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第6話-④

 『シーラがコニールの“大ファン”である』突然のグレゴリーの発言に、ユウキは驚いてグレゴリーに尋ねた。


「え!? いやいや! この1週間あの二人を見てましたけど、シーラ側が滅茶苦茶つっかかってましたよ!? コニールさんが困惑するくらいに!」


 ユウキの疑問はもっともであり、グレゴリーはグラスを傾けて酒を一口飲むと、その理由の説明を続けた。


「あの子が8歳の時だったかな……平民出身の女騎士が誕生! ってことでセンセーショナルなニュースになったことがあってな。その時はまだ普通だったんだが、11歳の時に王を救うっていう大殊勲を立てた際に……」


(ああ、あれか……)


 ユウキは王様と会ったときのシーラの話を思い出していた。4年前のコニールの手柄に妙に詳しいことで疑問に思っていた部分があった。グレゴリーは改めて話を続ける。


「……あの子も結構参ってた時期でな。コニール様と自分を重ね合わせて、それはもう見てるこっちが心配になるくらいにのめり込んでた時期があったんだよ。髪の毛をコニール様と同じ色に染めたり、ファンクラブ作ったり、部屋がグッズまみれだったり、なんなら剣の訓練までしたこともあったからな……」


「そ……そこまで……いわゆる推し活ってやつですか……。ん、結構参ってたっていうのは?」


「それはだな……」


× × ×


 グレゴリーとの話が終わり、ユウキは外に出て涼んでいた。もう寝る直前ではあったが、あんな話を聞いてしまっては、頭が熱っぽくなってしまい、寝るに寝れなかったからだった。そうやって外で涼んでいると、突然背後から声をかけられる。


「……またいる。“ユウキ”になってから、外でたそがれる趣味でもできたの?」


「お前も“アオイ”になってから月を見るのが好きにでもなったのか?」


 ユウキは振り向かずともアオイが来たことがわかっていた。一昨日の時と同じように、二人は並んで路肩に座る。そしてユウキから口を開いた。


「さっき……ちょっと衝撃的な話を聞いちまってさ」


「それは私も……もしかして……シーラのこと?」


「ははは……たぶんそう……」


 ユウキとアオイはそれぞれ聞いたシーラの事を共有する。シーラに魔法の才能が無かったこと、才能が無い自分と平民出身かつ孤児の経歴を持つコニールを重ね合わせていたこと、そして学校を退学になったこと。


 情報を共有し終わった二人はしばらく黙り込んでいた。あの明るく勝気なシーラから想像できない過去があったことに、言葉にできない思いがあったからだった。


「人って……単純じゃないんだな……」


 ユウキは今だけは“結城葵”として呟いた。結城葵だったころは、いじめられていたということもあったが、他人とあまり触れ合う機会がなかった。だがこうしてシーラにコニール、グレゴリーにモモと、色々な人との出会いを経て、“人それぞれ事情はある”という当たり前のことを、ユウキとアオイは初めて学ぼうとしていた。


「でも、それだけハマってたのに、なんでシーラはコニールさんにあんなに冷たいんだろうね」


 アオイは当然の疑問を口にする。その理由についてグレゴリーは話さなかったが、ユウキにはなんとなく理解ができた。


「多分……“裏切られた”んじゃないかな」


「裏切られたぁ? いったい何に?」


「いや……」


 ユウキは具体的な説明を避けた。それは自分とアオイにも同じようなことが言えるからだった。自分と同じなのに、あいつだけは。そしてそれはあまりにも女々しく、だからこそシーラの気持ちがユウキにも理解できた。


「……人それぞれ、か……鈴木先輩も、そうなのかな……」


「鈴木先輩が?」


 アオイはユウキに尋ねた。アオイの記憶だと、シズクがそんな悩みを抱えるような人には思えなかったからだ。ユウキはアオイの疑問を察し、苦笑して答える。


「あくまで想像だけどね。……ただ、ちょっと気になってさ」


 ユウキはモモの話も思い出していた。自分もそうだが、異邦人としてこっちの世界に来た人たちは、向こうの世界で上手くいっていなかったのではないだろうか。だからこちらの世界に呼ばれたのだとしたら、シズクにも向こうの世界で何かあったのだろうか。


「……それでも、俺は」


 ――でも自分は帰らなくてはならない。こちらの世界に来て、今までにない充実感を感じるようになった。友達が一人もいない結城葵の18年間より、こっちに来た1週間で、友人も憧れの人も、相棒もできた。


 それでもユウキは一刻も早く日本に帰らなくてはならない、という思いを忘れたことはなかった。余命短い母の下へ、必ず帰るのだという強い思いがあった。


 そしてそれはアオイも同じだった。アオイはユウキが何を考えているか察すると、力強く立ち上がった。


「さぁーて! もう夜も遅くなってきたし、さっさと寝ようか」


「……ああ、そうだな」


 ユウキも立ち上がると、アオイと並んで歩いて宿へと戻っていく。誰もいなくなった夜道を満月が照らしていた。――そして満月に大きな黒い影がかかり始めていた。


× × ×


 ――翌日。コニールは城に出勤していた。形式上はまだ異邦人調査の任務を与えられている身なので、城での常勤業務があるわけではないが、部下の面倒を見たり、今後の旅の為の事務的な作業など、やることはそれなりにあった。


 そしてこの日も訓練のために中庭にある訓練場に向かっていた。しかしどうも朝から何か騒がしく、コニールは疑問に思いながらも特に気にせず歩いていた。すると、突然何者かに腕を引っ張られ、部屋へと連れ込まれる。


「な……!」


 振りほどこうと思えばすぐに振りほどけたが、握っている手が小さく細い――つまり女のものであることと、匂いから知り合いのものであると気づき、されるがままに連れてかれた。そして城にいくつもある隠し部屋の一つにたどり着くと、そこでようやくコニールはその女性に尋ねた。


「ど……どうしたんだマリー!?」


 コニールを隠し部屋に連れてきたのは、コニールの身の回りの世話を行う従者のマリーであった。メイド服を着た彼女は息を荒げながらコニールの腕をわしづかみにする。


「コニール様! しばらくここに隠れていてください!」


 マリーはユウキやシーラ達と同年代であり、戦う力などを持っているわけではない。そんな彼女がここまで本気でコニールを止めるとなると、それ相応の異常事態が起きているということを、コニールも実感した。


「な……なにが起きてるんだ!? 少し説明してくれないか!?」


 マリーは息を切らしており、息を整えるのに10回以上呼吸を要した。そして落ち着くとコニールに説明を始めた。


「ク……クーデターが始まったんです! エドワード王子とウェイン様が! ルシアン王に!」


 それを聞きコニールは驚きながらも、半ば予想内だという風に反応した。


「なるほど……とうとう動き出したか……」


 しかし次にマリーが言い出すことは完全に想定外であった。


「あと……コニール様もクーデターの首謀者という扱いになってます」


「…………は?」


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