第7話-②
シーラの発言を聞き、ヤード達の表情が消えた。そして能力が”流水支配”であるマイルは冷や汗が額に流れていた。
「な……何故だ……!」
能力がいきなり暴かれたマイルはシーラに尋ねる。明らかに動揺しているマイルに対して、シーラは得意げに言い放つ。
「さっきの霧が能力によるもので、私たちが霧の中で離れないように固まってるのを、霧が晴れる前から知ってたなら、どっちがが水を操る能力で確定だろ?」
さらにシーラはマイルの足を指差した。
「その上で、その茶髪のバカはいつでも飛び掛かれるようにスタンバってるし、お前がベタ足で居座ってるのを見たら、そりゃ水の能力で援護する前提なんだなって、簡単にわかんだろ」
――口で言ってあげないとユウキもアオイも理解できないから説明してやってるんだけども。という心の声は付け加えずにシーラは言った。ヤードは腰から剣を取り出すと、剣の周りに霜が付き始める。
「へっ、そうかよ。……だがそれがどうしたってんだ? 俺はなぁ、てめえ見てな賢そうなの隠さねえクソガキを見るとムカついてくんだよ!」
「兄さん、姉さん! あの茶髪の能力は温度操作だ! 今は剣の周りを冷やしてるけど、熱することもできるのは間違いない! 片方のクソ眼鏡が水を操作して、茶髪バカが水を蒸発させて霧を作ったり、固めて氷を作ったりしてるんだ!」
あまりに的確な推理にユウキもアオイもドン引きしていた。
「いやお前、ちょっと察しよすぎだろ!」
「学校で歴代トップの頭脳って、マジで誇張じゃない感じだこれ!」
”熱冷自在”が見破られたヤードも目を見開くが、すぐに立て直しマイルに声を掛ける。
「マイル! 水を頼むぜ!」
マイルが水を操作すると、ヤードの剣の周りに水が纏い始め、それがすぐに凍って巨大な氷の剣を作り上げる。ユウキはそれを見て”若干”息を飲んだ。
「すげえ……けど事前にネタバラシされてるから、あんまり驚けないな……」
「うるせえ!」
ユウキのしらけた反応にヤードはキレるが、マイルがヤードに叫ぶように声を掛けた。
「ヤード!」
「わかってるよマイル!」
”ヤード”と”マイル”の名を聞き、アオイは先日出会った”インチ”の存在を思い出す。
(ヤードもマイルもインチもヤードポンド法の単位よね……? じゃあこいつら今は二人しかいないけど、本当は3人組……!?)
「姉さん危ない!」
アオイが考え込んでしまっている間、ヤードはアオイに向かって襲い掛かっていた。シーラの叫び声でアオイはようやく気づくが、その間シーラは何故ヤードは一目散にアオイに襲い掛かったのか、必死に考えていた。
(なんで!? 普通兄さんの方を襲うだろ!? じゃないと姉さんに向かっている間に兄さんに後ろから奇襲を受けるのはわかるだろうに!? ……まさか!?)
シーラはユウキに目を向けた。アオイが襲われようとしているのに、ユウキは何もできずにモジモジとしていた。
(やっぱりだ! あいつらは……兄さんが”攻撃できないこと”を知っている!)
そしてそうする間にヤードはアオイに対して剣を振りかぶった。アオイもパニックを起こして頭の中が真っ白になるが、その状況の中で頭の中に明確な言葉が走った。
「地面に手を当てて!」
そう叫んだのはシーラだった。そしてアオイはその状況下で何をすべきか、よく知っていた。アオイが咄嗟に地面に手を当てると、一瞬でアオイの手の先から地面が盛り上がり壁が出現した。
「なっ!?」
その壁はヤードの胸に直撃すると、ヤードを後方まで弾き飛ばした。その光景に一番驚いていたのはユウキだった。
「何今の!? いつの間にそんな技が!?」
アオイは両手を握って開いてを繰り返しながらユウキに答える。
「いつ戦闘になってもいいように、シーラから能力の使用パターンについて、いくつか決めておこうって言われてたの。今のは地面を瞬間移動させることで、目の前に壁を作り出したわけ」
胸に壁が激突したヤードは、咳込みながらマイルに話した。
「ゲホッ! ……ちっ!やっぱりか……! あのユウキとアオイってやつは何かしらの原因で分裂して、女の方にギフト能力が行ってるってことか……!」
マイルは声のトーンを変えずに、あくまで落ち着いた口調で応える。
「だが、これであの黒マントの方は単なるデクの棒なのが明らかになった。……あいつはやはり無視しても問題ない……。それよりもあのロマンディの孫だ!」
マイルはシーラに目を向けながら言う。
「アンジュのやつの言うことは正しかったわけか……あの4人の中で一番厄介なヤツはあのロマンディの孫だと……! あまりに大げさに言うものだから相手にしなかったが……これは……!」
シーラは異邦人二人から明らかに敵意を向けられてるのに気づき、苦笑して後ずさる。
「ハハハ……ちょっと目立ちすぎた……。あいつらはあからさまに私を見てるよな……」
マイルも眼鏡を取ると、ヤードと並んで戦闘態勢を取った。
「もう油断はせんぞヤード……! ここであいつらを全力で仕留める!」
シーラは足元を見た。そして”何か”に気づき唇を歪ませる。
「これから本気出すってか? ……もう遅いよ。姉さん! ”鎖”!」
”鎖”というワードを聞いてアオイは咄嗟に懐から”球”を取り出した。
「え!? 今使うの!?」
「いいから! あの茶髪に打って!」
アオイは左手で球を持ち、右手をヤードに向ける。そして右手の球が瞬間移動すると次の瞬間、ヤードの身体に鎖が巻きついていた。
「なっ!?」
いきなり鎖に絡まれる事になったヤードは慌ててバランスを崩す。ヤードに巻かれている鎖の両端には、半分になった”球”がついていた。シーラは間髪いれずにアオイに指示をする。
「次! さっき出した壁のガレキ!」
アオイは目の前に作り出した壁に左手を当てると、右手をマイルに向ける。そして瞬間移動の能力をしようし、ガレキがツブテになってマイルに襲い掛かった。
「うおおおおおっ!?」
マイルも反応ができずにツブテをモロにくらってしまう。それを見てシーラはある確信を抱く。
(やっぱりだ! アイツら”対異邦人”の戦い方が全くなっちゃいない! というかコニールも最初言ってたけど、異邦人は大半がド素人なんじゃねえのか!?)
初めてコニールと会った際、コニールは各地で騒ぎを起こしている異邦人がおおよそ訓練されていないような若者ばかりだと言っていた。シーラは今のヤードとマイルの動きの拙さを見て、それを確信していた。
(おそらく、奴らの言うステータス……”ギフト能力”とはまた違う”身体能力”が与えられていて、それがない私みたいな現地民相手をいたぶるのは慣れているんだろうが……。肝心の戦闘経験が全くのゴミだ! それで言えば敵も兄さんとなんら変わりないんだ!)
シーラは鎖が巻きついて倒れたヤードに近づいていく。ヤードもシーラが近づいてくるのがわかった上で不敵な笑みを浮かべる。
「おい……まさか俺がこんな鎖だけで封じられたと思ってんのか?」
しかしその言葉を完全に予測していたのか、シーラの方がもっと悪い笑みを浮かべてヤードに言い放った。
「思うわけねーだろボケナスが。……てめー”ウンコ”は好きか?」
突然のウンコという言葉にヤードは面食らって素の反応が漏れた。
「は?」
「これからいっぱい食えるから、喜んどけよウンコ野郎」
シーラが足元で思いっきり地団駄をすると、次の瞬間ヤードのいた地面が崩れ、下に落ちていった。
「なああああああ!!!???」
ヤードが落ちていった先は下水路となっており、鎖で両手がふさがれているため受け身も取れずに下水に落下していく。
「ぶはっ! おえええっ!」
ヤードは慌てて鎖を引きちぎって上に戻ろうと顔を上げるが、頭上からの光が急に遮られ、その影の元を見て、絶望の声を漏らした。
「……ちくしょう」
ヤードの頭上から大量のガレキが落ちてきて、ヤードはそのガレキの中に消えていく。シーラが下を覗き込むと、下水道に積もったガレキから光の粒子が漏れ出していた。
「あの光が上がってるってことは、消えていったってことだな……。姉さん! もう大丈夫ですよ!」
「う……うん……」
アオイは近くで屈んでおり、シーラの言葉を受けて立ち上がる。アオイの周りの地面は石畳が殆ど消えてデコボコになっていた。アオイのガレキのツブテの衝撃から立ち直り、ようやく体勢を立て直したマイルは一連の出来事を見ており、戦慄していた。
先のアオイが壁を作り出した際に、石畳の地面が不安定になっていることをシーラは知っていた。そして下が下水道であることもわかっていたシーラは、一時的に二人を行動不能にし、分断させることで下水道に落とす作戦を思いついていた。
ヤードを狙ったのも怪我を負い、鎖を外すのに手こずるのと、最後のガレキのシャワーを防ぐ能力でないことまで計算した、まさに全て計算ずくの行動であった。
「……で? どうする?」
シーラは一人になったマイルに冷酷に言い放つ。しかしマイルはわかっていた。何故自分を残したのか”本当の理由”を。
「いいだろう。撤退して”やろう”。……お前もそれが狙いだったんだろう?」
「……さてね」
マイルを残した本当の理由。それはこういう状況になったら撤退を選ぶことが”できる”冷静さと知性があるからだった。もしこれがヤードだったら、怒りに任せて襲い掛かっていただろう。そしてそうすれば今度こそあの3人に”勝ち目はなかった”のだから。
「面白いやつだ。……また会おう」
マイルは城へ向かって走って撤退していった。そしてそれはシーラが一番欲しい情報だった。
「……よし。これで城に異邦人たちがいることが確定しましたね。私たちが城に向かうのも間違ってないってことです。……どうしました」
戦いが終わり、ユウキもアオイもシーラに怯え切っていた。
「こ……怖いよシーラ”さん”……」
「容赦なさすぎるのが本当に怖い……」




