112話 決意のお化け
※サクラ視点
夜。
少しだけ湿った空気。
この町は、沖縄より軽い。
でも、軽いだけで“何もない”わけじゃない。
むしろ……。
「……。」
歩く。
街灯。
コンビニ。
普通の人。
「……。」
普通。
ズレてるものは、ちゃんとズレてる。
いつも通り。
「……。」
でも。
「……あそこだけ、違う。」
足を止める。
何もない道。
ただの帰り道。
でも、思い出す。
昼間のホール。
おじさん。
セイコ。
それと——
「……。」
あれ。
「……ズレてない。」
小さく呟く。
普通、ありえない。
ズレてないのに、残ってる。
残ってるくせに、軽い。
「……。」
少しだけ考える。
「……。」
「……へえ。」
口の端が、少しだけ上がる。
ポケットからスマホを取り出す。
発信。
数コール。
「……もしもし。」
サイ兄。
こういう時はサイ兄。
スズ姉だと、めんどう。
「ねえ。」
「……なんだ旅行先から。」
「空港にいた変なおじさん、覚えてる?」
「忘れるわけないだろ。」
即答。
少しだけ、間。
「……今、近くにいる。」
「は?」
声の温度が変わる。
「……何でだ。」
「セイコに会いに来た。」
「誰だ。」
沈黙。
その向こうで、空気が張るのが分かる。
「……どっちにせよ、あれに関わるな。」
早い。
「なんで?」
「たぶん、録なことにならん。」
「そう?」
「……。」
少しだけ、間。
「……あれは、普通じゃない。」
「……うん。変。」
「触るな。」
「……。」
歩きながら、思い出す。
「ズレてないのも、いるよ。」
「……は?」
サイの声が低くなる。
「ヤナムンでもないし。」
「マジムンでもない。」
「……。」
「でも、普通にいる。」
「……。」
長い沈黙。
「……あの男のやつか。」
「たぶんそう。」
沈黙。
「……サクラ。」
少しだけ低い声。
「関わるな。」
「……。」
「あれは、たぶん——」
言いかけて、止まる。
「……。」
「……なんでもない。」
「なにそれ。」
「……いいから、離れろ。」
「やだ。」
即答。
「……。」
「面白いから。」
「は?」
「ズレてないのに、そこにいる。」
「……。」
「ヤナムンでもマジムンでもない。」
「……。」
「だから。」
少しだけ、間。
「おもしろい。」
「……。」
サイが黙る。
「……それ以上触るな。」
「なんで?」
「……。」
「触らぬ神に祟りなし、だ。」
「……。」
少しだけ、笑う。
「そっか。」
「……。」
「だったら、観察する。」
「……は?」
「もうちょっと。」
「……サクラ。」
「うん。」
「やめとけ。」
「やだ。」
軽く言う。
一方的に切る。
通話終了。
「……。」
スマホをしまう。
夜の空気。
静か。
サイ兄の困った顔を想像すると少し楽しい。
スズ姉だったら、5秒で殴りに来る。
「……。」
見上げる。
「ここは……。」
「楽しい。」
ぽつり。
「……。」
セイコ。
友達、嬉しい。
変なおじさん。
あれは、謎。
「……。」
そして。
「……あれ。」
まだ、いい。
今は、名前をつけない。
「……。」
歩き出す。
「ここ、楽しい。」
一拍。
「住む。」
期待に胸を膨らませた。




