28話 バレたお化け
※視点が変わります。
思い出は、順番なんて守ってくれない。
ある日突然、関係ないところから浮かんできて、勝手に消えていく。
例えば、笑い声。
くだらないことで、どうでもいいことで、息ができなくなるくらい笑った記憶。
何がそんなに面白かったのかは思い出せないのに、その時の空気だけはやけに鮮明で、少しだけ胸が温かくなる。
コンビニの前。
夜。
飲み物を片手に、どうでもいい話をしていた。
帰る理由もないのに、帰らなかった。
あの時間は、たぶん、すごく大事だった。
自転車。
後ろに私を乗せて、ゆっくり走る。
重い、と文句を言いながら、ちゃんとスピードを落としてくれていた。
風が気持ちよくて、少しだけ眠くなって。
でも、落ちないように、ちゃんと掴まっていた気がする。
ゲームセンター。
うるさい音。
光。
無駄遣い。
それでも、やめられない感じ。
隣で、呆れた顔をされながら、それでも最後まで付き合ってくれた。
スロット。
リールの回る音。
揃うか、揃わないか。
どうでもいいようで、どうでもよくない時間。
その人は、やけに目押しが上手かった。
何でもない顔で、当たり前みたいに揃えていた。
「少し遅い」って、よく言われていた気がする。
悔しかったのを覚えている。
「……。」
——事故。
夜。
強い光。
音。
衝撃。
そこから先は、思い出せない。
気づいた時には、もう“今の状態”だった。
それ以来。
私はおかしなものを感じるようになった。
最初は気のせいだと思っていた。
疲れてるだけだと。
でも違った。
誰もいない場所で、視線を感じる。
音がする。
空気が、歪む。
“いる”と分かる。
はっきりとは見えない。
理由なんてないのに、確信だけがある。
「……どうせならちゃんと見えればいいのに。
そうしたら逃げることくらい出来るのに。」
小さく呟いて、ソファに身体を預ける。
慣れたくはないのに、少しずつ慣れてきている自分が嫌だった。
そう言えば最近。
ひとりだけ、変なやつがいる。
彼がよく通っていたホールで会った男。
やる気のない顔。
独り言が多い。
そして、妙なことを言う。
『おじさんと呼べ。』
「……何それ。」
思い出して、少しだけ笑ってしまった。
あのとき。
何となく、手を差し出した。
理由はない。
でも——
あっさり、拒否された。
「……普通、断る?」
少しだけ、むっとする。
別に、深い意味なんてなかったのに。
なのに、あの人は、妙に距離を取る。
近づこうとしない。
でも、完全に無関心でもない。
あの距離感が、妙に引っかかる。
「……変な人。」
ぽつりと呟く。
それなのに。
どうしてか、気になる。
理由は分からない。
恋愛とか、そういうものではない。
もっと、曖昧で。
でも、無視できない何か。
あの人の空気は——
どこか、似ている。
私を庇うようにして死んだ彼に。
「……。」
沈黙が落ちる。
懐かしさと罪悪感で胸が張り裂けそうになる。
笑い声。
夜。
自転車。
リールの音。
そして——
「……ユウト。」
「……ねえ、ユウト。」
返事はない。
分かっている。
それでも、続ける。
「ちゃんと、覚えてるから。」
「……ありがとう。」
小さく呟く。
気が付けば夜は明けていた。




