66話 空港のお化け
※視点が変わります。
朝の空港。
人が多い。
音も多い。
アナウンスが頭に残る。
キャリーケースの音が床を擦る。
「……。」
だるい。
朝からこれは、きつい。
サイ。
俺の名前。
色々祓うのが仕事。
「ぼーっとするな。」
横。
スズ、妹。
ちゃんとしてる。
サボってると折檻する。
兄をなんだと思ってるんだ。
「逃がすな。」
「……はいはい。」
反対側。
サクラ、もう1個下の妹。
なんかよくわかんないやつ。
多分友達とかはいない。
「右。」
「見えてる。」
「遅い。」
「急げ。」
「……はぁ。だるい。」
今回のは、タチが悪い。
まずうるさい。
そして、まとわりつく。
耳の奥に残る。
近くにいるだけで、頭が重くなる。
「……最悪だ。」
逃げる。
人混みの中を、すり抜ける。
かれこれ30分は追っている。
「左。」
「見えてる。」
「遅い。」
「……。」
帰りたい。
でも、放置すると後が面倒だ。
主にスズが。
怖い。
「……。」
その時。
ふと、視線。
「あ。」
あれ?
沖スロおっさん。
「……。」
なんでいるんだよ。
隣の女の大荷物を見る。
あぁ、帰るのか。
さらにその横。
男のユーリー。
「……。」
いたな。
なんかよくわかんないの。
あんまり関わりたくない部類。
「……妙な組み合わせだ。」
小さく漏れる。
でも、それどころじゃない。
さっきのやつ進路を変える。
こっちじゃない。
あっち。
「……あ?」
逃げる方向。
沖スロおっさんの方。
「おい。」
止まれ。
「……。」
止まらない。
むしろ。
吸い寄せられるみたいに、寄っていく。
「……さすがに、マズいか。」
嫌な予感しかしない。
「スズ。」
「分かってる。」
「間に合わない。」
サクラが言う。
「……。」
距離。
詰まる。
あっという間に。
「……うるさいよ。」
ぽつり。
沖スロおっさん。
それだけ。
「……。」
一瞬。
音が、落ちた気がした。
さっきまで頭にこびりついてたやつ。
あの、耳鳴りみたいな不快な音。
それが。
すっと、消える。
「……。」
目の前のやつ。
形が崩れる。
保てなくなる。
ほどけるみたいに。
そのまま。
消えた。
何も残らない。
「……。」
静か。
いや。
空港はうるさいまま。
人もいるし、音もある。
でも。
あれだけが、なくなった。
「……は?」
スズが止まる。
サクラも止まる。
俺も、止まる。
「……。」
今、なにしやがった?
沖スロおっさん。
やる気のない顔。
死んだ魚のような目。
そのまま歩いていく。
隣で男のユーリーと何か話してる。
意味が分からない。
「……。」
あっちは、こっちを見もしない。
「……。」
スズが、小さく言う。
「……意味が分からない。」
「……。」
サクラは何も言わない。
でも、見てる。
じっと。
観察するみたいに。
「……。」
俺は、ため息。
「……あれ、関わったらダメなやつだろ。」
「同感。」
スズが即答する。
「……。」
サクラはまだ見てる。
興味ありありで。
「……。」
目を逸らす。
「……なんなんだ、あれ。」
本当に。
意味が分からない。
分かりたくもないけど。
アナウンスが流れる。
搭乗案内。
人が動く。
「……。」
めんどいのが一つ減った。
それは助かる。
でも。
「……。」
あれでいいのか。
いや。
よくない気がする。
でも、考えても仕方ないことか。
「……帰るか。」
隣で二人の妹が頷いた。




