55話 ピンチなお化け
※セイコ視点になります
昼。
国際通り。
白く焼けたアスファルトが、じわじわと熱を返してくる。
足の裏から、ゆっくりと体温が上がっていくみたいな感覚。
空は高くて、雲が薄い。
どこまでも明るいはずなのに。
「……暑。」
口に出すと、余計に暑くなる気がする。
やめとけばよかった。
人の流れはある。
観光客の笑い声も聞こえる。
ちゃんと“昼”のはずなのに。
「……。」
少しだけ、落ち着かない。
おじさんはホール。
あの人は、そういう人だ。
ブレないというか、頑なというか。
不意に足が止まる。
「……。」
いつもの嫌な感じ。
ざらざらすると言うか。
「……いる。」
言葉にすると、はっきりする。
誰もいない場所。
でも。
“いる”。
視線。
空気。
そこだけ、わずかに重い。
「……。」
目を細める。
焦点を合わせようとする。
でも、何も見えない。
そこに“何か”がある。
それだけは、確実に分かる。
「……やだな。」
小さく呟く。
この感覚は好きにはなれない。
見えないのに分かる。
分かるのに、どうにもできない。
あの時の友達のこともそうだ。
わかるのに何もできない。
その時はおじさんに頼った。
私より確実に視えている人。
「……。」
一歩、下がる。
何も起きない。
でも。
「……。」
空気が、動いた気がする。
ほんの少し。
でも確かに。
「……っ。」
振り返る。
誰もいない。
ただの通り。
ただの昼。
「……。」
違う。
さっきより。
「……近い。」
距離だけが、変わっている。
分かる。
「……。」
息が浅くなる。
胸の奥がざわつく。
逃げたい。
でも。
「……どっち。」
分からない。
どこにいるのか分からないものから、どう逃げればいいのか。
「……。」
歩く。
少し早く。
人の多い方へ。
紛れれば、消えるかもしれない。
「……。」
それでも。
「……いる。」
ついてきてる。
同じ距離。
同じ位置。
まるで、見えない何かに“見られている”みたいに。
「……。」
振り返らない。
振り返ったら、終わる気がする。
「……。」
足音だけが、やけに大きい。
周りの声は遠い。
現実が、少し薄い。
「……。」
一歩。
また一歩。
「……。」
——近い。
急に。
距離の感覚が壊れるみたいに。
「……っ。」
足が止まる。
動けない。
「……無理だ、これ。」
小さく漏れる。
逃げ場が分からない。
でも、すぐそこにいる。
「……。」
息を止める。
空気が、重い。
押し込まれるみたいな圧。
そのとき。
「——それ、触らない方が、いい。」
横から声。
「っ!?」
振り向く。
女の人。
勾玉のネックレス。
そこに“普通に”立っている。
さっきまでいなかったはずなのに。
まるで最初からいたみたいに。
「……え。」
声が少し硬くなる。
女はセイコを見る。
じっと。
表面じゃなくて、奥を見るみたいに。
「……ああ。」
小さく頷く。
「中途半端。でも。」
「筋は、いい。」
胸元の勾玉が光った気がした。




