94話 荷馬車のお化け
玄関。
靴を脱ぐ。
「……帰ってきたか。」
奥から声。
「……ああ。」
変わらない声。
変わらない調子。
「……。」
視線を上げる。
そこにいる。
母。
「……。」
相変わらずだな。
「……相変わらずだねぇ。」
被んな。
「……。」
「……。」
少しだけ、間。
「……あんた。」
「……。」
「……増えたね。」
「……。」
返事はしてやらない。
「……。」
「……ふーん。」
それだけ。
「……。」
母の視線が、少しだけ動く。
「……。」
横、ユウト。
「……。」
一瞬。
「……。」
「……ふーん。」
それだけ。
何も言わない。
ユウト真っ白だけど?
生きてる?
あ、死んでるか。
「……。」
次。
セイコ。
「……。」
母の目が、少しだけ変わる。
「……あら。」
「……。」
「……あんた。」
「……。」
「……嫁かい?」
「ちがっ——」
「……そう。」
勝手に納得するな。
セイコは真っ赤になってる。
俺は結婚なんぞせんぞ。
「……。」
「……まあ、いいよ。」
何がいいんだ。
「……。」
そのまま。
母は視線を外す。
「……。」
シロ。
「……。」
トメさん。
「……。」
一瞬だけ、目配せ。
それだけで、
「……。」
動く。
「……。」
ユウト。
「え、ちょ——」
気配が揺れる。
そのまま、
「やめろーーー!!おれをくってもうまくねえぞおおお!!」
いや、幽霊だけども。
頭から丸かじりスタイルはどうなん?シロ。
そのままドナドナされていくユウト。
「……。」
次。
セイコ。
「え、ちょ、待っ——」
トメさんが、丁寧に腕を取る。
「坊っちゃんの奥さまに、粗相はできませんので。」
「おくさまじゃなああああい!!」
そのまま、連れていかれる。
あっちもドナドナ。
「……。」
静かになる。
「……。」
玄関。
母と、二人。
「……。」
少しだけ、間。
「……父さんは?」
「……奥で寝てるよ。」
「そうか。」
それだけ。
「……。」
母が、こちらを見る。
「……。」
「……行くかい?」
「……。」
「……ああ。」
靴を揃える。
「……。」
……ただいま。




