第167話 不安になっちゃう
リント王国がドタバタしているので、帰り道はかなり無理したスケジュールで貴族の屋敷に顔を出す為に町や村を経由するような事をせずに、馬車馬が疲れ過ぎない様に走り続けて、夜はゴーレム騎士団の方々がマジックバッグからゴーレムを出して壁を作り馬車を守りつつキャンプをし、朝日と共に出発するというのを繰り返す。
まぁ、行きに寝泊まりした貴族家の中にもアグノーティス伯爵との繋がりがあり家宅捜査をされている家や、その繋がりがある貴族の屋敷を家宅捜査に向かうように国王陛下から指示を受けた貴族家があるらしいから僕たちを泊めるなどという余裕が無いのも分かるし、そんなドタバタしている領地の町では宿に泊まろうと町に入るだけでも壁の所の検査が厳しくなっており宿に泊まるメリットが吹き飛ぶ程に面倒なのだ。
なので町の出入り口の混雑具合を見て殆どの町をスルーしていたのだが、
『ここだけは!』
と僕たち視察団のリーダーであるソルドナット伯爵様に無理を言って、とある町に少し立ち寄ってもらったのであるが、壁の所の大混雑を見た僕は馬車を降りて入門担当とは別の門兵の方に話を聞き、
「ベル…ミルバス侯爵様にだけでもお礼を言いたいと思って町に寄ったけど、侯爵様は近隣の貴族家を取り締まる側で大忙しなんだって…」
と、ガッカリして再び馬車に乗り込みニルバ王国への帰路を急いだのであった。
何故ミルバス侯爵様にお礼を言いたかったかというと、それは行きの旅路の際に孫の件をお願いされ、その件の『成功報酬』としてこちらがお願いした特別な方にしか販売しないエルフ族から直接取り引きしているミスリル製のマジックアイテムのお店に特別なお客様としての推薦状を希望したのであるが、太っ腹なミルバス侯爵様は、
「娘や孫の相談に乗ってくれるだけでも十分有り難いから、推薦状なんて言わず今から商会に人を走らせるから、明日の朝一番に一緒に参ろう」
と、報酬として翌朝一番に僕とベルを連れてそのエルフ族と取り引きのある商会に出向くと、その店ではまだ回りの店が開いていない時間だというのに玄関口に店員がズラリと並び、
「ようこそミルバス侯爵様…お待ちしておりました」
と声を揃えて出迎えてくれたのであった。
そして、その時に購入したのがベルが、
「これ綺麗だね…」
と言って気に入り、昔ならキラキラした装飾品などは、
「惚れた相手からプレゼントされないと価値は無い!」
などと言っていたのに、学校も卒業し年齢こそまだこちらの世界の成人である十五歳には少し足りないが社会人として認められた女の子に成長したらしく、
「お兄ちゃん…」
と、珍しくおねだりしてきた品であった。
勿論そんな珍しくも可愛いおねだりを断るという選択肢は僕には無く、
「もうすぐ成人だしね…」
と成人祝い代わりに購入を決めたのがミスリル製の首飾りであり、ミルバス侯爵様のお陰で商会の方々も価格をかなり勉強してくれてマジックアイテムとしては破格の値段で購入出来た。
といってもそこはマジックアイテム…個人の買い物としては人生で一番高かったかもしれない…しかし、
『ベルの笑顔…プライスレス…』
と自分に言い聞かせ、顔色一つ変えずに購入したのが【守護精霊の首飾り】なる幾つかの効果のあるマジックアイテムで、取り扱っていた商会長さんが、
「実にお目が高い…これはエルフの王族も妻となる者を守る為に婚約の際に贈るという大変希少な品で…」
と言っており、どうやら紹介状があったとしてもポッと出の新規の客に普通は販売しない最高級品だそうで、お陰であのアグノーティス伯爵家での夜に睡眠薬入りの夕食を食べた視察団メンバーの中でベルだけが毒に耐性があり、しかも侵入者の気配を察知し対処が出来たというのである。
ちなみにあの夜のベルの鬼神のような強さは、単純に僕をゆする為の餌に自分が狙われた事に怒っただけという、多少は冒険者用装備のバフは有ったとしてもベルの基本性能なので今回の守護精霊の首飾りの効果では無い。
という事で町に無理に入っても忙しい最中のミルバス侯爵の手を煩わせたくなく、侯爵様にはお手紙でお礼を伝える事にして、馬車での旅を続けた僕たちは行きの半分程の日数でパルの町近くまで帰ってきた。
ここまで来ると旅のメンバーであるゴーレム騎士団の持つ通信魔道具にてカサール騎士団とのやり取りも可能となり、それは通信網にて王都との通話も出来る為に、詳しい報告など念話師さんの手を煩わせること無く大量の情報のやり取りが可能となったのを良いことにキャンプ地にてソルドナット伯爵様が通信魔道具を握りしめ王都に居る宰相様に、まぁ愚痴る、愚痴る…
『そりゃあ、視察団のリーダーとしての仕事が全く出来ずに帰らされたからな…』
と、原因を作ったのが認めたくないが僕の母と新しいお父さん的なポジションのクズな為にソルドナット伯爵様に顔向けが出来ない僕が小さくなって居ると、ソルドナット伯爵様は通信魔道具の向こうの宰相様に、
「どうされます…これはニルバ王国でジョン殿を何とかせねば…」
と言い出し、深刻な声で宰相様も、
「既にリント王国からも念話師経由でその相談が…」
などと不穏な事を言っておられる。
『何…僕、どうなるの…』
とは思うが、今回ばかりは母のやらかしを息子が諌めたなどという簡単な話では無くなっているのは分かる。
『あれかな…闇の組織のボスであるアグノーティス伯爵の嫁の息子的なアレだし、毒殺関係はあのゲス女が主犯だし…一族連座のヤツかな?』
と不安になりつつ、
『でも、捕縛に繋がったのは僕が頑張ったからで…いや、ほとんどベルか?』
などと一人でグルグル考えていると、通信魔道具の中継地点でもあるカサールから、
「宰相様…ソルドナット伯爵殿も長旅で疲れておられるでしょうから詳しい話は国に入ってからでいかがでしょう…我々が国境まで我々が迎えに参りますので…」
とカサール伯爵様が提案してくれ、ペアの町にてバートン子爵様や奥様に挨拶すら出来ないままニルバ王国へと帰還する事になったのであった。
『まぁ、追放は解かれたからいつでも行けるか…』
と、僕はミルバス侯爵様との約束を守る為にリント王国側の協力者としてバートン様に旅の最中に閃いたゴーレム列車計画を提案するのは次回にする事にしたのであるが、
『あれ…連座で罰を受けたらまたリント王国から追放か?』
などと不安な顔をしていると、隣でベルが、
「お兄ちゃん、大丈夫? 顔色悪いよ…」
と心配してくれ、そして彼女は僕の頭を包み込む様に抱きしめ、
「…お兄ちゃんのお母さんが罰を受けるんだもんね…いくら強いお兄ちゃんだってどうして良いか分からないよね…」
と言いながら優しく頭を撫でてくれたので有った。
『いや、その件についてはもう納得しているというか…当然の酬いというか…』
とは思っているが、この瞬間ベルの優しさに包まれているのが心地よく、
「ありがとう…」
とだけ伝え、少しズルいが可哀想なフリで暫くベルに甘えさせてもらい元気をわけてもらったのであった。
『不甲斐ないお兄ちゃんでゴメンね…ベルが居てくれて本当に良かった…』
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