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第5話-④

 コニールと別れたユウキたちは、城から出て宿へと向かう道を歩いていた。ユウキは似合わないスーツのままだが、アオイとシーラはドレスのままでは歩きにくいこともあって、普段着に着替えていた。


このパーティーの間で色んなことが起こりすぎた為か、全員の足取りは重い。アオイはお腹を押さえながら歩いており、ユウキは心配そうにアオイの背をさする。


「大丈夫か?」


「うん……だいじょ……おえっ」


 アオイは気丈にふるまおうとするが、吐き気が抑えられず足を止めて壁に寄りかかる。


「……色んな事があったもんな……そりゃしかたな……」


「いや……パーティーでフォアグラ食いすぎて気持ち悪い……。今までそれどころじゃなかったけど……落ち着いて……おええっ」


 アオイは立食パーティーの際、フォアグラのステーキを10切れ以上食べていた。アンジュやインチとの遭遇、王との謁見があったためか、食べた事すら忘れており、今になって脂で胸やけを起こしていた。


「フォ……フォアグラだぁっ!? 俺なんて何にも食ってねえんだぞ!? しかもそんな高級食材!? ずるいぞ!」


「ええ……ずるいですね。……あのパーティーの食材、王が主催のパーティーであることにはありますが、それを加味しても金がとんでもなくかかっているものばかりでした」


 シーラはユウキたちの会話に割り込んで話した。


「王の部屋の調度品も見ましたよね? やたら豪華な、言い方を変えれば趣味が悪いくらいに金のかかっているものばかりでした。……兄さんたちは知らないかもしれませんが、ルシアン王はぶっちゃけ民衆からの評判最悪なんですよ」


 ユウキは王と謁見した時に、部屋を眺めていたことを思います。ユウキにはそういった審美眼はないが、その程度でもわかるくらいに王の居室に金がかかっていることがユウキにも理解できた。


「じゃあ、あの王様が悪者ってこと?」


 ユウキはシーラに尋ねるが、シーラは肩をすくめながら答えた。


「はっきり言って、歴代の王で最低って言われるくらいには。この城下町はまだマシですが、他の属領地は重税で喘いでるし、そもそもこの城下町だって……」


 そう話していると、ユウキたちはいつの間にか5人組の男に囲まれていることに気づく。


「おうおうどうした嬢ちゃんたち。こんな夜更けにガキだけで歩いてよぉ」


 男たちはユウキから見ても一発で“輩”とわかるほどに身なりが汚く、そして敵意を感じさせた。


「お嬢ちゃん達だけで歩いてちゃ危ないでちゅよ~。……特にこんなダセえガキに連れてもらってるくらいじゃよぉ~! ギャハハハハ!」


「こんなダッセエガキよりも、俺たちと一緒にいいことしないか~! アヒャヒャヒャ!」


 男たちはユウキのあまりに似合っていないスーツ姿を見て爆笑する。ユウキは無視して離れようとするが、男たちは囲んで逃がそうとしなかった。


「……なるほどね。“治安が最悪”ってことか……」


 ユウキは先ほどのシーラの話の続きが、実感として理解できた。


「ええ……政情の不安定さから離職率が増加し、兵士たちは仕事しなくなるし、治安は年々悪くなってますね。……で、どうするんですこの状況」


「まぁ……逃げるしかないよな」


 ユウキはまずアオイを右手で抱え上げ、そしてシーラを左手で抱え上げる。突然のユウキの行動にシーラは不安そうにユウキに尋ねる。


「いや、兄さんがアイツら倒すとかじゃないんですか……?」


「え、いやだよそんなの。怖いもん」


 目の前で女の子二人を軽々と持ち上げたユウキに対して、男たちは動揺して後ずさる。


「お……おい普通あんな簡単に人って持ち上がるか……?」


 男たちが動揺してる間に、ユウキは足に力を入れ、逃げる方向を確認する。


「それじゃあ」


 ユウキは思い切り足を蹴りだすと、目にもとまらぬ速さで駆けていった。抱えられたアオイとシーラが激しく上下に揺さぶられる。その様子を見て男たちは腰を抜かし、ポツリと呟いた。


「…………酔っぱらってたのか俺らは」


× × ×


 ユウキは5分ほど走り続け、噴水がある大きな広場へとたどり着く。充分な距離を取ったと判断したユウキは、両腕からアオイとシーラを落とす。激しく揺さぶられ続けた二人はぐったりとして、近くの噴水の縁に身体を預けた。


「お……おえええっっっ……も……もうこんな経験したくない……!」


 アオイは噴水の池の中で思いっきりえずいた。


「ご……ごめんごめん……」


 ユウキはアオイの背中をさすりながら謝る。シーラも口からヨダレが垂れていたが、アオイよりはまだ元気があるのか、ユウキへと尋ねた。


「なんで……叩きのめさなかったんすか。兄さんの力なら楽勝でしょう……」


「いやだよそんな物騒な選択肢……。それに力があるっていったって、喧嘩とかしたことないんだから、何もできないって……」


「何にもできないって……。ただこうポーンと……」


 それ以上言おうとしてシーラは口を閉じた。一番最初に異邦人と会ったとき、ユウキは咄嗟とはいえサイトウとかいう異邦人の胸を思いっきり叩いていた。すぐに消えてしまったのでどれほどのものか確認ができていなかったが、消えたという事はそれなり以上の重傷だったのは想像できる。


(コニールも言っていた……。兄さんは他人を攻撃することができないと。どういうことか若干理解ができなかったけど、こういうことか……)


 “それ”を甘えとか弱さとか言うのは簡単ではある。しかしシーラはそれを言うつもりは毛頭なかった。数日前まで“いじめられている側”であった普通の学生に、力を得たから戦えと言う方が異常なのだ。


 むしろ、その力に悩む姿勢はシーラにとっては好ましく見えた。――それができなかった人間が“異邦人”となっているのだから。


「……すみませんでした」


 シーラは本心から、深く頭を下げて謝った。しかしユウキは何故謝られているのかわからずに首をかしげる。


「ん? ん? ……何が……?」


「……いや、兄さんはそのままの貴方でいてください」


 とうとう耐え切れず胃の中が逆流し、女性の見た目でやってはならないことをするアオイ。満天の星空の下、雰囲気ぶち壊しの吐瀉音が夜の闇に響き渡るのであった――。


× × ×


 しばらく休んでからまた歩き始め、黎明亭の前に着くユウキたち。もう店も灯りが落ち切って、扉も鍵が掛かっているが、シーラはポケットから鍵を取り出した。


「私が合鍵持ってるんで、開けてさっさと入っちゃいましょう」


 3人は黎明亭の中に静かに入ると、シーラの部屋へと向かっていく。そして部屋に着くとまずアオイをベッドに寝かせた。ユウキもようやく落ち着くことができ、ソファーに腰を下ろす。それはシーラも同様で、自分のベッドに寝っ転がった。


「はぁ~疲れた……。とりあえず順番ずつ風呂入っちゃいましょうか……。兄さんも今から叔父さんの部屋に行くわけにはいかないでしょうから、ここで入っちゃってくださいよ」


「あ~……うん……布団もグレゴリーさんの部屋に置いてあるから、今日はここで寝るしかないかな……」


 シーラは立ち上がると、風呂場へ向かっていった。


「じゃあまず私から入りますね。……姉さんはどうします? “また”一緒に入ります?」


 シーラの問いにアオイは身体を起こさず手を振るだけで答えた。


「んーん……今日は風呂キャンで……。気持ち悪くて無理……朝入る……」


「わかりました。じゃあ先いただきま~す」


 シーラが浴室に向かっていくと、ユウキは冷や汗を流しながらアオイに尋ねた。


「お前、シーラと一緒にお風呂入ったのか……?」


「……だってこの身体になって、初めてのお風呂だったんだもん……。胸に変なのあるし、股間にあるものが無いし、洗い方もわからなくて……」


「お……おう……」


 そしてそのまま二人は黙ってしまう。しかし浴室からシャワーの音が聞こえはじめ、シーラが風呂に入っていることを意識してしまう。


「あ~……あ~……あのさ、俺……パーティーで鈴木先輩と会ったんだ」


 シャワーの音を打ち消すため、ユウキは会話をすることを選択した。


「え!? なんでそんな大事なこと今言うの!?」


 しかしアオイからしたら、いきなりの爆弾発言にただただ困惑するだけであった。


「いや……だって色んな事ありすぎて、そんな暇なかったから……」


 そう言われるとアオイもそれ以上は言えなかった。自分もアンジュとインチに出会ったことを言えておらず、隠しているのはお互い様だったからだ。


「なんて……話したの?」


「……仲間にならないかって言われた」


「え!?」


 またも衝撃の発言が続ぎ、アオイは気分が悪いのを忘れて身を乗り出した。ユウキはそのまま話を続ける。


「異邦人は別に悪い存在じゃない。今日のパーティーの料理でもあったように、このエルミナ・ルナの世界に発展をもたらしている、だってさ。ずっと昔から異邦人はこの世界に定期的に呼ばれていて、その度に進歩した向こうの世界の文明をこちらに持ってきている。先輩がこの国でしようとしていることも、悪辣な王を倒すため……とかなんとかさ」


「なんて……返事をしたの?」


 アオイはユウキに尋ねるが、ユウキは首を横に振る。


「とりあえず保留にした。……お前が俺だったら……いや俺なんだけどさ……逆の立場だったらその場で返事できると思うか?」


 ユウキの正論にアオイも納得せざる得なかった。


「ううん……できない。まずシーラあたりに話聞かないと……になるわね……」


 シーラの名前が出て、風呂の事を思い出してしまったのかユウキは浴室に目を向ける。相変わらずシャワーの音が聞こえ続け、気まずい感じになってしまう。


「自分たちの事だから自分で決めなきゃとは思うけどさ……」


 ユウキの言葉にアオイは元自分がどうやって続けるか理解し、後ろの言葉をつないだ。


「自分じゃ判断なんてできないよね……」


「「はぁ…………」」


 そうして長い夜が終わりを迎えた。ユウキとアオイの胸に去来するものは“不安”の二文字だけだった。――それは皮肉にも“結城葵”だったころの悩みと同じだった。


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