第4話-④
夜が更けていき、就寝の時間が近づいてきた。ユウキは結局下のダイニングで寝ることになり、シャワーだけグレゴリーの部屋のものを借りた。そして余った毛布をかき集めると、そこに簡易的な寝床を作った。
「布団で寝るのも久しぶりだな……今までむしろベッドで寝る機会の方のが中々無かったんだけど」
ユウキは寝巻に着替えており、来ていた学ランとマントは近くの机に畳んで置いていた。そして寝床に寝転がると、ユウキは天井を眺めながら呟いた。
「……そういや俺はいいけど、アオイも自認は”俺”のはずなんだよな……。アイツ一体今どうなってんだろう……」
× × ×
ユウキの心配通り、アオイはあまりにも甘い匂いがする空間に困惑していた。コニールは言うに及ばず、シーラも一般的な美醜の価値観から見て、遥かに美少女側であるため、アオイは目のやり場に困っていた。
そして現在、コニールは浴室でシャワーを浴びており、アオイはその音を心臓をバクバクさせながら聞いていた。
「お風呂あがったぞ~」
コニールが髪をタオルで拭きながら浴室から出てくる。パンツとシャツだけの薄着で部屋を歩き回っており、その光景はアオイには目の毒すぎた。
(うわあああああ!!!)
アオイは声に出さずに心の中で叫び声を上げる。昨日はテントの中でシーラと密着して寝ていたが、あれはかなり暗かったのと、疲れ切っていたこともあってリアクション取る余裕がなかった。しかし今はそれなりに体調が戻っているのと、部屋の照明もしっかりあることも相まって、アオイの目には毒すぎる現場が克明に映し出されていた。
「どうしたんすか?」
シーラはアオイのその感情を知ってか知らずか、無防備にアオイに寄ってくる。シーラも部屋でリラックスする用の薄着であり、近づくといい匂いがした。そしてアオイにタオルを手渡す。
「次は姉さんが入っておいてくださいね。明日パーティーに行くんだから、今日はしっかりと身体を洗ってくださいよ。私は最後に入って、一緒にお風呂も洗っちゃいますから」
「は……はいぃ……」
アオイは無我の境地のまま返答し、風呂に向かっていく。――そしてここでまた大事なことを思い出す。
(しまった……! そういやこの姿になってお風呂入るの初めてだ……!)
草原を彷徨い、シーラ達に助けてもらったときは看病の最中で身体を拭いてもらい、その後は風呂に入る余裕も無かったので、そのことを完全に失念してしまっていた。
(女の身体ってどう洗えばいいんだ……というかどれがシャンプーでどれが石鹸だ……)
風呂場には石鹸が3つほど置いてあったが、どれをどう使えばいいのかわからなかった。石鹸で髪の毛を洗ってはいけないのは理解していたが、それ以外が皆目検討がつかなった。
「ああ、髪の毛洗う際はこっちの石鹸つかってくださいね」
「うあああああああ!!!」
後ろから声をかけられ、アオイは絶叫して振り返った。そこにはアオイのリアクションに驚いていたシーラが立っていた。
「びっくりした……いや、そういや石鹸の使い方教えてなかったなと思って……」
「あ……ああ、そう……」
「というか……」
シーラはまだ脱ぎかけのアオイの身体を見て、悪戯な笑みを浮かべる。
「思えば姉さん、お風呂入るの初めてなんじゃ?」
「うっ!」
アオイはギクッっと身を捩らせ、それは言葉で言わずとも回答をシーラに示していた。
「はは~んなるほど……」
シーラは服を脱ぐと、アオイと共に浴室に入っていった。
「な、な、な、シーラ!?」
シーラの突然の行動にアオイはパニックに陥るが、そのままあれよという間にシーラに服を脱がされてしまう。
「元々は結城葵って”男”で、“女”の身体の洗い方、知らないんでしょう? それにこっちの世界の石鹸の使い方もわかっていないみたいだし……今日は私も一緒にお風呂入りますよ♪」
「え、え、え、え、え」
「任せてくださいって。じゃあまず髪の毛から洗いますね」
「えええ……えええええええ!!!」
風呂場でガチャガチャと騒ぎ出すアオイとシーラの音を聞き、コニールは微笑みながら呟いた。
「仲いいな、あの二人……。」
× × ×
色々あってアオイはのぼせ切った顔で、フラフラと廊下を歩いていた。さきほどの風呂での30分がアオイにはあまりに刺激が強すぎて、身体を覚ますために外にでようとしていた。
「そういやユウキが下のダイニングで寝てるんだっけか……」
アオイはダイニングまで降りていき、ユウキの様子を見ようとする。するとユウキの寝床は見つけたが、寝床は空になっていた。
「あれ……? どっか行ってるのかな……?」
アオイはそのままダイニングに隣接している宿の出口から外に出る。するとそこにユウキがおり、空を眺めていた。
「あ、アオイか。どうしたんだ?」
「ユウキこそ、どうしたの外になんか出て」
「いや……なんか寝れなくてさ。それで外出たらすげえ星が綺麗なもんで」
ユウキの言葉を聞き、アオイも空を眺めた。するとそこには満点の星空が浮かんでいた。
「うわあ……綺麗……」
20万人の都市ではあるが、日本に比べ夜も照明を付けている家屋が少ないのと、街灯もないこと、そして宿場町が就寝のために全体的に灯りを落としていることもあって、星空が日本で見るよりも遥かに綺麗に見えた。
「草原にいたころは夜空を見る余裕もなかったし、昨日のキャンプは森の中で空はよく見えなかったし。……というかようやく全体的に落ち着けた、って感じだね……」
「ああ、そうだな……」
ユウキは空を眺めながら話を続ける。
「ところでさ、アオイお前気づいてるか?」
「え? 何が?」
「……鈴木先輩、お前のことに気づいてなかったこと」
「え……?」
ユウキは昼にシズクと話していた時のことを思い出す。確かにあの時、シズクはアオイの声を耳にしたはずだが、何も気にするそぶりを見せず、そのまま立ち去ってしまった。
「異邦人のクエストってやつが、俺とお前の討伐なら、そして何よりもお前が元々結城葵だったってことを知っているなら、お前の顔を一目見ようとはするだろ?」
「確かに……」
他にもユウキには気になることがあった。
「思えば、他にも俺たちを襲ってきた異邦人って、お前の事をどうもその他Aとしか認識してなかった気がするんだよな。……もしかして、狙われているのって俺だけなんじゃないの?」
「言われてみれば……。一体どういう事なんだろう……?」
アオイはユウキに尋ねるが、ユウキは首を横に振る。
「わからない……」
「そりゃ、そうだよね。……もう何が何だか、訳が分からないよ……」
アオイは壁に寄りかかると、そのままズルズルと腰を降ろす。ユウキもアオイの隣に座り、二人並んで空を見上げた。
「なんでこの世界に来たとか、なんで分裂したとか、なんで狙われてるとか、全然わからないことだらけだけどさ。……一つ、絶対にわかっていることがある」
「……なに?」
ユウキは空を見上げるのをやめ、アオイに微笑みを向けながら言った。
「二人で、絶対に一緒に帰るんだ。そして、お母さんに会いに行こう」
その宣言はユウキの今までの発言の中で、一番力強い、本心からのものだった。それを聞きアオイも力強く返す。
「ええ、絶対に帰ろう。……私たち一緒で」
アオイは拳を握り、ユウキの目の前に付きだす。普段察しの悪いユウキもその意図をすぐに汲み、拳を付きだすと、二人は息をぴったり合わせ拳を突き合わせた。
「約束だ」
「ええ、約束ね」




