第5話-②
ユウキとシズクはパーティーの一画で並んで座っていた。ユウキが今日このパーティーでシズクと会ったのは計画していない偶然ではあったが、会った場合の時の事を事前に、シーラにシミュレーションを受けていた。
「まさかこんなところで会うとは思わなかったよ、結城君」
「……コニールさんに招待されたんです。コニールさんも異邦人の情報を調べてるから」
事前に決めたことは3つ。『何も知らないで通す』『コニールの事は話していい』そして『アオイの事を話さない』だった。
「びっくりしたよ。あのコニールと知り合いだなんて。……彼女に私の部下がヤラれたけど、その時に出会ったという認識であってるわけかな」
ユウキはオルレアの町で戦った、ライオネルの事を言っていると判断し頷いた。
「……ええ。あのライオネルって奴が俺を襲ってきた際に、コニールさんに助けてもらったんです」
「そう……アイツもバカだったからね~……。潜入任務を与えてたとはいえ、単独行動させちゃったのはミスだったかな。まさか任務を放棄して君を襲っちゃうとはね~」
ここまでシズクが話している事は全部シーラの予想通りであり、ユウキは別の意味で背中を汗で濡らしていた。シーラはライオネルがシズクの部下であること、シズクの動向を観察させる為に潜入させていたこと、全て推察していた。
「……どうして皆、俺を狙うんですか?」
「ああ、それはね……」
シズクはドレスに付いポケットからスマホを取り出した。
「君みたいな”はぐれ異邦人”は珍しい事じゃなくてね。定期的に討伐のクエストが出るんだよ。……居場所もマップ機能でおおざっぱな位置まで出してくれるから追うこともできるし」
シズクはスマホの画面をユウキに見せる。そこには“文字“でユウキの居場所が書かれているみたいであった。
「ライオネルの奴は、潜入任務が面倒くさくなったのと、君がオルレアの町に現れたこともあって、一石二鳥だと思って襲ったみたいだけどね~」
”はぐれ異邦人”という言葉を聞き、モモのことが頭に浮かぶ。しかし今はなるべくその事を話さないよう、細心の注意を払うことを心に決めた。
「なるほど……それで異邦人って何なんです? というかこの世界って……」
「話してもいいけど、一つ条件があるかな。……君にもとっても良い条件だけど」
「……条件?」
「そう、条件。……君が私の仲間になるなら、って条件」
× × ×
アオイとシーラは一旦気持ちを切り替え、食事に集中していた。いくら料理のラインナップにショックを受けていたとはいえ、並んでいる料理はどれも魅力的であった。アオイとシーラは取れるだけ取って、むさぼり食っていた。
「う……美味い……! 美味すぎる……!」
アオイはフィレ肉の上にフォアグラとトリュフとキャビアが乗った、ロッシーニ風ステーキが特に気に入ったのか、10切れ目に突入していた。
「こ……こんな美味いものがこの世にあったのか……! ずるいでしょ上流階級……!」
しかし調子に乗って食いすぎたためか、口の周りがソースでベトベトになってしまっていた。
「やべ……確かシーラに荷物預けちゃってたか……シーラ、ハンカチある~?」
アオイは一緒に食事をしているであろうシーラを探し辺りを見渡す。そしてすぐシーラを見つけて声をかけた。
「シーラ~! ごめ~んハンカチ~……」
しかしアオイはただならぬ雰囲気を感じすぐに黙った。シーラの目つきが普段自分たちに向ける明るいものではなく、暗すぎる何かを宿していたからだ。
「どうしたの……? シーラ……?」
アオイはシーラの目線の先を見た。そこには二人の男女がシーラと向き合っていた。
「お久しぶりねシーラ。……あなたが学校を辞めた……いや”退学”になってから半年ぶりくらいかしら?」
「アンジュ……! てめえ……!」
アンジュと呼ばれた女性はロングの緑髪の女性で、シーラに比べて大人びて見えた。その髪色や風貌から異邦人ではないとアオイは確信できた。――問題はその隣の男だった。
「どうしたよアンジュ? 知り合いか?」
オールバックに後ろで金髪をまとめたその男は、スーツの上からもわかるほどの筋骨隆々の大男で――アオイの目から見ても日本人、つまり”異邦人”だった。
「ええインチ。私の学生時代の3つ下の後輩。問題児として有名だったのよ、このシーラは」
(インチ……? そんな名前じゃ日本人じゃない……いや)
アオイはオルレアの町で戦った”ライオネル”という名前の異邦人を思い出す。異邦人は名前を自分で変える傾向がある。特にこの世界はアオイが知っている限りメートル法を使っていたはずだった。なのにインチという名前を使っているということは、そういう単語を”知っている”ということだった。
「シーラ……」
アオイはシーラの腕を軽くつねり、シーラはようやく落ち着きを取り戻してアオイが側にいることを察する。――逆に言えば普段聡明なシーラがアオイに気づけないくらい頭に血が上っている事の表れだった。
「あら、お友達? ……学校じゃ一匹狼を気取ってたのに」
アンジュもアオイの存在に気づく。そしてアンジュの横にいたインチもそれに気づいた。
「ほう……異邦人じゃないみたいだが……日系の血が混ざってるのか? 俺好みの女じゃねえか……」
「ちょっとインチ!」
インチの欲望丸出しの発言に、アンジュは露骨な嫌悪感を示した。
「お、すまんすまん。……だが、その顔覚えたぜ」
「はぁ……ま、久しぶりに再会できてよかったわ。……あんたの落ちぶれた姿を見ることが見ることができて、ね。アッハッハッハッハ! それじゃあね!」
アンジュとインチはそのまま去っていくが、去り際にインチはアオイの尻を揉んでいった。
「ひっ!」
アオイは不快感に身を捩らせ、怒りの表情をインチにぶつけるが追うことはしなかった。――今追っても何もできる気がしないし、それに。
「……大丈夫、シーラ?」
シーラの顔の化粧が崩れるくらいに、怒りで染まっていたからだ。今は追いかけることはできない。シーラの側にいてあげなくては。アオイはそう思い、シーラの手を優しく握った。
× × ×
コニールはパーティー会場から出て、衛兵の詰所に向かっていた。『至急連絡することがある』そう命令を受けたからだった。詰所の前に来たコニールは部屋の扉をノックする。
「コニール・ハインライン上級騎士、入ります」
コニールは自分の名前と騎士としての序列を宣言して入室した。中には大きな机が一つ構えられており、そこには男の騎士が一人座っていた。
「よく来たコニール。……そこの席にかけてくれたまえ」
その男は机の前に置かれた椅子を指し示す。コニールは何も言わずに椅子に座った。
「……アークボルト隊長。私が呼ばれた理由は何でしょうか?」
男の名はウェイン・アークボルト。パンギア王国における王宮騎士であり、コニールが所属するアークボルト隊の隊長でもあった。
「フ……アークボルトなんて呼び方はよそよそしいじゃないか。……ここには二人しかいない。以前通りにウェインで構わないよ」
「…………わかりました、ウェイン」
ウェインは自分の椅子から立ち上がり、コニールの方へと歩いて寄っていく。そしてコニールの長い髪に手を通し、撫でまわした。
「君の”異邦人捜索”の任務を撤回できず、本当に申し訳ないことをした。……だが君はやはり優れた騎士だ。こんなにも早く、異邦人を連れてくることができるなんて」
「ええ……。完全に偶然ですけどね。本当にたまたま、ユウキ君と出会えたわけですから」
コニールはあえて”アオイ”の事を口にしなかった。これもシーラの入れ知恵であった。――騎士団の中に異邦人と通じている者がいる、と。
「謙遜しなくていい。私は君を信じていたよ。……必ず、すぐに戻ってくれると」
「そうですか……」
ウェインの手が髪から背に伸びていく。
「君に任務が与えられたとき、私は君のこと想って強く反対をしなかった。もし君への任務に反対して、私がこの立場を追われれば、その時こそ本当に君を助けられなくなると思ったからだ」
ウェインの両手が腰に伸び、コニールを抱きしめる。コニールは抵抗するそぶりも見せなかった。しかしゆっくりとウェインへと言う。
「……ウェイン。私がここに呼ばれた理由はなんでしょうか。……今私は会場の警戒任務についております。火急の用で無ければ、戻らないといけないのですが……」
「ああ、コニール。大事な用がある」
ウェインはコニールの顎に手を伸ばし、コニールの顔を自分の方へと向けた。
「だが今は、久しぶりに二人の時間を過ごそうじゃないか」
――コニールとウェインは恋人同士の関係であった。元々孤児であったコニールがこの歳で上級騎士にまで出世できたのは、剣の才能だけでなく、名家出身のウェインの後ろ盾があったこととは無関係ではない。
だが今コニールはある想像が頭に浮かんでいた。そしてそれは今のやり取りで確信へと変わっていた。
――ウェインは異邦人と繋がっている。




