116話 前日譚のお化け
※視点変更
放課後。
部室。
窓が少し開いていて、風が入ってくる。
カーテンがゆっくり揺れている。
「やります。」
キクエが言った。
「……なにを?」
分かってるけど聞く。
「七不思議です。」
「……。」
机の上。
ノートが開かれている。
きれいな字で、
『この町の七不思議』
と書かれていた。
「まとめるんです。」
「……まとめる?」
「はい。」
キクエはペンを持ったまま、こちらを見る。
「この町には、そういうものがありませんから。」
「……。」
それは、まあ。
「だから、あるかもしれないものを集めて、形にするんです。」
「……。」
言ってることは分かる。
分かるけど。
「……なんか、やだ。」
「やだじゃないです。こわいの?」
「こ、こわくねーし!」
「じゃあ大丈夫ですね。」
満面の笑顔。
「……。」
キクエはページをめくる。
次のページ。
『人面犬』
「……もう決まってんのかよ。」
「はい。」
「……。」
早い。
「アラト君。」
「……なに。」
「これは非常に興味深いです。」
嫌な予感がした。
「夜の道路に現れて、人の顔をしていて、会話が成立するらしいです。」
「……。」
知ってる。
聞いたことある。
「この町でも何件か目撃情報があります。」
「……。」
「つまり——」
キクエの眼鏡が少しだけ光った。
……気がした。
「調べる価値があります。」
「……その顔、こわいよ?」
「こわくないです。」
「……。」
ダメだこれ。
「……で、どうすんだよ。」
「来週の水曜日、行きます。」
「は?」
「夜に。」
「は?」
「夜に。」
「……。」
二回言われた。
「……なんで夜なんだよ。」
「目撃情報が夜だからです。」
「……。」
「アラト君も来ますよね。」
「行かねえよ。」
「私一人で行きますよ?」
「……。」
「ね?」
「……。」
見つめてくる。
笑顔。
圧がある。
「……。」
目を逸らした。
「……行くけど。」
「はい。」
満足そうに頷いた。
「アラト君のお姉さんにもお願いしたいです。」
「……姉貴?」
「はい。中学生が夜にふらふらしているのは外聞が悪いです。」
「……あー、まあ。」
それはそうだけど。
姉貴こういうの絶対来ないだろ。
「聞いておいてください。」
「いいけど、多分、姉貴来ないぞ?」
「その時は、また何か考えます。」
「……。」
「ちゃんと今夜聞いておいてくださいね?」
「……あぁ。」
ーーーーーーーーー
夜。
家。
「ただいま。」
靴を脱ぐ。
リビングから声。
「あ、おかえりー。」
姉貴と、その友達のセイコさん。
「……あのさ、姉ちゃん。」
「なに?」
「来週の水曜日さ、暇?」
「どうしたの?」
「なんかさ、キクエがこの町の七不思議をまとめることになってさ。」
姉貴にキクエとのやり取りを説明した。
結果……。
「えー、いやだよ。」
だよね、姉貴ならそう言うよね。
「え!おもしろそうじゃん!!私でよかったら付き合うよ!!」
え、セイコさん?
「人面犬とか楽しそう!」
楽しそうとは。
「手伝ってあげるよ!」
「え、いいの?」
「いいよ。」
「……ありがたいけど、迷惑じゃない?」
「全然。」
即答。
「……。」
「それに。」
少しだけ、セイコさんの目が細くなる。
「ちゃんと見ておいた方がいいしね。」
「……?」
「なんでもない。」
「来週の水曜日でしょ?」
「うん。」
「楽しみだね。」
「……。」
楽しみではない。
「……。」
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自分の部屋。
ベッドに座る。
「……。」
人面犬。
夜の道路。
しゃべる犬。
キクエ。
セイコさん。
「……。」
とてもとてもとても、嫌な予感がする。
「……。」
でも。
「……。」
行くんだろうな。
どうせ。
「……。」
天井を見る。
静か。
「……。」
水曜日。
何かがある。
そんな気がした。




