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第6話-②

 パーティーが終わり翌日の昼。ユウキとアオイは宿屋にあるダイニングに、従業員として立っていた。二人とも店のエプロン姿をしており、アオイは髪を後ろでまとめていた。


「……いらっしゃいませ……」


 客が来てユウキは恥ずかしげに頭を下げるが、それを見てグレゴリーが奥から怒鳴り声をあげる。


「おらぁ! ユウキ! ちゃんと明るく接客をしろ! それに案内も雑!」


「ひぃぃぃぃぃぃ……」


 ユウキはシズクと会ったことを、シーラと帰ってきたコニールに話していた。そして次はシズクからの接触を待とう、という事になり、待っている間ただボーっとするのもよくないとシーラに言われ、店の手伝いを行うことになった。シーラは別の用事があると外出してしまい、コニールも王城に騎士として仕事に行ってしまっていた。


 ユウキとアオイが接客の対応をすることになったのだが、結城葵だったころにもバイトすらしたことが無いような二人であったため、ロクに動けずにグレゴリーに叱られっぱなしだった。


「い……いらっしゃいませ……」


 アオイは赤面しながら客に挨拶をする。たどたどしい案内ではあったが、中年の男性客であったこともあり、鼻の下を伸ばしながら笑みを浮かべて案内にしたがった。


「新しい子かい? 店長さんも厳しくて大変だろう? がんばれよ」


「あ……ありがとうございます」


 アオイは見た目が非常に可愛いこともあり、拙い案内でもむしろそれが味になっているとして、男性客からは非常に好評であった。――あくまで“アオイ”は、だが。


「ユウキ! お前また水出すの忘れてんだろ!」


「うひい! すみません!」


 対してユウキは全く仕事ができず、何とかしようとしてさらにミスを重ねていく悪循環に陥っていた。シーラの紹介で無理に客席に置いたこともあり、別にユウキがいなくても回っていたのに、ユウキがいるせいで客席の循環が最悪になっていた。グレゴリーはとうとう呆れかえってユウキに別の指示を出す。


「ユウキ……お前は後ろで洗濯を頼むわ……」


× × ×


 結局、ユウキは店の後ろで洗濯板を使って洗濯をすることになった。異邦人になって力を手にしても、結局本人の要領というものまで改善されるわけではない。相も変わらず無能な自分にユウキはただ落ち込むことしかできなかった。


「はぁ……本当……俺はどうしようもないんだな……」


「どうしたの?」


 ユウキは声をかけられ振り向くと、そこにはモモがユウキの顔を覗き込んでいた。


「ああ、モモさん……」


 返事をしようとするが、ユウキはとある疑問が思い浮かぶ。


「……あのモモさんは何でここに……?」


「ん? 洗濯はいつもモモの仕事だからだよ?」


 ユウキはモモと落ち着いて話すのがこれが初めてではあったが、その口調に違和感を覚えた。その見た目や、グレゴリーと婚約していることから自分よりも一回り年上だとは思われるのだが、ひどく口調が子供っぽい部分があった。


「そうですか……じゃあ一緒に洗濯をお願いできます?」


「はーい!」


 今の一連の会話でユウキはこれ以上の追及を避けることにした。人には人の事情がある。――が、やはり気になることはあった。


「……すみませんモモさん」


「なに~?」


「……日本にいたとき、モモさんは何をされていたんですか?」


 結城はどうしてもそれが気になっていた。別にモモのプライパシーに立ち入りたいという思いがあるわけではなく、なぜ自分がこの世界に呼ばれたのか、その共通項が知りたかっただけであった。


「え~とね。ユユちんや、マミちんたちと一緒にトー横にいたよ~」


 それを聞いてユウキは一瞬で聞いたことを後悔した。福岡出身のユウキは東京の新宿に行ったことはないが、トー横という言葉が何を意味するのか、理解はしていた。


「…………すみません」


「?」


 ユウキは咄嗟に謝ってしまい、モモは何故謝られていたのか理解していなかったが、ユウキは謝ってしまったことに更に自己嫌悪に陥ることになった。謝ってしまったら、モモの今までの人生が不幸であったものだと、勝手に自分で判断してしまうことになる。しかし、ユウキは口の上手い方でも頭の回る方でもなく、解決の糸口が見えずに、ただ深い深い自己嫌悪の渦に飲み込まれていってしまった。


「……モモね。グレゴリーさんにお世話になったとき、ユウキ君と一緒で何もできなかったんだ」


 黙ってうつむいてしまったユウキに、モモは優しく話をつづけた。


「向こうでは、お母さんは全然モモを見てくれなくて、お父さんはモモをぶってきて、それでトー横にいってユユちんたちと会ったけど……苦しいだけだった」


 モモは左手の薬指にはまっている指輪を握る。


「だけどこっちに来て、グレゴリーさんは優しかった。お母さんやお父さん、今まで会ってきたおじさん達みたいにモモに乱暴するんじゃなくて……モモとして大事にしてくれたんだ」


「モモさん……」


 ユウキは顔を上げモモの顔を見る。先ほどまでひどく子供っぽいと思っていたその顔が、今は誰よりも大人みたいにユウキには見えた。


「だからユウキ君にも、こっちの世界に来たことの意味、きっとあるよ。……私はグレゴリーさんと会えた。それが何よりも大事なこと」


「…………ありがとうございます」


 ユウキは深く頭を下げ、モモの手をつかんだ。目には涙が浮かんでおり、モモに見えないようにうつむいている状態で袖で目をぬぐった。


 ――こちらの世界に来た意味。そんなこと考えたこともなかった。だが、今の言葉でユウキの胸には確信に近い何かが生まれていた。必ず自分にも役割はある、と。


× × ×


 夕方になりシーラがまず帰ってきた。そして店の手伝いも一旦終了となり、ユウキたちはシーラの部屋に戻った。


「店番やってどうでした?」


 シーラはユウキたちがバイトもした事ないと知ったうえで、手伝いのバイトをするように勧めていた。ユウキもアオイもしかめっ面でシーラに言う。


「疲れた……」


「何にもできなかった……」


 そんな二人の反応を見てシーラはニコニコしながら二人の肩を叩いた。


「まぁこれでお二人も、労働の厳しさを知ったという事でね。一歩大人に近づきましたわけですよ」


 満面の笑みのシーラを見て、アオイは毒づいた。


「シーラ私たちより年下じゃん……。でも超金持ちな上に、店いくつも経営してる立場だから何にも文句が言えねえ~!」


「ちくしょう俺らはやっぱりシーラのお人形かよ……!」


 ユウキも泣き言を漏らす。シーラは泣いている二人に対し、金貨をそれぞれ手渡した。


「はい、今日のバイト料。ちゃんと働いた分の対価ってやつです」


 お金を手渡され、二人ともピタリと文句がやむ。


「そういや……こっちの世界でお金もらうの初めてだ……」


 ユウキはもらった金貨を照明にかざした。オレンジ色の照明に照らされ、金貨が鈍く光り輝いていた。


「これ一体どのくらいなの?」


 アオイはシーラに尋ねる。


「この金貨1枚で50リンですね。ちなみにだいたいの人の月収が1500リンとかそんくらいです」


「普通の月収の30分の1ってことは……ちょっと安い日給くらいなもんか……」


 アオイは金貨を眺めながら言う。


「う~ん……あのコップ代返すのまだかかりそうだなぁ……」


 ユウキも重い面持ちで頷いた。


「そうだな……」


「ん? コップ?」


 シーラは少し考え、そして思い出した。


(あ……そういや3万リンのコップ代のこと忘れてた……。あの嘘のやつ……)


 シーラがユウキ達が離れないようにするために、咄嗟についた3万リンもするコップの嘘の事であった。


(もう忘れててもいいだろうに……相変わらず律儀だなこの人たちは……)


 今更嘘でしたとも言えず、とりあえずシーラは黙っておくことにした。どうせいつか忘れるだろうと。――しかし


「それなんでシーラ、貰った金貨渡しとくね」


「ああ、そうだな。俺の分も渡しとくよ」


「うえっ!?」


 アオイとユウキから金貨を突き返され、シーラはますます困ってしまう。


(やっば……もう嘘って言えない……)


 シーラはひきつった笑みを浮かべながら金貨を受け取った。


「あ……ありがとうございます。これであと2万9900リンで……」


 とりあえずどっかでネタバラシはするが、しばらくは気まずいから黙っておこう――。シーラは冷や汗を額に浮かべないよう、必死に誤魔化しながらそう思っていた。

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