146話 哲学者のお化け
朝。
目覚ましが鳴る。
飛び起きる。
顔を洗う。
不精髭を剃る。
今日の俺はひと味違う。
着替える。
最近新しく買った服。
気合いを入れる。
駐輪場。
白いママチャリ。
愛車、イングラム。
鍵を外す。
またがる。
「行くぞ、イングラム……。」
小声。
誰にも聞かれていない。
聞かれてはいけない。
ペダルを漕ぐ。
ギィ。
いつもの道。
通い慣れた道。
ただ今日はいつもと違って。
俺を祝福するように、輝いて見える。
今日は待ち望んでいた日。
そうだ。
新台入れ替えの日。
お気に入りの台。
派手に負けず、派手に勝てない。
あの台の。
正統後継機が、今日、いつものホールに導入されるのだ。
そもそも俺はスロプーだ。
やれ若者の成長だの、七不思議だの。
そんなの本質的には全然関係ない。
お気に入りの台が新しくなる。
この朗報に比べればすべての事柄など些事なのである。
ホールに到着。
駐輪場にイングラムを止める。
鍵をかける。
盗られたら泣く。
泣かないけど。
ざっと見た感じ。
今日の朝の並びは多い。
当然だ。
新台入れ替えだ。
俺とは違うガチ勢達はこぞって設定を狙ってくる。
大勢を引き連れて。
俺はスロプーだが、エンジョイ勢だ。
打ちたい台を打つ。
それに勝る楽しさなどない。
とは言え、今回の俺の狙いは新台だ。
抽選に勝たなきゃ話にならない。
逸る心を抑えるため、まずは喫煙所に向かう。
ポケットをまさぐる。
煙草。
100円ライター。
火をつける。
吸う。
吐く。
一心地着く。
「あれ、おじさん。なんか気合い入ってる?どうしたの、髭まで剃っちゃって。」
ユウト。
相変わらずふわふわしてる。
「今日は新台入れ替えだ。」
「あー、おじさんの好きな台の新台出るんだっけ?」
「あぁ。」
「何台入るの?」
「2台だ。」
「まあ、そんな人気な機種でもないから露骨にクソ番じゃなかったら行けるんじゃない?」
軽い奴だ。
こちとら生きるか死ぬかのデッドオアダイだぞ。
なめるな。
煙草を吸う。
「そういえば最近さ?アイツ見なくない?」
「?アイツって誰だ。」
「ほら、あのレバーオンで叫ぶうるっさいやつ。」
「あいつなら地元に帰ったぞ?」
「地元!?地元って何!?」
「福岡だかどっかって言ってたな。」
「え、意味わかんないんだけど!?」
「おまえが、七不思議調べてる時かなんかのタイミングで帰ったぞ。」
「……なんか、あれなんだな。俺、いかに自分の発想が貧困だったのかを思い知らされてるよ。そっちのがよっぽど七不思議じゃねぇか。」
何でヘコんでるんだ?
いや、そんなことより。
抽選時間が近い。
そろそろ向かうか。
人数は、およそ50人。
いつもの5倍~10倍の人数だ。
くそ、普段来ないやつらに抽選なんてやらせるんじゃないよ。
こちとら毎日毎日いるんだから優遇してくれもいいじゃないか!
そんな心の声は届くはずもなく。
抽選機。
俺の番。
頼む。
出来れば2番以内でお願い。
頼む。
ピ。
42番。
神は死んだ。




