118話 『この町の七不思議 その1』人面犬②
「……これ。」
思わず呟く。
「犬、だよな。」
「犬ですね。」
キクエが即答する。
「……。」
いや。
「……。」
犬、なんだけど。
「……。」
顔。
「……。」
なんか。
「……。」
人、っぽい。
「……。」
ぞわっとする。
「……。」
「人面犬、だね。」
セイコさん。
軽い。
「……。」
犬が、ゆっくり動く。
一歩。
こっちに来る。
「……。」
近い。
「……。」
顔、おっさんの顔に見える。
「……。」
なんでだよ。
「……。」
普通に嫌だ。
「……。」
キクエが一歩前に出る。
「え、なにしてんの。」
反射的に腕を掴む。
「危なくないのかよ。」
「分かりません。」
即答。
「でも——」
キクエは犬を見る。
「会話が成立する可能性があります。」
「……嘘だろ?」
「とにかく試さないと。」
腕を振りほどかれる。
俺はスマホを急いで動画モードに切り替える。
「……。」
キクエが口を開く。
「こんばんは。」
「……。」
犬。
少しだけ口が動く。
「……。」
「……ああ。」
「うわぁっ!?」
思わず声が出る。
「喋った!?」
「喋りましたね。」
キクエが淡々と言う。
「なんで冷静なんだよ!?」
「想定内です。」
「想定するな!!」
「……。」
犬がこっちを見る。
「……。」
目が合う。
「……。」
「……なんだよ。」
「……。」
言った。
「……。」
いや。
「……いや、別に……。」
思わず返す。
「だから見んなよ。」
「いや、見るだろ。」
「……。」
会話してる。
してるけど。
「……。」
なんかおかしい。
「……。」
キクエがすぐに入る。
「いくつか質問してもよろしいでしょうか。」
「……。」
犬。
少しだけ黙る。
「……。」
「……いいよ。」
「いいんだ……。」
「……。」
キクエ、メモを取り始める。
「発生時間についてですが——」
「知らねえ。」
「……。」
「移動速度について——」
「知らねえな。」
「……。」
「発生理由について——」
「知らねえ。」
「……。」
全部知らねえじゃねえか。
「……。」
セイコさんが小さく言う。
「……ズレてない、けど。」
「ん?」
「……、軽い?」
セイコさんは軽く首を振る。
「なんでもない。」
「……。」
なんの話?
「……。」
サクラさんがじっと見てる。
「……。」
「……マジムンに近い。」
小さく。
それだけ。
「……。」
どうしよう。
犬の言葉よりわからない。
「……。」
その時。
「……。」
犬が何かに気付いたように、ふっと動いた。
「……。」
次の瞬間。
走った。
「……!」
速い。
ありえないくらい。
向かう先は、
「……。」
おじさん。
「……。」
の、横を。
「……。」
走り抜けて行った。
「……。」
猛スピードで。
「……。」
何かを追うように。
「……。」
犬は、そのまま走り去る。
「……。」
あっという間に。
消えた。
「……。」
静かになる。
何もいない。
「……。」
動画を止める。
「……。」
「……。」
キクエがノートを閉じる。
「……どうでしたか。」
「どうって。」
「第一の不思議として。」
「……。」
考える。
「……犬が喋った。」
「そうですね。」
「……いや、すごくね?」
「フェイク動画を疑われるかもです。」
即答だった。
「……。」
セイコさんが小さく笑う。
「まあ、まだ一つ目だし。」
「……。」
一つ目?
「……。」
これが。
「……。」
後六回?
「……。」
「……。」
何もなくなった夜は、とても静かだった。




