に。そしてそれはルシアン王が想定した最悪の招かれざる客が、開けたことを示していた。
「陛下……いや”叔父上”とでも呼びましょうか」
扉を開けた人物を見て、コニールは思わず呻いた。
「最悪……!」
扉を開けたのはエドワード王子率いるクーデター派達だった。それは、クーデター派が城の大部分を制圧したことを示していた――。




