137話 『この町の七不思議 その5 口裂け女』
『この町の七不思議 その5
――問いかける女“口裂け女”――』
新聞部 記者:キクエ
本町において、「帰宅中に女性から声をかけられ、特定の問いに応答を求められる」という現象が報告されています。
本紙では、当該現象の発生条件および挙動について、現地調査を行いました。
■観測結果
夕刻、対象地域において、後方より女性の声による呼びかけを確認しました。
当該対象は「自分はきれいか」という趣旨の質問を繰り返し、応答内容に応じて行動を変化させる傾向が見られました。
また、対象は極めて高い移動速度を有し、瞬時に距離を詰める能力を持つことが確認されています。
■遭遇条件について
既存の報告および今回の観測結果から、対象との遭遇には以下の条件が関与している可能性があります。
・特定の飴を所持している
・または当該飴を摂取している
なお、条件の再現性については引き続き検証が必要です。
■対象の挙動
対象は観測者に対して接近後、突如として追跡対象を変更する挙動を示しました。
この際、対象は「変な臭いがする」と発言しており、視認できない何らかの存在を認識している可能性があります。
■対処方法について
従来の報告では、「ポマード」という語を複数回発声する、あるいは投擲することで回避可能とする説が存在します。
本件においては発声による一時的な行動停止が確認されましたが、再現性および有効性については未確認です。
■記録について
本件に関する映像記録を試みましたが、対象は背面のみが記録されており、顔部の詳細な確認には至っていません。
■総括
本現象は、従来の口裂け女に関する報告と一致する点を持ちながらも、一部において異なる挙動が確認されました。
特に、追跡対象の変更および不可視対象への反応は注視すべき特徴であると考えられます。
本町における七不思議の一つとして記録するに値すると判断します。
なお、当該現象の詳細な条件および対処法については、引き続き検証を行う予定です。
――――――――――
放課後。
部室。
「……。」
紙を机に置く。
「どうでしたか。」
キクエ。
「……どうもこうもねぇよ。」
「……。」
「……怖すぎだろ、あれ。」
「そうですね。」
「認めんのかよ。」
「事実です。」
「……。」
まあ、そうだけど。
「……。」
少しだけ、間。
「……なあ。」
「何でしょう。」
「……背中しか写ってない動画、意味あるかな?」
「あります。」
「どこが?」
「存在証明です。」
「いやそれ俺たちしか分かんなくない?」
「問題ありません。」
「問題あるだろ。」
「……。」
キクエは少しだけ考える。
「……次回は、より適切な角度での撮影を行ってください。」
「無茶言うな!?」
「可能です。」
「どうやって!?」
「頑張ります。」
「んん根性論!!」
「……。」
部室。
静か。
「……。」
窓の外。
夕方。
「……。」
「……で。」
「はい。」
「……次は?」
「はい。」
キクエはすぐにノートを開く。
「六つ目です。」
「おお、だいぶ終わりが見えてきた。」
「そうですね。」
「……。」
「……何やんの。」
「カーブミラーです。」
「……。」
何か、今回は危険な香りはあんまりしないぞ。
たぶん、おそらく。
「……。」
キクエは淡々と言う。
「動きが、遅れて映るそうです。」
「……は?」
「観測者の動作と一致しない挙動が確認されています。」
「……。」
「……。」
「……それ、見たくねぇな。」
「観測が必要です。」
「必要かな!?」
「必要です。」
即答だった。
「……。」
窓の外。
交差点。
「……。」
赤い縁のカーブミラー。
「……ところでさ。」
「何でしょう。」
「さっき俺にくれた飴。」
「はい。」
「あれ口裂けさんとの遭遇条件じゃなかったっけ?」
「……黙秘します。」
「いや何してくれてんの!?返すよ!返却だ!返却!!」
「拒否します!!」




