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第6話-①

 暗闇の中に1枚の巨大な東大陸の地図が広げられていた。部屋を照らすのは1個のランタンのみであり、その会議が秘密裏に行われていることを暗に示していた。地図を囲むのは3人の男女――シズク、ウェイン、そして中央にはルシアン王の甥、エドワード王子が立っていた。


「そっちの準備はどう?」


 シズクはウェインに尋ねる。


「問題ない。……予定通り“明日”には動くことができるだろう。貴様の方はどうなんだ」


「こちらはちょっとしたトラブルがあったけど、計画には支障はない。まさか用意してた”駒”を、この1週間で2つも失うのは想定外だったけどね」


「例の“はぐれ異邦人”か……」


「そう。何がどうなったか知らないけど、あんたの元カノ……コニールと行動を共にしていてね。こっちに来るように誘っておいたけど……。あんたの方こそ大丈夫なの?」


 シズクの質問にウェインは唇を歪ませて答える。


「問題ない。……彼女は“間違いなく”こちらに付く。そもそもルシアン王に半ば無理やり“愛人”として扱われていているのだ。王を恨みこそすれ、向こうに付くこともないだろう」


 ――それはあんたも同じじゃない。シズクは喉から出かかった言葉を飲み込む。


「民衆への根回しは?」


 エドワードは暗く、野太く生気溢れる声でウェインに尋ねる。叔父であるルシアン王がやせっぽちの憔悴した枯れ木のような姿をしているのに対し、甥であるエドワードは筋骨隆々の鍛え上げられた身体付きをしていた。


「問題ございません。そもそも私たちが何もせずとも、あの愚王を支持する民衆は殆どいませんから。……敵は愚直に王家を守ろうとする兵と王宮騎士だけになりましょう」


「ふっ……確かにな。叔父上はよく、祖父にも愚かだと説教を受けていたことを思いだす」


 エドワードは現在34歳。軍人としても、この国を背負う王子としても脂の乗った壮年であった。先代王の長男という立場ではあったが、12歳という若いころからずっと軍におり、匪賊討伐や魔物退治の前線にも、2ケタの数で収まりきらないほどに出てきていた。


 そういったこともあり、多くの民衆は前線にも出ず、圧政のみを敷くルシアン王よりも、エドワード王子を支持していた。――しかしエドワードは決して『民衆思いの王子』というわけではなかった。


「シズク。この作戦が上手くいき、私が王座に就いたのなら“戦艦”を買えるという話、本当なのだろうな」


「ええ王子。我々“異邦人”は約束しますわ。……そのために王子を“私たちの国”にも招き、戦艦にもご同乗いただいたのですから」


「そうか……!」


 エドワードが目論んでいたのは、異邦人の技術を手に入れ、他国に対して侵略戦争を仕掛けることだった。叔父の圧政もエドワードはあえて黙認しており、権力を奪うためでなく、税を絞るだけ絞って軍事費を確保し、悪名だけを叔父に着せるためであった。


「シズク……こちらに回す“銃”というものはどうなんだ?」


 ウェインもシズクに尋ねる。


「問題ないわ。試作品はすでに何丁かこっちに持ってきてる。このクーデターで使い勝手を確かめて、すぐに売れる準備は整えてるわ」


「わかった。クーデターの際には部下の何人かに銃を渡して試させておこう」


 淡々と話すウェインにシズクは心の中で毒づいた。


(試すって言ったって、相手は自国の兵士のはずなんだけどね)


 ウェインもクーデターに加わるのは、愛国心の為でも王子への忠誠でもない。ただ勝ち馬に乗り、クーデターに乗じて自分のライバルを抹殺することにあった。


(まぁ私も人のこと言えないか……)


 そしてシズクはこの国に異邦人の“根を張る”のが任務であった。東大陸最大の国家であるパンギア王国を手中に収めてしまえば、あとはどうとでもなるというのが狙いだった。


 その為に王座の簒奪を目論んでいたエドワード王子に取り入り、更にクーデター協力のためにシズク含む“7人”の異邦人を、この“ド田舎”に送り込んだのだった。その中でもシズクはリーダーとして全員を率いる立場にいた。


 しかしその7人のうち2人が、半ば事故とはいえコニールと結城葵に倒されてしまった。さらに言えばライオネルがやられる直前、結城葵のデータについて送ってきていたが、慌てていた為にデータが破損していたのか“ありえないデータ”として送られてきていた。もしそのデータが真実であれば、結城葵はこの世界に存在するあらゆる異邦人を超える“ステータス”を持っていることになってしまう。


(サイトウが倒されたときも、近くに“大魔術師”ディアナ・ロマンディがいたって話だし、多分そっちにやられたんだろうな……。アンジュの話だと、ロマンディの孫のシーラって子がユウキ君についているみたいだし。サイトウのバカがロマンディ家を刺激するような事をしたんだろうな……)


 シズクがそう物思いにふけていると、シズクのスマホのバイブが鳴る。スマホを取り出して宛先の見ると“ヤード”と表示されていた。


「ちょっと失礼……」


 シズクは机から少し離れてスマホの通話に出る。


「もしもし?」


 電話の先からはガラの悪い男の声が響いた。


『こちらヤードです! ボスですかい!? ……ったく大人しくしろ!』


 電話の先でドタバタと物音が聞こえており、何か騒動が起きているのは察せられた。シズクはすぐに心当たりが思い浮かび、深くため息をついた。


「はぁ……“また”タカシね」


『そうです! この野郎、今度は女を襲おうとしやがって……!』


 タカシは1か月前にこちらの世界に来た異邦人だった。大抵の異邦人がそうではあるが、自分に特別な力があることに気づくと、犯罪に躊躇をしなくなるものが多い。その中でもタカシは欲望への抑制が効かず、目を離すとすぐに暴行に走る傾向があった。


「まったく……表向きは民衆のためのクーデターなんだから大人しくしろって言ってるのに……」


 本当はすぐにでも“消し去り”たいところではあったが、タカシはシズクにも無い“特別”な力を持っていた。


シズクがタカシと戦えば、シズクは100%自分が勝てる自信があったが、クーデターの際に出てくることが想定される“王家の切り札”と戦うにあたり、タカシの力が必須であったのだった。


「わかったわ」


 シズクは全く感情をこめず、淡々と言い放つ。


「とりあえずしばらく足腰立たなくなるまでぶちのめして監禁しておいて。あんたたち3人なら楽勝でしょうし。あと目撃者は”消して”おいた?」


 ――シズクもまた、異邦人に染まり切っていた。電話先のヤードはその指令に得意げに返事をする。


『へへっ。安心してください。もちろんですとも』


「よくやった。……それで元々頼んでいた方の任務は?」


『それもきちんとこなしましたぜ。電話終わったらデータを送るから確認してくだせえ』


「わかった。……じゃあ、あんたたちも明日に備えて適当に羽伸ばしといて。決してタカシみたいなアホはしないようにね」


『わっかりやしたー!』


 シズクは現在20歳であるが、その部下たちはシズク以上の歳の者も多い。しかし部下はシズクを“ボス”と認め、命令に従う“ロールプレイ”をこなしていた。


 シズクはスマホを操作すると、ヤードからデータが送られてきていることを確認する。それは結城葵の情報データだった。結城葵は現在シーラの叔父が経営している宿屋に泊まっていること、シーラとコニールと共に行動していること。――そして。


「……なに? これ……?」


 結城葵だけでなく、もう一人同行者がいるという情報。そのデータを開くと、シズクの表情が変わった。


「まさか……!?」


 データには“アオイ”という名前が記載されており、その風貌にはどこか見覚えがあった。数多くの異邦人を見てきたシズクはそれを見て、すぐに”ある結論”に至った。


「これも……結城君ってこと……?」


 その言葉をつぶやくシズクの表情は、驚きより“怒り”が前面に出てきていた――。


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