31話 自販機お化け
昼。
風はぬるい。
「……。」
ペダル踏む。
ギィ、と鳴る。
白い愛車。
「……行くぞ、イングラム。」
小声。
誰も聞いてない。
聞かれてはいけない。
川沿い。
人は少ない。
「……。」
ふと、前。
手、振ってる。
女。
「……。」
ミエテナイヨ。
そのまま行く。
「ちょっとー!」
「……。」
聞こえてない。
ペダル踏む。
「おじさん!」
「……チッ。」
止まる。
ギィ、と鳴る。
振り返る。
「……なんだよ。」
セイコ。
息、そんな切れてない。
「止まるでしょ普通。」
「普通を押し付けんな。」
「止まったじゃん。」
「……。」
まあいい。
「……何。」
「あっち。」
指差す。
自販機。
「……やだよ。」
「もう買った。」
「は?」
「はい。」
缶、飛んでくる。
取る。
冷たい。
「……。」
「……なんで俺なんだよ。」
「いたから。」
「……そうかよ。」
開ける。
プシュ、と鳴る。
一口。
甘い。
ちょっと幸せ。
「……。」
隣に立つ。
距離、少し。
風はぬるい。
「……。」
「ねえ。」
「なんだよ。」
「……ああいうのってさ。」
「ああいうの?」
とぼける。
「なんか、ぞわぞわってするやつ。」
「わからん。」
「嘘つき。」
「ウソジャナイヨ。」
「……。」
少しだけ、間。
缶、傾ける。
「……あれ、どうなったと思う?」
「知らないよ。」
「ほんとに?」
「知らねぇって。」
「……。」
セイコ、横目。
「知らないにしては、詳しいよね。」
「詳しくないだろ。」
「じゃあなんで——」
「知らねぇよ。」
被せる。
「……。」
風。
缶、少し軽くなる。
「……ねえ。」
「なんだよ。」
「……見えてるでしょ。」
「なにが?」
即答。
「……。」
信じてない顔。
「……。」
「じゃあさ。」
「……。」
「なんで気付くの早いの?」
「だから何の話だよ。」
「とぼけてるよね?」
「とぼけてねえよ。」
「……。」
少しだけ笑う。
「まあいいけど。」
「いいなら聞くなっての。」
「聞きたいから聞いてるの。」
「……。」
めんどくさい。
スロット打ちたい。
一口飲む。
「……。」
「……。」
ため息。
「……何。」
「……残るのと、消えるのってさ。」
「……。」
「そんな違いある?」
「……。」
缶を見る。
減ってる。
「……知らねえ。」
少しだけ遅い。
「ふーん。」
「……。」
「じゃあさ。」
まだ続く。
「……。」
「残ってる方が、ダメなの?」
「……。」
風。
ぬるい。
「……別に。」
口から出る。
「どっちでもいいだろ。」
「……。」
セイコ、少しだけ止まる。
「……そっか。」
それだけ。
「……。」
缶、飲みきる。
軽い。
「……もういいか。」
「いいよ。」
「最初からそう言え。」
「言ってたよ。」
「言ってねえよ。」
「……。」
小さく笑う。
「……ねえ。」
「まだあんのか。」
「ある。」
「……。」
「ありがとね。」
「何が。」
「色々。」
「何もしてねえよ。」
「してるよ。」
「してねえ。」
「してるって。」
「……。」
めんどくさい。
スロット打ちに行こう。
「……じゃ。」
イングラムにまたがる。
「もう行くの?」
「行く。」
「そっか。」
「……。」
ペダル踏む。
ギィ、と鳴る。
少し進む。
「……おじさん。」
「……なんだよ。」
止まらない。
振り返らない。
「……ああいうのさ。」
「……。」
「残ってても、別にいいよね。」
「……。」
少しだけ、間。
「……さあな。」
それだけ。
「ふふ。」
笑ってる。
たぶん。
「……。」
ペダル踏む。
風。
ぬるい。
「……。」
少し先。
ゴミ箱。
横。
しゃがんでる。
小さい。
「……。」
缶、持ってる。
見てる。
めっちゃ見てくる。
「……。」
止まる。
ギィ、と鳴る。
「……捨てるだけだぞ。」
返事、ない。
「……。」
近づく。
缶、取る。
軽い。
ゴミ箱。
ポイ。
カラン。
「……。」
振り返る。
いない。
「……。」
「……いやぁ。」
またがる。
ペダル踏む。
ギィ、と鳴る。
風。
ぬるい。
「……幽霊の方がマシかもしれん。」




