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第4話-②

 ユウキとコニールが外に出ると、野次馬が周囲に集まっており、その中心には壊れた露店とそこで売り物の肉を貪り食う青年がいた。――しかしユウキはその青年の姿を見て、ひどく違和感を覚えた。


「……なんか、俺より年上っぽいけど、子供っぽい……?」


 コニールは群衆をかき分けて奥へと進んでいく。


「ごめんよ、ちょっと取り押さえるために進みたいからどいてもらっていいかな」


 騎士であるコニールの姿を見て、周囲の野次馬たちは素直にどいていく。そしてユウキはその光景にも何か疑問が浮かんでいた。


(さっきグレゴリーさんは一発でコニールさんだと気づいたのに、この野次馬はコニールさんって気づいてないのか? ……というか今思ったけど、この世界って写真とかあるのか……?)


 群衆を抜け、コニールは暴れていた青年の元へたどり着く。そして未だに肉を食べているその青年の肩を掴んだ。


「ちょっと話を聞かせてもらえるかな? ……これは君がやったのか?」


 声をかけられた青年は動きが止まる。そしてコニールの方へ振り返ると、その目には危険は光が宿っていた。その光を見たユウキは咄嗟にコニールに叫ぶ。


「あぶ……っ!?」


 だがコニールの方が動きが早く、すぐに肩を離すと後方へと飛んで避難した。そしてコニールは躊躇なく剣を抜いた。


「これは……!私の経験から言って会話が通用しないタイプだ……! ちょっと乱暴にはなるが、取り押さえてから話を聞く方針の方がいいだろう!」


 コニールの言う通り、その青年は表情に生気というものがなかった。顔の作りはそれなりに歳を感じさせるのに、全体的な表情および仕草がひどく幼さを感じさせた。――しかしユウキはその顔を見て別の予感があった。


「待ってくださいコニールさん……。この人、異邦人じゃないか……!?」


「え……!?」


 コニールはその青年の顔を改めて見る。そして確かに今まで出会ってきた異邦人たちと顔の作りが似ていることに気づく。


「本当だ……! ってことはまさか……!?」


「うああああああああ!!!」


 その青年はコニールに襲い掛かってきた。コニールは初撃をかわすと、剣を青年に対して振る。――しかしその剣は少年の手に掴まれてしまった。


「やっぱりか!」


 コニールは手元から剣を捻らせ、青年が掴んでいる剣を離させる。そして青年から急いで距離を取った。一連の動きがまったく淀みなく行われ、ユウキの目からも美しさを感じさせるものだった。


「す……すげえ……」


 先のオルレアの町でのライオネルと名乗った異邦人との戦いの際は、ユウキは伏せていてコニールの剣筋を見ていなかったが、こうやって直接見た今、シーラが言っていた天才剣士という通り名が伊達ではないことを実感していた。


 しかし、対面の青年にはそのような美しさを感じる”能力”が”欠落”しているようであった。その青年は唸り声を上げながらコニールに詰めていく。


「ううううううう……!」


 コニールは冷や汗を額に流す。


「くっ……正直に話すと結構やばいな……。ユウキ君までとはいかないが、アイツも体格に不相応に強いぞ……!」


 ユウキはその言葉を聞いて、自分がなぜここまで来たのか思い出す。そしてコニールの前に立った。


「コ……コニールさん! 俺……やってみます!」


 ユウキは心臓をドキドキさせながらも気丈に返事をする。しかし内心はどうすればいいか全くわかっていなかった。


(戦うっていったけど一体全体どうすればいいんだ俺……)


 ユウキは見よう見まねで両腕を前面に構えるが、両腕にかかったマントがだらしなく垂れ、いかにも恰好が付かない感じになっていた。そしてユウキが明らかに困っている様はコニールにも伝わっていた。


「…………もしかして君、戦い方を全く知らない?」


「……ええ、オルレアの町で魔物を倒したときも、その辺の棒を握って無我夢中でしたから……。喧嘩もしたことないし……」


 しかし対面の青年にはそんなこと全く関係なく、両腕を振り回してユウキに向かってきた。それを見てコニールは声を上げる。


「あっちも凄くデタラメだ!?」


 青年に掴みかかられ、ユウキは避けることもできずもつれて倒れてしまう。青年は馬乗りになり拳を振り上げてユウキを殴るが、ユウキは全くダメージを受けていなかった。


「痛ったい……けど、後引く痛みじゃないなこれ……」


「な……があああ!!!」


 青年は馬乗りのままユウキを殴り続ける。なおもユウキはダメージを受けることはないが、振りほどくこともしなかった。その様子をコニールは訝しんで見ていた。


「ユ……ユウキ君!? なぜ振りほどかないんだ!?」


 コニールはユウキがいつでも抜け出せると思って手を出さなかったが、10発以上殴られても動こうとしないユウキを見て、さすがに異常を感じて動こうとする。しかしそのコニールの前に上空から人影が現れた。


「タカシ……また外で暴れてたのね……!」


 その人影は、ショートカットの黒髪の女性で、歳はコニールより少し下くらいだった。その女性は右手の拳を握りしめると、タカシと呼ばれた青年の脇腹にきつく一発パンチを入れた。


「ぐぼっっっ!?」


 タカシはうめき声を上げて後方に吹っ飛ばされていく。そしてその女性は倒れているユウキに手を伸ばした。


「大丈夫? ごめんね、ウチのバカが」


 ユウキは顔面に擦り傷はついていたが、特に腫れも無くダメージもなかった。そしてその女性の手を掴み立ち上がる。


「あ……ありがとうございます」


 立ち上がったユウキの顔をその女性はマジマジと見る。あまりに見てくるので、ユウキは赤面しながら女性に言う。


「だ……大丈夫です! 特に怪我は無いんで……」


「キミ……”結城葵”君?」


「え……!?」


 名前を――それも本名を呼ばれたユウキは驚いてその女性の顔を改めて見る。そしてとある女性を思い出し、その名前を言った。


「まさか……鈴木先輩!? 中学の時の!?」


「そうよ。……こっちじゃシズクって名乗ってるけどね」


「知り合いなのかい!?」


 親しげに話す二人を見て、コニールも駆け寄ってきた。


「コニール・ハインラインか……。君、ずいぶん有名人の知り合いがいるみたいじゃん」


 シズクは駆けよって来たコニールの顔を見て名前を即答する。名前を呼ばれたコニールは警戒して足を止める。


「あなたとは会ったことないと思うが……」


「何言ってんのよ。有名人じゃないあなた。私も話したことはないけど、顔は知ってるってだけよ」


「大丈夫!?ユウキー!」


アオイとシーラが宿屋から出てきたのか、叫んでユウキ達を呼ぶ。その声を聞いてシズクは改めて動き出した。


「……本当はゆっくり話したいところだけど、まずは本題を片づけなきゃね」


 シズクは殴り飛ばしたタカシに近づくと、タカシの腕を後ろに組ませて手錠をかけた。


「このバカが町で暴れてるって報告を受けて飛んできたわけ。……まったく、何度問題起こしたら気が済むんだろうこのバカは……」


 シズクはタカシを事を担ぎ上げ、ユウキたちに向き直った。


「結城君……君がクエストの討伐対象になってるのは私も知ってるけど、今はちょっと別の事で忙しくてね。まぁ、同郷のよしみってのもあるし、私は今経験値もそんなに欲しいわけじゃないから、君を狙うつもりはないよ。……また、近いうちに会えたら話そうね」


「待っ……!」


 ユウキはシズクに手を伸ばすが、シズクはそのまま裏路地に消えて行ってしまった。ユウキは追いかけたが、裏路地を見てもすでにシズクを見失ってしまっていた。コニールもユウキの後ろにおり、シズクが消えていった裏路地を眺めていた。


「あの細腕でタカシとかいう異邦人を殴り飛ばし、担ぎ上げていった……。彼女もやはり異邦人として何かしらの力を得ているということか……」


「ええ……。それにあの鈴木先輩なら”それ以外”にも……」


「それにしてもだ」


 コニールはユウキの腕を掴んだ。ユウキはコニールに接触され恥ずかしがって身を捩らせる。


「な……なんですか急に?」


「……君、自分でとんでもない弱点があることを理解できているかな?」


 突然の話にユウキはオウム返しのように返す。


「弱点……?」


「そうだ、弱点だ」


 アオイとシーラも手を振ってユウキ達の元へ向かってきた。


「お~い! 大丈夫~!?」


「助けに来ましたよ~!」


 コニールは彼女たちの方を見て、ユウキに顔を向けずに話を続ける。


「彼女たちを……アオイ君を守りたいなら、絶対に克服しなければならない弱点だ」


 コニールはユウキの腕を改めて強く握った。


「君には”他人を攻撃できない”という致命的な弱点がある」

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