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第3話-③

 ――翌日。ユウキ達はディアナの家を出て、コニールとの集合場所であるオルレアの町の広場にいた。昨日の魔物騒ぎで少なくない被害は出ていたが、すでに人の往来は戻っていた。


「そういやあの女の子と、その母親は無事に会えたのかな……」


 アオイは広場を見ながら呟いた。アオイが昨日魔物と戦ったのは、娘を助けたいという母親の頼みを聞いたからだった。しかし魔物を倒した後、コニールとの話を優先しているうちに、子供のことを完全に忘れてしまっていたのだった。


「一応兵士に預けましたから、流石に送り届けたと思うけど……あ、コニールだ」


 コニールは手を振りながらユウキ達へと駆け寄っていく。


「待たせたね。……というより集合時間より結構早めに来ていたのかな?」


 コニールは広場にある時計に目を通す。集合時間の10分前に来たはずだが、ユウキたちはそれよりも早く来ていた。


「はは……まぁ」


 ユウキとアオイは元の結城葵だったころから、集合時間の15分前行動を心がけるタイプであった。


「騎士なんだから、もうちょい時間にキビキビ動いたら」


 シーラはコニールに嫌みを言い、コニールは少し顔をしかめるが、落ち着いてユウキに声をかけた。


「ああ、そうだ。昨日君たちが助けた女の子。ちゃんと母親に会えたらしいぞ。本当は君たちに会って礼を言いたかったみたいだが、時間が合わせられなくて一応礼を言っておいてほしいと言付けを預かっておいたよ」


「そうですか……よかった……」


 アオイはホッと胸をなでおろした。コニールはそれを見て少し考えるが、口には出さなかった。そして背負っているバッグから地図を取り出す。


「とりあえず……パンギア王城へはこっから馬車で半日ほどの距離にある。まずはあそこで……」


「待った」


 シーラがコニールの言葉をさえぎる。


「その馬車、それはあんたが私たちように抑えてる馬車なの?それとも乗り合い馬車?」


「……乗り合いだが」


「はぁ~……じゃあその計画は早速破綻してるわけだ」


「なに……!?」


 呆れるシーラにコニールが反論しようとするが、シーラはその上からかぶせるように言う。


「あのなぁ! 昨日話したろ! 兄さんたちは異邦人に狙われているって! そして敵さんは詳細はわかんなくとも、大まかにどこにいるかまではわかっているから、昨日の騒ぎが起きたわけだろ!? そんな中で他の客も乗って、路線がわかってる乗り合い馬車なんて使ってみろ! 行先が簡単にバレる上に、他の客も巻き込むじゃねーかよ!」


「うっ……!」


 コニールはシーラの正論に納得せざる得なかった。そしてシーラはユウキの横に置いてあった身の丈の近くはある巨大なリュックを指さした。


「どうせ考えてねえだろと思って、旅の準備はこっちでしといたよ。馬車で半日の距離なら歩いて2日くらいだろ? とりあえず徒歩で幹線道路使わずに、沿線を使って行くしかないだろ」


「準備がいいな……。でもその荷物持てるのか……?」


 コニールはその大量の荷物を見て不安がるが、ユウキはそれを軽く持ち上げた。


「……なんとか持てます。重いといえば重いですが、歩けないほどでは……」


 ユウキは決して自慢げにすることなく、控え目にコニールに言った。コニールは推定100kg以上はある荷物を軽々と持ち上げるユウキを見て、若干引きながら言う。


「な……なるほど……。これが異邦人か……。そんな鍛えた身体つきをしているわけでもないのに、その力は……」


「割と兄さんが特殊寄りみたいだけどね。他の異邦人もそれなりに強いだろうけど」


 またも嫌みを言うシーラにコニールは睨みつけるが、アオイはそれを慌ててなだめた。


「ま……まぁまぁ。これからこの4人でしばらく旅するわけなんですから……。それに私もユウキもこんな旅は初めてで、慣れてそうなコニールさんが頼りなんですから、お願いします」


 アオイはコニールに深く頭を下げ、それを見てコニールも落ち着きを取り戻した。


「はぁ……。わかったよ。頭を上げてくれ。馬車を使うつもりで旅の予定を組んでいたが、使えなくなった場合の事も想定していなかったわけじゃない。……まずはここだ」


 コニールは地図を改めて広げ、この町から北西にある森を示した。


「幹線道路から外れつつ、人目につきづらく、なおかつ歩るきやすいルートはすでに目算はつけてある。まずはこの森を目指していこう。川もあるところだから、このあたりで野宿をして、次の日の昼までにパンギア王城に着くスケジュールでいこう」


「そうね異議なし。じゃあ兄さん姉さん。行きましょうか」


 シーラは北西に向かって歩き出し、コニールもそのあとをついていく。


「ああそうだ。町を出るまでに私の着替えを買わせてくれ」


「はいはい」


 そしてそのあとをユウキとアオイも並んでついていく。ユウキが一歩歩くたびに背負っている荷物がミシミシと音をたて、アオイはユウキを心配して声をかける。


「ユ……ユウキ、大丈夫?」


「ああ。……多分100kg近くあるはずなんだけど、全然重く感じないんだよな。……これって、あの異邦人達が言っていたステータス……”攻撃力”とかと関係あるのかな」


「わかんない……。あんまり考えたくもない……だけどさ」


 アオイは上機嫌にスキップしながらユウキよりも速足で進んだ。そして振り向くと満面の笑みを浮かべてユウキに言う。


「こういう”旅”って凄いワクワクするよね!」


 アオイのはじけるような笑顔を見て、ユウキは微笑みながら答えた。


「うん……そうだな」


× × ×


 ――が、アオイのその笑顔は3時間後には消えていた。


「ぜーっ……ぜーっ……ちょ……ちょっと待って……」


「ア……アオイ君……大丈夫かい?」


 町を出て3時間。舗装された道路を避け、草原を歩いていた。全くの獣道というわけではなく、最低限の整備はされてはいるものの、ハイキングや登山の経験もないアオイには酷な道のりではあった。


「3時間休憩なし歩きっぱなしは辛いし……何より割とペースが早い……! ……ユウキちょっと待ってよ!」


「え? ……ああ悪いアオイ」


 ユウキは言われてようやくアオイがへばっていることに気づいたようだった。


「コニールさんはともかくシーラも普通に歩けてたから問題ないかなって」


「あんた……その変な力を持つ前の、元々の自分の体力を少しは考えなさいよ……。運動苦手な方だったでしょうが……」


「そう……だったな……悪い悪い」


 へばって顎を引くアオイを見て、コニールは懐から時計を取り出す。そして日の昇り具合も確認し、アオイ達に言った。


「そうだな……そろそろ良い時間だし、昼食休憩を取ろうか」


「あぁ……よかった……やっと休憩だ……」


 アオイはその場でへたり込むと、近くの木にもたれかかり、大きく息を吐いた。


「足痛いなぁ~……。全くこっちの世界に着いてからハードだよもう……」


「お疲れ様です」


 シーラは昼食のサンドイッチとお茶の入った水筒をアオイに差し出した。そして自分の分のサンドイッチも持っており、アオイの横に座る。


「私からしたらそんな歩かなくて済む生活なんて想像しづらいんですが、姉さんの元居た日本っていうところは、どういうところだったんですか?」


「そうだねえ……まず馬車。これが私たちの世界ではもう存在しないね。馬じゃなくて機械を動力にした自動車っていうのが、そこら中走り回ってる。道路も石畳じゃなくて、油で固めた道路が何十万キロも続いててね。……こうやって歩くことなく、車で移動してたわけ」


「へえ……もう全く文化が違うってことっすねえ……。というかこっちの世界より遥かに進歩してるわけですか……。興味あるなぁ……」


「こっちはこっちで魔法があるから、完全に向こうのが進歩しているかは怪しいけどね」


「いえ……魔法を使わないでも魔法と同じことができるなら……私はそっちのが良いですね」


 そう言ったシーラの目は、遠いものを見ているようだった。


「じゃあさ。向こうに帰る方法見つかったら、シーラさんも一緒に来る?」


「え……?」


 アオイの予想外の提案にシーラはしばらくポカンとしたあと、笑って答える。


「アハ……アッハッハ……アッハッハッハ! いいっすねそれ! すっげえ興味あります! 是非ともついて行かせてください!」


「本当!? 正直シーラさんが途中でいなくなったら旅するどころじゃないから、付き合ってくれるなら助かるわ……自分のことながら、私もユウキもあんなんだし……」


「……でも、ついていくには一つ条件がありますよ」


 シーラは指を一本上げながら言う。


「何?」


「それは……いい加減”さん”呼びは辞めてくださいって。シーラって呼んでくださいよ。距離感じて寂しいですもん」


「う……」


 未だに呼び捨てで呼ぶことにためらいを持っていたアオイであったが、とうとう根負けして深く息を吐きながら静かに言った。


「はぁ…………わかった、シーラ」


 アオイの呼んだ名前を聞いて、シーラは顔中に笑みを張り付かせてアオイに抱きつく。


「ハハッ! わかりましたよ姉さん! このシーラ、姉さんと兄さんの旅に最後までお供させていただきます!」


「ははは……まぁよろしくね……」

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