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第5話-①

 そして翌日、パンギア王城では月に1度の定例のパーティーが行われていた。これはパンギア王国の伝統であり、定期的に王家も参加するパーティーを開くことで、王家とその他名家や民衆との距離を置きすぎないようにする、というものであった。


 コニールも騎士としてこのパーティーの間は警備に回らなくてはならず、パーティー会場には入るものの、それは警備を行う”騎士”としてであり、参加者としてではなかった。その為、コニールの恰好は甲冑をつけた騎士の恰好であった。


「遅いな……」


 コニールは会場外の廊下でユウキ達の到着を待っている。王家やその他有力貴族が出席していることもあり、当然ドレスコードはかなり厳しく存在しており、ユウキたちは礼服に着替えていた。


「すみませ~ん遅くなりました~!」


 まずはユウキが着替え終わり、廊下の向こうからやってくる。


「ああ、ユウキ君来……う……うわぁ……」


 コニールはユウキの姿を見て、げんなりとした声をあげる。ユウキも半ば自覚があるのか、不貞腐れながら返事をした。


「うう……わかってますよ! 全然似合ってないのは!」


 シーラが選んだこともあり”服”自体には何も問題がなかった。髪型も整えられ、髭も剃って、全てのパーツがちゃんと整えられているのに、ユウキに“全く似合っていない“という致命的な問題が発生していた。


「ど……どうしてこんなに似合ってないんだ……」


 コニールはユウキの全員をくまなく見る。そして無慈悲な一言でまとめた。


「わかった、君が単純に幼いんだ……」


「幼いって……俺18……」


「いや年齢っていうか、まとっている空気というかオーラというか……。なんか背伸びした子供が無理やりスーツ着てる感じなんだ……」


 あまりにひどい言いぐさにユウキは目に涙をうかべうつむいた。


「お……俺……帰ります……」


 コニールはようやく言いすぎてしまったことを自覚し、慌ててユウキに謝る。


「ああっ! ごめんごめん! だ……大丈夫だよ! 上流階級の人たちばかりだし、そんな他人にノンデリな人もいないから……多分」


「上流階級の人ってものすごいノンデリなイメージじゃないですか!」


「なにしてんすか」


 突然声をかけられ振り向くユウキとコニール。声をかけた女性は綺麗なドレスに、気品漂う化粧で上品なふるまいをしており、その女性に心当たりがないユウキは恐る恐る尋ねた。


「え~と……どなたです……」


 ユウキもコニールも全く気づいていない事を察し、”シーラ”はユウキの頭を小突いた。


「私ですって、シーラですよ! 何初めて会いましたみたいな反応してるんですか!?」


「「ええ~っ!?」」


 ユウキとコニールは驚きのあまりにのけぞった。普段のシーラとは全く似ても似つかないほどに”美人”と言って過言ではない。このパーティーの雰囲気にあった気品さがあふれでていたからだった。


「ロマンディの家でパーティー出る機会が結構あったんで、こういう恰好には慣れてるんですよ! 普段、私はフィールドワーク中心だから化粧が薄目なだけで!」


「うわ~……女って化粧でこんなに変わるんだ…………ん、待てよ……じゃあアオイは……」


 あまりに変わったシーラに気を取られ、シーラの後ろにいた”女性”に全く気が行ってなかったユウキはようやくその女性に気が付く。――そして胃がとんでもない勢いで捻じれ始めた。


「嘘だろ……嘘……!」


 ドレスとコルセットにより強調されたボディライン、事前にヘアサロンに行き整えられた長い黒髪、そして化粧により気品さが押し出された顔。どこに出しても恥ずかしくない、立派な女性としてアオイがそこに立っていた。


「う……うお……」


 コニールも思わず息を飲んだ。このアオイを見て誰が数日前に”男”であったと思うだろうか。言葉を失っているユウキとコニールを前に、アオイは沸騰しそうなくらい赤面していた。


「ううう……は……恥ずかしすぎる……」


「いや何言ってんすか姉さん! 恥ずかしくないようにめっちゃ気合いれて化粧してきたんですから! 堂々としてください!」


 さきほどからやたら楽しそうにしているシーラを見て、コニールはユウキに囁くように言った。


「シーラ君……あの子は絶対に人形遊びが好きなタイプだろ……」


 ユウキは一切の迷いなく頷いて同意した。


「ええ……そういや俺たちの能力検証する際もやたら楽しそうだったし……他人をイジルるのが大好きなタイプだあれ……」


× × ×


 ユウキたちがパーティー会場に入ると、燦然と輝くシャンデリア、華やかなスーツやドレスを着た出席者たち、そして長いテーブルには目もくらむような高級食材による料理が彩り豊かに並べられていた。


「うわぁ……こんなパーティー初めて出席した……」


 貧乏暮らしが長いユウキはその華やかなパーティの雰囲気に圧倒される。修学旅行のホテルの食事が、今まで食べた料理の中で一番高級だった思い出なくらいだったものが、その100倍くらい豪華なものが並べられていたからだ。


 会場に入ってきたユウキ達を見て、トレーを持ったウェイターがユウキ達の下へ来る。ユウキ達が未成年であることをちゃんと事前に察していたからなのか、トレーの上に置いてあるものは全部ソフトドリンクであった。


「ウェルカムドリンクはいかがでしょうか。こちらからアップル、オレンジ、そして……”コーラ”になります」


「えっ!?」


「んんん!?」


 思いがけない単語にユウキとアオイは即座に反応した。


「どうしたんです?」


 シーラが尋ねると、ユウキはウェイターからコーラを貰いそれを一口飲む。


「……うっそ……マジでコーラだ……」


「というか見てユウキ!」


 アオイは並べられている料理を指さす。


「寿司が並んでる……! あとこれ天ぷらに……湯葉まであるよ!?」


 テーブルの上には寿司に天ぷらに、湯葉巻きが並べられていた。寿司の具材はマグロは並んでいなかったが、はまちや鯛に似たネタやエビ・タコ・イカ・それに肉巻きも並んでいた。天ぷらもエビにサツマイモ、イカと日本でよく見る具材が数多く並べられていた。


「どういうことだ……!」


「……その反応を見るに、どうやら兄さん達の故郷の料理って事みたいですね」


 シーラは寿司をいくつか取ると、醤油にワサビでそれらを食べていた。


「でも、ぶっちゃけ私からすると、そんな珍しいものじゃないんですよ。近くに海があるから海産物が多くあるんだなくらいで。……でも逆に言えば、それがマズいわけですね」


「このパンギア王国には、いや東大陸には日本の文化が根付いているってことか……? 何故……?」


 ユウキ達が並んでいる食事にショックを受ける中、コニールは何やら警備の衛兵と話し込んでいた。そしてユウキ達が落ち着くころを見計らって声を掛ける。


「あ~……すまない。ちょっと仕事で外さなくてはならなくなった。この後王様の時間は取っているから、それまで立食パーティーを楽しんでいて貰えないか?」


 コニールの言葉が耳に入ってはいても、ユウキとアオイは返事をできないくらいのショックを受けており、代わりにシーラが答えた。


「あー……まぁ今この二人は返事できる状態じゃないから……。私がいるから大丈夫なんで、さっさと行って来たら」


「……わかった」


 コニールはユウキ達を心配はするものの、仕事のために一旦離れることになった。なおもショックを受けている二人にシーラは務めて明るく声を掛ける。


「さぁさぁ! こんな豪華なメシがタダで食えるんですから! ほらほら姉さん! あっちにケーキとかあるから食べにいきましょうよ!」


 シーラはアオイを連れてデザートのコーナーに向かっていった。残されたユウキはコーラを一口飲むと、近くの椅子に腰を降ろした。


「い……一体何なんだこの世界は……?」


「……隣に座ってもいい?」


 座っているユウキの目の前に女性が一人現れる。そしてユウキの返事を待たずして、ユウキの隣の席に座った。


「ここの料理食べた? ……今日のパーティーの食事のテーマは”東大陸における最先端の流行料理たち”、だって。寿司とか天ぷらだけじゃなく、フォアグラのロッシーニ風とか、ハマグリのワイン蒸しとか、いっぱいあるよ?」


「……貧乏暮らしが長かったもんで、そんな高級料理食ったら胃に蕁麻疹ができそうです。……それに今はとてもメシ食う気にはなれませんよ……”鈴木先輩”」


「こっちの世界では”シズク”って呼んでほしいけどな。……結城君」

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