90話 同行お化け
とある日、朝。
いつものホール。
いつもの匂い。
いつものBGM。
お気に入りの台。
レバーオン。
リールが回転する。
止める。
外れる。
「……。」
もう一回。
レバーオン。
リールが回転する。
止める。
外れる。
横にユウト。
反対側にセイコ。
「……しばらく来れなくなるかもしれない。」
「「なんで!?」」
ハモんな。
「……父親が危篤らしい。今朝、母親から連絡があった。」
「……。」
一瞬、止まる。
「……何やってんの!?」
「……スロットだ。」
「そうじゃなくて!!今すぐ行かなきゃでしょ!!」
「……まだ死んでないぞ?」
「そういうことじゃない!!」
「……。」
「実家どこ!?」
「……北の方だな。」
「雑すぎる!!」
「……。」
レバーオン。
リールが回転する。
止める。
外れる。
「……。」
「新幹線!!」
「……。」
「もういい!私が取るから!!」
「いや、自分でできるが。」
「おじさんに任せてたら五年くらいかかるでしょ!!」
「そんなにかかるか。2ヶ月あれば行ける。」
「馬鹿なの!?」
「……。」
セイコ、スマホ。
ぽちぽち。
早い。
見えない。
「はい、取れた!!」
「……早いな。」
「今から行くよ!!」
「……まて。」
「なんでよ!!」
「…当たった。」
ランプが光っている。
至福の光。
「……な?」
「うるさいよ!!」
「終わるまで待て。」
「待たない!!」
「……。」
結局、消化してから立つ。
「……。」
新幹線の停車駅まで向かう電車の中。
「……。」
「……で?」
「なに?」
「なんでお前もいる。」
セイコ。
当然のように横。
「えー、なんか勢いでチケット2枚取っちゃったし。」
「……。」
「……キャンセルできなかったし。」
「……はぁ。」
ユウトが苦笑い。
いや、ユウト君。君もだけどね。
「おじさんさ、何でそんなにいつも通りなの?」
少しだけ考える。
「……別に。」
「……焦ってもどうにもならんからな。」
「……そうだけどさ。」
セイコは不満そうだ。
ユウトが横で言う。
「……ちゃんと行くよね?」
「あぁ。」
人。
電車の音。
帰るの、いつぶりだ?
「……。」
思い出そうとして。
やめる。
「……。」
まあいいか。
「……。」
とりあえず。
行けば分かるだろ。
「……。」
新幹線の停車駅に着く。
ギィ。
電車のドアが開く。
少しだけ。
故郷の匂いを思い出していた。




