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第5話-③

 パーティーが終わり、会場の喧騒は止み、今は片付けの音がカチャカチャと鳴り響くだけであった。城も全体的に灯りが落とされ、薄暗く静かな廊下をユウキ達一行は歩いていた。ユウキ達が聞いていた事前のスケジュールはパーティー中に王と話すというものであったが、土壇場で王がパーティーが終わってからにすると予定を変更したのだった。


「周りに聞かれる……って警戒するにしては逆に危なくない? 兄さん姉さんが、王への刺客だったらどうするのかとか、警戒するでしょう普通」


 歩きながらシーラは疑問を口にする。それに対し先導しているコニールが答えた。


「私が……あとシーラ君がいるからだろうな。ロマンディの孫娘という話を聞いたときに、表情を変えていたからな」


「……なるほどね。私は王様と会ったことはないけど、こんなところでもロマンディの名は付いてくるってこった」


 シーラは自嘲気味に答える。――アオイは先ほど、シーラと一緒に出会ったアンジュとインチの話を、ユウキ達にはしなかった。


シーラとアンジュの過去について、アオイは聞くこともしなかったが、容易に触れるべきではない過去だと判断していた。そして今もなおシーラが自分から話さないということは、


 そしてそんなことを考えている間に、王の居室へとたどり着いていた。コニールは扉をノックする。


「陛下……コニールです。入室してもよろしいでしょうか」


「……ああ、コニール……入ってくれ」


 そのあまりにもか細い声は、ドアに聞き耳を立てていたコニールと、ユウキにしか聞こえなかった。コニールはドアを開けると、中に入りすぐに深く頭を下げる。


「陛下、失礼します」


 ユウキとアオイもコニールの動作が王への正しい動作だと察し、コニールと動揺に頭を深く下げる。


「し……失礼します」


 シーラだけは深く頭を下げることなく、少し頭を下げる程度の態度を示していた。


「さ……座り給え」


 パンギア王国国王――ルシアン王のその言葉を聞き、ユウキはようやく頭を上げ、部屋の中を見る。贅を尽くした稠度品が部屋のかしこに並べられており、夜ということもあり薄暗い灯りの中でも、それらの品々の豪華さが見て取れた。そして部屋の真ん中にユウキ達が座る用と思われる椅子が4つと、王の為のこれまた豪華な椅子が1つ置かれていた。


 コニールがまず先導する形で椅子に座り、それに合わせてユウキたちも椅子に座る。4人が座ったのを確認して、ルシアン王も椅子へと座った。


「……よく来てくれた」


 ルシアン王はユウキ達へと微笑みながら言う。――しかし察しの悪いユウキとアオイでもすぐわかるほどに、そのルシアン王の顔には疲労と焦燥が刻まれていた。


「コニール……まずは君の調査結果の報告をしてくれないか」


「はっ。それではこれより私コニール・ハインラインの調査結果を報告させていただきます」


 ルシアン王に言われ、コニールはこれまでの出来事を説明した。そしてこの時は騎士団内に異邦人と繋がっている者がいる可能性がある、と説明を行った。


「そうか……」


 ルシアン王は足を揺らし、手をきつく組んでいた。そしてコニールが報告している間にユウキは辺りを見回していた事もあり、強烈な違和感に気づく。そしてアオイに小声で話した。


「おい……この部屋……なんかおかしいぞ」


 アオイも気づいていたのか小さく頷いた。


「うん……特に窓がおかしい……」


 窓は分厚いカーテンが掛けられており、また隙間から板で打ち付けられている様子が覗かれていた。また、暖炉があるのだが、暖炉も煙突に繋がる部分が板で打ち付けられている。


「ううう……騎士団に裏切り者が……ということは……」


「ええ……おそらくエドワード王子の派閥かと……」


 ルシアン王とコニールは何やら話しているが、ユウキとアオイにはちんぷんかんぷんであり、話の3割も理解できていなかった。いたたまれなくなったアオイはシーラに小声で声をかける。


「ごめんシーラ……今一体何が起こってるの……」


「ああ……二人はこの国のアレコレとか知らないから、何が起こってるのか全くわからないのか……じゃあちょっと説明しますね……」


× × ×


 ルシアン王がパンギア王国の王座に就いたのは6年前のことだった。ルシアンの兄である先代の王が急死し、最初はその息子であるエドワード王子が王座を引き継ぐはずだった。


 しかしルシアンが策謀に策謀を重ねた結果、その王座を土壇場で掠め取った。しかしルシアンはエドワードを完全に排除することはできず、政治争いに負けたとはいえ、エドワードはまだ国の実権を握るほどの力をまだ持っていた。


特に軍隊の一部はエドワードの管轄下にあり、ルシアンは常に喉元に剣を突きつけられた状態となっていた。


× × ×


「……って訳で、ルシアン王は甥であるエドワード王子が実力で王座を奪いに来ることを警戒しているわけです」


 シーラはユウキ達にも理解できるように至極わかりやすく説明し、その甲斐あってかユウキ達も理解ができていた。


「なるほど……だからこの部屋はこんなに……」


 ユウキは改めて部屋を眺める。エドワード王子からの暗殺を恐れているのであれば、この部屋の異様さも納得ができた。外に繋がるあらゆる箇所がふさがれており、王の憔悴した表情もそれが原因だとわかった。――しかしここで疑問が一つ浮かんだ。


「……だけどそれならやっぱおかしくない? さっきシーラも言っていた通り、護衛とか……」


「それはこの話聞いていて、私は理解できましたよ」


 シーラは王と話し込むコニールに目を向ける。


「……おそらく王様からしたら、コニールが最も信頼できる部下なんでしょう。……コニールは4年前に、魔物に襲われた王様を一人で助け出した功績がありますから。その後もコニールは王様からいくつかの任務を与えられ、すべてこなしてきています」


「……なんかすごい詳しくない?」


 アオイはコニールの功績をスラスラと諳んじるシーラに疑問を覚えた。シーラは慌てて口を抑え、そのまま黙ってしまった。その様子を見てユウキはふと頭の中に考えがめぐる。


(そういやこの世界は写真が無いはずなんだよな……タカシと戦った時にコニールさんに気づいた人たちは少なかったし……。だけどオルレアの町でコニールさんと初めて会ったとき、シーラのやつ、コニールさんが自己紹介する前から、コニールさんの名前を呼んでなかったか……? でもコニールさんはシーラと面識なさそうなんだよな……)


 ユウキのその考えはルシアン王が急に立ち上がったことで、まとまる前に霧散した。立ち上がったルシアン王はコニールの肩に掴みかかった。


「エドワードが何か企んでいるとなると、そこにはアークボルト王宮騎士も関わっているはずだ……! コニール……! 貴様は何か知らんのか!」


「ちょ……ちょっと!?」


 ユウキはコニールに掴みかかったルシアンを見て、立ち上がろうとする。しかしコニールがそれを叫んで静止した。


「大丈夫だ!」


 コニールに叫ばれたユウキは、大人しく腰を降ろす。そしてコニールは自らの肩を掴むルシアン王の手を優しく握った。


「陛下……大丈夫です。私は裏切りませんから」


「ふーっ……! ふーっ……!」


 ルシアンは目を血走らせ、ヨロヨロと椅子に座る。コニールは急ぎ水を取ってきて、ルシアン王に手渡した。


「陛下……どうぞ」


「うむ……」


 ルシアン王はコニールから受け取った水を飲み干すと、コップをコニールに渡す。


「すまなかった……。何にせよ現在の状況はよくわかった……。コニール……少し内密の話をしたいから、今日はこの者達を帰してはくれぬか」


 コニールは王からの話を受け、うつむいたまま返事をする。


「…………承知いたしました陛下。……悪いね、今日は君たちは帰ってくれないか。明日私の方から黎明亭に行って、合流するからさ」


「は……はぁ……」


 ユウキとアオイは反論することなく立ち上がると、一礼をして部屋から出ていった。しかしシーラはまだ残っており、コニールを睨みつけていた。


「シーラ君? ……君も帰って、というかユウキ君たちを案内してあげてくれないか? あの子たち二人じゃ絶対に迷うだろうから……」


 ”シーラ”という言葉にルシアン王が反応しなかったことを、シーラは見逃さなかった。そして王に聞かれないように小さく舌打ちすると、振り返って部屋から出ていった。


「どうしたんだ? シーラ?」


 ユウキは妙に部屋から出るのが遅れたシーラに質問をする。しかしシーラは普段の二人への態度が嘘みたいに、不機嫌そうに答えた。


「なんでもないっす! ほら! さっさと帰りましょう! もう少しで日を跨いじゃいますよ!」


 ――コニールは嘘をついていた。シーラは今のやりとりで理解をした。部屋に入る前、コニールはシーラに、ロマンディの孫娘がいるから警備が無くても信頼できる旨の話をしていた。しかしそれは嘘だった。


 では何故そんな嘘をとっさについたのか。それは簡単だった。『警備がいない理由』が他にあったからだ。そしてそれはシーラの心の中を酷く乱させた。


「…………んああああああっっっ!!!」


 シーラは感情が我慢できず、壁を思いっきり蹴っ飛ばした。シーラの突然の行動にユウキとアオイは流石に声をかける。


「ど……どうしたんだよシーラ!?」


「大丈夫……!?」


 アオイはシーラの手を掴み、我に返ったシーラはハッとしてユウキ達に謝る。


「あ……すみません。ちょっと今日色々ありすぎて……」


 シーラは自分の手を握ってくれているアオイの手を握り返す。今はこの人の温もりが何よりもありがたかった。そして自己嫌悪に陥った。――自分はクズだ。という深い深い自己嫌悪に。

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