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第4話-①

 翌朝、ユウキたちは旅を再開した。とはいえ道中特にトラブルはなく――アオイが体力の限界を迎え、コニールに肩を貸してもらったりはしたが――それでも予定どおりに昼過ぎにパンギア王城城下町に着くことができた。


 城下町に入るための関所も、コニールが通行許可証を持っているため難なく入ることができ、障害もなくユウキ達は町の中心部へと来ることができた。


「うわっ!? すげーっ!?」


 ユウキは城下町の大通りを見て声をあげる。大通りには人があふれかえっており、出店も数多く並んでいた。


「ここパンギア城下町は、人口20万人。先日行ったオルレアの町の60倍以上の人口を誇るまさに大都市で、東大陸でも1番人が多い都市とも言われてます。その人口の多さの一番の要因は、やはり海沿いってことでしょうね。ここが東大陸の西端とも言われ、貿易が非常に活発ですから」


 シーラはユウキに説明をする。


「とはいえ人口が多ければ、それだけ治安も不安定になりますし、日が暮れる前にさっさと今日止まる予定の宿に向かいましょうか」


× × ×


 城下町の中心部から少し外れたところに宿屋があつまり区域があった。非常に栄えた都市であるため、遠方から旅で来る人が多く存在しており、この宿屋街もパンギア王国の大きな収入源の一つであった。


 そんな数多く並ぶ宿屋の中に、”黎明亭”という宿屋が存在していた。手が出ないほど高くはないが、下に見られるほど安くはない、絶妙な値段設定とサービスを提供しており、この区域の中では部屋が空くことがほぼ無い、かなり繁盛している店であった。


 店主のグレゴリーも大柄な体格と、その体格に見合った豪快かつ快活な性格をしており、その店主のキャラクターも人気の秘訣となっていた。


 そしてその黎明亭の前にユウキ達は立っていた。


「はい、到着しました。ここがしばらくの拠点になる予定の宿です」


 シーラの案内でユウキたちはこの宿の前までやってきていた。この店の店主であるグレゴリーはシーラの叔父であり、部屋を貸してくれる手筈になっているとのことだった。


「しかし……昨日の今日で本当に大丈夫なのか?」


 コニールは素直な心配を漏らす。ここ一帯の宿屋が常に満床なのはコニールもよく把握しており、この黎明亭のような”まとも”な宿は、泊まるのも一苦労だと実感しているからだ。


「ああ、大丈夫大丈夫。この宿は常に私が泊まるように1部屋空けてもらってるから。それに昨日連絡も送ってあるし、問題ないっしょ」


 シーラは入口のドアを開けて中に入っていく。


「たっだいま~! おじさ~ん、シーラが来ましたよ~!」


 シーラが中に入ると、グレゴリーはカウンター奥の厨房で仕込みを行っていた。シーラが来たことに気づくと、作業を切り上げカウンターへとやってくる。


「お、おおシーラか! そして……ん!?」


 グレゴリーはシーラの後ろにいる連れの姿を見て困惑する。


「こちらの方々は……シーラのご友人か?」


 ”友人”と聞かれ、アオイは咄嗟に頷いて答えた。


「は……はい! そうです!」


 アオイの返事を聞いてグレゴリーは心底嬉しそうに笑みを浮かべた。


「そうかそうか! そして……ん?」


 グレゴリーはユウキの顔を見て今度は困惑した。


「男……? え、まさかシーラお前……!?」


 グレゴリーの早合点にシーラは呆れ気味に返答する。


「そんなんじゃない! ただ、それくらい大切な人だから、ちゃんと接客してあげてよね」


「ほうほう……そして最後に……え!!!???」


 グレゴリーはコニールの顔を見て驚愕の表情に変わった。


「おま……え……!? この方ってまさか……!?」


 シーラはあからさまに不機嫌になり、グレゴリーの背中を押した。


「いいから! 早く部屋に案内してよ!」


「お……おう……ではすみません、こちらに……」


 グレゴリーは頭を下げると、ユウキ達を部屋へと案内しはじめた。部屋に向かいながら、アオイはコニールに小声で問いかける。


「あの店主さん……コニールさんの顔みて凄い驚いてましたけど……」


「ああ……まぁそういうことはよくあるな……」


 アオイは一昨日のオルレアの町での食事会のことを思い出していた。シーラがコニールのことを有名人と説明していた話を。


「有名人って話……本当だったんですね……」


「恥ずかしながら、顔出しをしろって上からの命令で、結構顔売りしてたからなぁ……」


 案内していたグレゴリーが足を止めると、鍵を取り出して扉を開けた。


「こちらです。……姪がここに来ることが多かったんで、この部屋は常に空けてあるんですよ。ただ……大人数が泊まることを考慮してないんで……」


 中はそれなりのスペースがあり、4人がいても特に狭さを感じることはなかった。ベッドもソファーも、そして何より奥には個室のお風呂まであった。


「え!? お風呂にシャワーもあるの!?」


 アオイは風呂を覗き見る。浴槽はホーローの材質で作られており、シャワーも鉄で作られたものだった。


「なんか急に文明がスペックアップしてない!? これどういう仕組みなの!?」


 アオイの質問にシーラは照れながら答える。


「へへ……これ魔法を使って用意させてるんですが、この仕組み作ったの私なんですよ……。というか、この宿の経営方針決めたの全部私で……」


「え!?」


 アオイはグレゴリーに目を向けるが、グレゴリーは俯きながら答えた。


「ええそうです……。3年前にシーラに口きいて貰って店を色々改装したら大当たりしまして……。商売のセンスがずば抜けてるのか、他にもそういう店いっぱい持ってるみたいで……」


 コニールはオルレアの町でのレストランの1件を思い出していた。そういえばあの時も顔パスで予約必須と思われるレストランに入っていて、異邦人であるユウキとアオイよりも胡散臭さが勝っていた。


「そ……そういうことか……」


「そういうこと。……で、各々どこで寝るか決めなきゃね」


 シーラは窓際にある勉強机の椅子に腰かける。


「ちなみにこの机は私の勉強スペースなんで、ここは私のスペースにさせてください。兄さん、姉さんも自分の好きなスペースを選んどいてくださいね」


「あ、じゃあ私はこっちのベッドにしようかな」


 部屋にはベッドが2つあり、アオイは片方のベッドを選んでいた。


「じゃあ私はソファーにしておこうか」


 コニールはソファーに腰かけていた剣を置いた。


「……え? 俺……ここで寝るの?」


 しかしユウキはは未だに話についていけなかった。――いや、現状が認識できていなかった。


「そりゃあ当たり前でしょう」


 シーラは何も疑問に思わずにユウキに言う。


「ユウキもベッドで寝るの?」


 アオイも特に気にしていなかった。――だがコニールだけは気づいていた。


「……思った。今更なんだが……男は彼一人なんだよな」


「「あ」」


 ここでようやくシーラとアオイも気づきなおした。シーラはグレゴリーに目を向けるが、グレゴリーは首を横に振った。


「もう最近常に部屋は埋まり切ってるから、空いてる部屋も無いぞ」


「じゃあモモの部屋泊まる?」


「うわおっ!?」


 後ろから突然聞こえた声に、ユウキはびっくりして向き直る。そこにはおおよそ20代くらいの黒髪の女性がいた。グレゴリーはその女性に駆け寄る。


「モモ!? モモの部屋はモモの部屋なんだからダメだろう!?」


「でも最近グレゴリーさんの部屋に泊まってるし、そんなに使ってないよ?」


「……ん?」


 モモという女性が話している内容に、シーラが察したのかグレゴリーに尋ねる。


「ちょっと……そこのモモさんだっけ? 私が前にいたときはいなかったように思えるけど……。叔父さんとどういう関係なの?」


 シーラからの質問にグレゴリーは照れて返事に戸惑う。


「いや~……なんて言ったらいいかな……」


「……話から察するに”付き合ってる”って捉えていいんだろうけどさ」


 グレゴリーが照れている間にシーラが答えを言ってしまい、グレゴリーは肩をすくめて答えた。


「お前に誤魔化すとかそりゃ無理だよな。……8ヶ月前に町で迷っているところを保護したんだ。詳しく話を聞くと、何故ここにいるかもわからないって事でな。ほっとけなかったし、ウチで預かっている内にその……色々あってついこの前婚約したんだ」


「あ、そこまでの関係なのね……。というか結婚おめでとう……」


 シーラは話を聞いて納得するが、ユウキはモモの顔をじっと見つめていた。


「どうしました兄さん? ……そういう子がタイプで?」


 からかうシーラにユウキは強く否定した。グレゴリーからの目線も感じていたからだった。


「違うわい! ……いや、モモさんの顔の作りが日本人っぽいなと……」


「日本? モモ日本人だよ?」


「「「「えっ!!!???」」」」


 ユウキ達は”日本”という単語を聞いて驚きの声を上げた。そしてユウキは矢継ぎ早にモモに尋ねる。


「じゃ……じゃあモモさんは”異邦人”って事なんです!?」


 しかしモモは首をかしげながら曖昧な返事をした。


「え? いほうじん? なにそれ? よくわからないな……」


 その返事を聞いて、アオイは少しがっかりした表情を浮かべた。


「それだとモモさんも私たちと同じく、正規の異邦人じゃない感じか……」


 シーラもアオイの推測に同意して頷く。


「この反応見るだけでも何も知らないのが伺えますね……。ただ兄さんたちみたいに何にも知らない異邦人も、結構いるもんなのか……?」


「きゃーっっっ!!! 誰か助けてーーーっっっ!!!」


 急に悲鳴が通りから聞こえ、窓際にいたシーラは身を乗り出して外を見る。


「こ……今度はなんだ!?」


 シーラが外を見ると、露店の一つが何者かに破壊されていた。その様子をシーラは呆れて中の人たちに伝えた。


「……どうやら酔っ払いか、もしくはイカレポンチが、外の露店で暴れてるみたいです。……じきに兵隊さんも来るでしょうし、ほっといてもよさそうですが」


「いや、ダメだろう。私と……あとユウキ君。君もついてきてくれないか」


 ”本職”故にコニールは騒ぎを止めるために向かうことにした。呼ばれたユウキも頷いて答える。


「はい! わかりましたコニールさん!」


 駆け出していく二人を見て、シーラは呆れ声で呟いた。


「やれやれ……トラブルが絶えない旅だなこりゃ。……叔父さん、ちょっと外言ってくるから、部屋の片付けなりなんなりお願いね!」


「あ、私も行くよ待ってよシーラ!」


 シーラとアオイも追って駆け出していく。それを見てグレゴリーは心配そうに呟いた。


「お前がトラブル起こすのは”いつもの”ことだけど、頼むから店は壊さないでくれよ……」

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