23話 始まりのお化け
いつものホール。
自動ドアが開く。
いつものBGM。
いつもの光。
「……。」
何故か足が止まる。
一歩、入る。
いつもの匂い。
問題は、ない。
「……。」
いつものお気に入りの台に座る。
派手に負けず、派手に勝てず。
そんな台。
「ほんと好きだよね、その台。」
いつもの軽口。
「そうだな。」
サンドに千円。
レバーオン。
リールが回転する。
止める。
外れ。
「また早い。」
「うるさいよ。」
もう一回。
レバーオン。
リールが回転する。
止める。
——外れ。
「……。」
横から、椅子を引く音。
誰かが座る。
「……。」
視線は向けない。
レバーオン。
リールが回転する。
止める。
——外れ。
「……。」
「……やっぱり。」
小さな声。
「……?」
少しだけ顔を向ける。
女。
目が合う。
「……。」
女は、息を一つ吐く。
「……初めまして、ですよね?」
「……何が。」
「……私と、あなた。」
小さく首を振る。
「ごめんなさい、変なこと言いました。」
「……。」
「……えぇ、おじさんナンパされてるじゃん。物好きもいるもんーーーーー。」
うるさいよ。
レバーオン。
リールが回転する。
止める。
——リプレイ。
「……。」
「あの。」
「……。」
「隣、いいですか?」
「もう座ってんだろ。」
「……ですよね。」
少しだけ笑う。
「……。」
「やっぱりどこかで会ったこと、ありません?」
「ないだろ。」
即答。
「……。」
ほんの一瞬、目が揺れる。
「……そうですよね。」
小さく頷く。
「……。」
レバーオン。
リールが回転する。
止める。
——当たり。
「……。」
音が鳴る。
「……すご。」
少しだけ、覗き込む。
「相変わらずだね。」
「……?」
「……あ、いや。」
視線を逸らす。
「なんでもないです。」
「……。」
ボーナスが始まる。
音がやけに遠くに感じる。
「あの。」
「……。」
「お名前、なんていうんですか?」
「……。」
少しだけ、間。
「……おじさんでいい。」
「……なにそれ。」
小さく笑う。
「私はセイコと言います。」
「……。」
ほんの少しだけ、間を置く。
「……セイコ。」
自分で、もう一度言う。
「……。」
——その瞬間。
「……セイ、コ?」
ユウトが呟く。
「……。」
指が、ほんの少しだけ止まる。
でも、すぐに戻る。
「……よろしくお願いしますね、おじさん。」
手を差し出す。
「……。」
視線が落ちる。
手には触れない。
「……よろしく。」
それだけ言う。
手が引っ込む。
「……。」
「冷たいですね。」
「普通だろ。」
「……そうかな。」
「……。」
ボーナスを消化する。
「あの。」
「……。」
「さっき。」
「……なんだよ。」
「なんか、見てましたよね。」
「……。」
「誰か、いた?」
「……気のせいだろ。」
「……。」
少しだけ、間。
「……そっか。」
小さく頷く。
「……そうだよね。」
「……。」
「でもやっぱり、似てる。」
「何が。」
「……雰囲気、とか。」
「……。」
「あと、打ち方。」
「……誰とだよ。」
「それは…。」
少しだけ笑う。
「……。」
一瞬だけ、空気がズレる。
「……。」
「……なんでもないです。」
小さく首を振る。
「……。」
レバーオン。
リールが回転する。
止める。
——外れ。
「……。」
「……でも。」
「……。」
「なんか、放っておけないんですよね。」
「……。」
「ずっと、そんな感じ。」
「……。」
風が、少しだけ吹く。
「……。」
「ねえ、おじさん。」
「……。」
「また隣、座っていいですか?」
「……。」
少しだけ間。
「……好きにすればいい。」
「うん。」
少しだけ、笑う。
「……。」
視線を落とす。
指が、止まる。
「……。」
「……。」
「……気のせいか。」
小さく呟く。
「……。」
「……なんですか?」
「……いや。」
首を振る。
「……なんでもない。」
顔を上げる。
笑う。
「……また今度来ますね、おじさん。」
「……ああ。」
レバーオン。
リールが回転する。
止める。
——外れ。
「……。」
台の光がいやに眩しくて。




