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何もしてないのに、幽霊だけ勝手に成仏していくおじさん ~スロプーおじさんは除霊なんてしたくない~  作者: Samail
2章 おじさんと旅行

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58話 名物お化け

夜。


ソーキそばの店。


暖簾をくぐると、湯気と匂いが一気に来る。

「……いい匂い。」


セイコが小さく言う。


「腹減ったな。」


「さっきまで死にそうだったのに。」


「暑いのは別だ。」


「都合いい。」


「そうだな。」


席に座る。

冷たい水を一気に飲む。


「……生き返る。」


「大げさ。」


すぐに来る。

ソーキそば。


「……でか。」


肉。


「これ骨付きか?」


「ついてるんじゃない。」


「そうか。」


もう箸をつけている。


「早。」


「冷めるからな。」


ズズッ。

麺をすする音。

うまい。


「……。」


少しだけ間。


「……でさ。」


セイコが切り出す。


「今日さ。」


「ん。」


ズズッ。


「変な人に会ってさ。」


「そうか。」


ズズッ。


「いや聞いて?」


「聞いてる。」


ユウトが苦笑い。


「絶対聞いてないだろ。」


「なんかさ、いきなり話しかけてきて。」


「沖縄だからな。」


「沖縄関係ある?」


「さあ。」


ズズッ。


「……うまい。」


「そっち集中しすぎでしょ。」


「うまいぞ。」


「見れば分かる。」


ユウトが小さく笑う。


「まあ、うまそうだけどさ。」


「でね。」


セイコは続ける。


「“筋いい”とか言われて。」


「胡椒はどこだ。」


「聞いてる?」


「あった。」


「会話になってないんだけど。」


胡椒をかける。

ズズッ。

うまい。


「……。」


セイコ、少しムッとする。


「……あとさ。」


「ん。」


「これ。」


ポケットから取り出す。

小さな勾玉。


テーブルに置く。


「……。」


おじさん、ちらっと見る。


「土産か。」


「違う。」


「拾ったのか?」


「そんなわけないでしょ!もらったの。」


「そうか。」


箸が、ほんの一瞬だけ止まる。

ユウトが覗き込む。


「……あー、それっぽいな。」


おじさんが小さく。


「そうかもな。」


「なにが?」


セイコが聞く。


「いや、なんでもない。」


すぐに食べる。


「戻ってきて。」


「戻ってる。」


「戻ってない。」


「……。」


セイコは勾玉を指で転がす。


「なんかさ。」


「ん。」


「ちょっとだけ。」


間。


「分かるようになった。」


「……。」


一瞬だけ。

箸が止まる。


「……そうか。」


短く。

それだけ。

また食べる。


「それだけ?」


「それだけだな。」


「リアクション薄くない?」


「そんなもんだろ。」


「そんなもんかな。」


「そんなもんだ。」


ユウトがぼそっと。


「え、それ俺バレない?」


おじさん、小さく。


「マズいのか?」


「……いや美味しいけど?」


「……そうか。」


「なに?」


「いや。」


少しの沈黙。

麺をすする音だけが続く。


「……でさ。」


セイコが箸を止める。


「おじさんはどうだったの?」


「何が。」


「沖縄。」


「……。」


少しだけ間。

スープを一口飲む。

思い出す。

ランプの光。

増える出玉。


「……悪くない。」


それだけ。

セイコが少しだけ笑う。


「なにそれ。」


「そのままだ。」


「雑すぎ。」


「そうか。」


ユウト、横でぼそっと。


「……えぇ、セイコにバレたらどうしよう。」


「……。」


三人で食べる。

同じテーブル。

同じ時間。


でも。

見ているもの、考えてることは少しずつ違う。


「……沖縄、変だね。」


「いいところだ。」


「ええ?まあそうかなぁ。」


それだけ。

それ以上は繋がらないまま。

湯気の向こうで。

沖縄の夜が更けていく。

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