21話 感傷お化け
ホールを出る。
自動ドアが閉まる。
音が、やけに軽い。
外の空気。
少しだけ冷たい。
「……。」
ポケットからタバコ。
一本、指で弾く。
火をつける。
一口。
煙が、ゆっくり上に抜ける。
ネオンが背中に遠ざかる。
まだ、耳の奥に残っている。
さっきまでの音。
やたら派手なやつ。
「……出たな。」
それだけ。
歩く。
靴音。
一つ分。
振り返ることもない。
交差点。
信号待ち。
赤。
車が横を流れていく。
ヘッドライトが、顔を一瞬だけ照らす。
「……。」
煙を吐く。
夜に白が混ざる。
ふと、思い出す。
自販機の前。
白い光。
ガコン、という音。
缶コーヒー。
苦いやつ。
「……苦。」
小さく顔をしかめた気がする。
『ありがとうございました。』
「……。」
短く吸う。
『さようなら、先輩。』
風が吹いて、
——消えた。
「……。」
青になる。
歩き出す。
「……終われるやつは、終われるんだよな。」
小さく。
また一口。
今日のこと。
音。
光。
数字。
伸びていくやつ。
止まらないやつ。
「……出したけどな。」
ぽつり。
別に、頼まれたわけじゃない。
勝手にやっただけだ。
いつも通り。
「……ああいうの、前もあったな。」
蛍光灯。
机。
書類の山。
困った顔で笑うやつ。
『先輩。』
「……。」
煙を吐く。
「……勝手にやって、」
少しだけ止まる。
「……勝手に終わるやつもいるし。」
言い切らない。
あの時も、
別に頼まれたわけじゃない。
勝手に庇って、
勝手に怒られて、
勝手に辞めた。
「……。」
息を吐く。
煙じゃないやつ。
白く濁る。
「……ありがた迷惑ってやつか。」
小さく。
少しだけ、笑う。
「……知らんけど。」
コンビニの前を通る。
明るい。
人がいる。
中に入る気はしない。
「……飯、どうすっかな。」
独り言。
ラーメン。
いつものやつ。
景気付けに、ってやつ。
「……。」
少しだけ考える。
「……やめとくか。」
珍しく。
理由は、特にない。
「……。」
歩く。
『ちゃんとご飯、食べてくださいね。』
「……。」
少しだけ、間。
「……覚えてたら、な。」
誰に言うでもなく。
ポケットに手を突っ込む。
100円ライターを指で弾く。
意味なんかない。
少し、冷たい。
「……。」
歩く。
夜は、変わらない。
音も、光も、ない。
ただ、
少しだけ、
静かすぎた。
「……明日は愛車を直してみるか。」
独り言は静かに沈んでいった。




