86話 お弁当のお化け
昼下がり。
街は、少しだけ騒がしかった。
人の流れ。
車の音。
信号の電子音。
全部が重なって、 空気が、少しだけ濁っている気がする。
「……。」
歩く。
昨日と同じ道じゃない。
でも、どこか似ている。
「……。」
「……ねえ。」
声。
すぐ隣。
「……。」
視線を落とす。
いる。
小さい影は、少しだけ薄い。
「……。」
「……どっち?」
しゃがむ。
「……。」
男の子は、少しだけ考えてから、 指をさす。
「……あっち。」
「……。」
立ち上がる。
その方向を見る。
何もない。
でも。
「……。」
「……分かった。」
歩き出す。
「……。」
さっきより、 迷わない。
「……。」
追いかけない。
ただ、並ぶ。
「……。」
男の子の速さに合わせる。
「……。」
時々、 声が遠くなる。
でも。
「……。」
止まる。
「……。」
待つ。
「……。」
「……ねえ。」
また、近づく。
「……。」
それでいい。
「……。」
少しずつ。
距離が、安定してくる。
「……。」
交差点。
人が多い。
「……。」
一瞬、 気配が遠のく。
「……。」
足が止まる。
「……。」
焦る。
焦るな。
「……。」
止まる。
「……。」
深く、息を吸う。
「……。」
待つ。
「……。」
「……ねえ。」
戻ってくる。
「……。」
「……うん。」
小さく頷く。
「……。」
進む。
「……。」
街の中を、抜ける。
住宅街。
少しだけ、静かになる。
「……。」
何度目かの柔らかい風。
「……。」
ほんの一瞬だけ、 背中を押された気がした。
「……。」
気のせい。
「……。」
「……ここ。」
男の子が、立ち止まる。
「……。」
前を見る。
「……。」
小さな店。
看板。
弁当屋。
「……。」
暖簾が揺れている。
「……。」
「……ここ?」
「……うん。」
「……。」
「……いる?」
「……うん。」
「……。」
扉を見る。
ガラス越し。
中。
「……。」
女性が忙しなく動いてる。
「……。」
息が、少しだけ浅くなる。
「……。」
「……行こ。」
小さく言う。
「……。」
男の子が、頷く。
「……。」
扉に手をかける。
「……。」
開ける。
カラン、と音がなる。
「いらっしゃいませー。」
明るい声。
「……。」
「……おかあさん。」
小さな声。
「……。」
男の子が、走る。
まっすぐ。
レジの向こう。
女性。
「……。」
「……。」
途中でふと、振り返る。
「……。」
目が合う。
「……。」
「……おねえちゃん。」
小さく、笑う。
「……ありがとう。」
「……。」
そのまま。
前を向く。
「……。」
手を伸ばす。
届く。
その瞬間。
「……。」
ふっと。
消えた。
「……。」
一瞬、胸元が暖かくなった気がした。
「……。」
女性は、顔を上げる。
一瞬だけ、 呆けた。
「……?」
でもすぐに。
「いらっしゃいませ。」
「……。」
少しだけ、間。
「……。」
現実に戻る。
お弁当屋。
充たされた食材の匂い。
そういえば、私、何も、食べてない。
お腹が、鳴る。
「……からあげ弁当、ください。」
「はい、ありがとうございます。」
「……。」
待つ。
「……。」
さっきの場所を見る。
もう、いない。
「……。」
でも。
「……。」
なんとなく。
ちゃんと終わった気がした。
「……。」
袋を受け取る。
少しだけ、温かい。
「……。」
外に出る。
「……。」
空。
少しだけ、明るい。
「……。」
「……。」
歩き出す。
少しだけ、軽い。
懐かしい風を隣に感じた。
そんな気がした。




