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第7話-①

 城でクーデターが起きた話は町中に広がり、民衆はパニックに陥っていた。しかしクーデター派が事前に多くの兵士たちを抱え込んでおり、町のいたるところで兵士が民衆への案内を行っていた。元々現王のルシアン王の評判が最悪ということもあり、特に民衆の間で争いが起こることもなく、クーデター派の計画は粛々と進行していた。


 そんな中、宿屋にいたユウキ達の下にもクーデターが起こっているとのニュースは届いていた。しかも首謀者がエドワード王子、ウェイン王宮騎士、そして”コニール上級騎士”という情報まで。


「そ……そんなはずないだろ!?」


 ユウキはアオイとシーラに叫ぶように尋ねた。この騒動が起きたため、今日はバイトも休んでおり、シーラの部屋で待機していたのだった。


「ええそうです。コニールがまさかクーデター派につくとは考えづらい」


 シーラもユウキと同意見だった。クーデター派につくということは、異邦人側につくことと同義であり、それをコニールも理解していない訳はないとわかっていた。


「ウェイン……こいつがコニールをハメた張本人です」


 シーラはウェインの名を上げる。騎士団の中でウェインとコニールが親密な仲であることは、別に秘密にされていることではない。それよりかルシアン王との関係の方が、シーラですら知らないよっぽどシークレットな話であった。


「こいつはいわゆる”コニールの元カレ”ってやつです。ですが兄さんなら、コニールを手放したいと普通思いますか? 並ぶ者のいない剣の才能をもち、比類なき美貌を持つような女性を」


 シーラに尋ねられたユウキは気まずそうに答えた。


「いや……そういうのわからんけど……でも、執着したくなるのは理屈としてわかるわな」


「だから、ウェインはコニールをハメたんです」


 アオイもシーラの言うことを理解したのか、合点がいった表情を浮かべる。


「その”元カレ”って周知の情報を使って、本人の承諾無しに半ば無理やり引きずり込んだのか……!」


「そうです。……となると、コニールがヤバい」


 シーラの推測は全く間違っておらず、クーデターが起きた際に、ウェインが勝手にコニールの名前を出して声明を出していた。ウェインとコニールの関係を知っている多くの者はそれを疑うこともなく、コニールは城の中でルシアン王派とエドワード王子派どちらからも狙われる四面楚歌の状態に追い込まれてしまっていた。


「コニールがこっから助かるには、クーデター派に本当につくのが一番なんですが……あの女にそんな器用さはないでしょうしね……」


 それを聞き、ユウキとアオイは服を着替え始めた。


「となると、やんなきゃいけない事は決まってるわけだ」


 ユウキはここ数日着ることが無かった向こうの世界での制服と、黒いマントに袖を通す。


「コニールさんを助けに行かないと!」


 アオイも半袖のシャツにホットパンツと、動きやすい服装に着替えた。


「ええ、行きましょう!」


 シーラも少しも淀みなく二人に答えた。この二人ならその判断を迷いなくしてくれる。そう信じていたからだ。


× × ×


 ユウキ達は王城へ向けて町を駆け抜けていた。今日は町の店は全て閉店となっており、人はいつも通りに混雑しているが、それは買い物客ではなく、避難する人たちでごった返していた。


「どうやら町の人たちを避難させるみたいですね。兵士が全員が全員クーデター派についた訳じゃないんでしょう。……つまり、現体制派とクーデター派で戦闘が起こる可能性が高いから、こうやって避難させてる訳だ……」


「……じゃあ、避難に従ってない私たちって結構怪しいんじゃない?」


 アオイはシーラに尋ねると、シーラも頷いて同意した。


「ええ。とはいえ20万人をクーデター派だけで全部避難誘導するのは到底無理ですから、現体制派もそこは暗黙の了解で手伝うでしょうし、何より漏れがあっても仕方ないと両方が思うでしょう。……遠目で見られる分には避難が遅れた住民に見えるでしょうが、近くで顔を突き合わせたらアウトですね。気をつけましょう」


「「了解!」」


 ユウキとアオイは返事をして、改めて城へと駆けていく。しかしその様子を、遠くの家の屋根の上から見ている人影が二つあった。一つはシズクと電話をしていた異邦人、ヤードであった。茶髪のチャラチャラとした雰囲気の男で、いかにも不良といった感じの風貌であった。


「あれだ。あれが結城葵だ。……ボス……いや、シズクのやつからは止められてたけどよぉ」


 そしてヤードの横に、角刈りの眼鏡を掛けた男がいた。その男の名はマイル。こちらはヤードとは違う意味で、威圧感を与える感じの雰囲気を醸し出していた。


「……この騒動の最中であれば、倒したところで咎められる謂れもない。……なによりヤツを倒して経験値が入れば、次は俺たちはあのシズクを超えられる……!」


「あの女の方はインチの方がご執心だったな。あいつは今城の中の方にかかりきりだから、女のほうは後で連れて行ってやるとするかね」


「油断はするなよ……とはいえ、こちらにはあの結城葵の”弱点”が筒抜けではあるがな」


 ヤードとマイルの二人は屋根から飛び降りると、ユウキ達の進行方向を先回りするように追っていった――。


× × ×


クーデターにより騒然とするパンギア王国城下町。その中をユウキ達はできるだけ裏路地を選んで駆けていく。シーラの案内のおかげで兵士たちに見つかることなく進んでいくが、あと5分ほどの距離の箇所で突如霧が立ち込め始める。


「霧……?」


 ユウキは突然の霧に疑問を抱いた。気温は温暖といったくらいで、空も晴れており、時間も今は朝の11時で霧が立ち込めるような状況ではない。だが霧はどんどん濃くなっていき、少し先が乳白色であっという間に見えなくなってしまった。


「兄さん……」


 シーラはアオイの手を繋ぎ、ユウキに身体を寄せる。そしてユウキの背中に指で文字を書いた。『異邦人がいる』と。


 流石に察しの悪いユウキもシーラが指で文字を書いた理由は判断ができた。この”敵”は霧に乗じて襲ってくる。そして敵はこちらがまだ気づいていないと思っているはず。


 ――しかし敵は襲ってこず、霧は次第に晴れていった。そして霧が晴れるとユウキ達の真正面にヤードとマイルが立っていた。


「ほう……霧で分断できると思ったが、ちゃんと固まっているとはな」


 マイルが眼鏡の位置を指で合わせながら言う。


「そこのロマンディの孫が入れ知恵をしたってことか」


 ヤードはニヤついてユウキ達を品定めする。その間もシーラは全力で頭を回転させていた。そしてヤードの立ち位置や、マイルの仕草を見てすぐに判断した。


「兄さん、姉さん。まずあの眼鏡の男のギフト能力は”水を操る”能力で、もう片方の茶髪のやつの能力はこっちに”近接攻撃”を仕掛けてくるつもりです。まず警戒するならあの茶髪からだ……!」

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