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修復ギフト持ちの貴族の息子でしたが追放されました  作者: ヒコしろう


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第165話 闇夜の荒事

僕の部屋に訪れた夜更けの訪問者は母と名乗る敵であった。


奴は僕を手元に置いて、単純に金儲けの道具や様々な悪事の隠れミノとして便利に使いたいらしく、


『仲間になれ』


などと言ってきたのである。


勿論、あの女に手を貸してやるつもりも義理も僕にはあるはずも無いが、あのクソ女は、


「可愛いお耳の婚約者の命が…」


などと、勝ち誇った顔で脅してきている為に、


『婚約者なんて…いや、ベルがまた変な自己紹介でもしたのか…』


と理解した僕は現在、


「ベルに何をした…」


と魔石ランプの明かりに照らされただけの薄暗い客間の奥で、目の前の敵達を睨み付けながら小さく問いただし、足先から頭のてっぺんまで駆け上がってくる怒りで今にも爆発しそうな自分を何とか制御しようとしていたのである。


だが、そんな我慢をしている僕を嘲笑うかのように、


「なによ、怖い顔をして…まだ殺してないわよ…多分…フフッ。 こちらにダーリンが連れてきてくれてる頃よ…でも、お母様のお願いを聞いてくれないのならぁ~」


と、ヘラヘラしているゲス女を見た瞬間に、


『プツン』


と、僕の中のどこかで人としての制御スイッチがオフにでもなったのか、何も躊躇する事なく、ベルトのポーション入れにあるライト兄さんが調合したバーストランチャー用の麻痺毒の瓶を目の前の母へと投げつけたのであった。


しかし、その行動は怒りで我を忘れた訳ではなく、目の前の人間に情けをかける選択肢だけを排除した結果であり、僕の脳内では、


『バーストランチャーを取り出すまでもなく目の前の誰かに当たれば一人ぐらいは動けなく出来る』


という判断と、


『もしダメでもマジックアイテムで身体能力も上がっているから毒で怯んだ隙なら騎士の一人や二人は倒せる』


という自信からはじき出された計算の上での行動である。


勿論、怒っていない訳ではなく、ちゃんと怒りで何時もより大胆に行動している自分とは別に、


『不意打ちとはいえクソ女のパンチをモロに食らったという事は、移動速度上昇の指輪の力で回避性能は上がらないのか…』


などと、こちらも不意打ちにでも出ない事には多勢に無勢をひっくり返せない可能性も冷静に計算しており、手を離した麻痺毒瓶を目で追いながら腰の頑丈が売りの魔合金の片手剣を握り締め、


『被害の少なそうは奴から!』


と、追撃の体制に入る。


いくらチビで弱めな僕とはいえ、腕力上昇の腕輪の効力を使って瓶1本が的まで届かないという情けないオチもなく、狙った的が気持ちが入りやすい良い的だったらしく、投げた本人が気持ち良いぐらいの直球がゲス女へと向かっており、


「奥様!」


とゲス女を守ろうとした騎士の出した手に防がれてゲス女への直撃は回避されたが、良い具合に瓶が割れて毒液が撒き散らされる。


『毒液まみれの奴は放置だな!』


と判断し、少し後ろで魔石ランプを投げ捨て武器を抜こうとしている騎士にタックルする勢いのまま剣を突き立てて制圧し廊下までの道を確保したのであるが、僕が廊下に出たと同時に僕の攻撃で深傷を追った騎士が最後の嫌がらせとばかりに警笛を鳴らし、


「おい、ベルを探しに行きたいのに!」


と焦る僕の元に警笛を聞き付けた警備の騎士が集まって来るのが魔石ランプの明かりが移動して来るので分かったのであった。


このままこの場に居れば袋のネズミとなるのは目に見えているし、剣を振り回して一人で暴れて切り抜けられる自信もない僕の頭は知恵熱で倒れそうな程にフル回転し、そして導き出された答えが、


『よし、コッチも人質作戦だ!』


という事で、麻痺毒を浴びて体の自由がきかないゲス女の手足を冒険者の必需品であるロープで拘束し、


「ひゃにを…母ホヤに…」


と呂律も怪しい女に向かい、


「五月蝿い! 反抗期が満期になって一括払いで来たんだよっ!!」


と黙らせて、ロープごと引きずり廊下へと出ると、長い廊下の奥で明かりが揺れている。


『もう、すぐ側までランプの明かりが…』


と焦った僕は、


『もう、屋敷を壊しても良いよね』


と自分の心の中で自分に許可を取ると、冒険者装備の一部として体に馴染んだマジックバッグの口を廊下に向けてニュルっと最新型の僕の愛機を取り出したのであるが、マジックバッグから解き放たれた相棒は待機姿勢のまま二階部分にある客室の前の大きな廊下の窓ガラスを割りまくり、その外に広がるバルコニーまではみ出た状態で静かに屈んでおり、ガラスの破壊音と共に、


「何があった!」


と叫びながらランプを掲げ急ぎ足で近づく人影に向かい、


「動くな、動くと奥様の命は無いぞ!」


と、人質を取った悪者の定番の台詞を吐いて相手を静止させると、愛機の手にゲス女へと続くロープの端を括りつけて自分の両手を自由に使えるようにした後に、ゆっくりと集まって来た騎士達を睨み付けながら、何パターンか脳内でこの後の動きをシュミレーションしてみたが、


『う~ん、ゴーレムに乗り込む時間は無いかも…』


と、ゴーレムで暴れながらベルの居場所を聞き出すか、交換条件でベルを解放させる計画がいきなり頓挫した事を理解し、


『立て籠り犯って、こんな気分なのかな?』


などと、現実逃避をしたい自分と、


『どうしよう…マジでどうしよう…』


と、焦り散らかす自分の間を揺れ動いていたのであるが、次の瞬間に、


「お兄ちゃん!」


というベルの声が聞こえ、ハッとした僕は、


『クソ野郎…人質にしたベルを…』


と、完全にあちらのペースに戻されて良いように使われる未来を覚悟し、ベルの声がした方向に、


「分かった、これ以上暴れない。 だからベルに手を出さないでくれ!」


と叫ぶと、暗闇の方からは、


「えっ、私がどうしたって?」


と驚いているようなベルの声が聞こえると、手前の兵士達がザワザワと道を開けはじめ、そして、その真ん中を堂々と歩くベルが遠くに見える。


「えっ!?」


と驚く僕を他所に、そのベルは散歩を嫌がり歩くのを止めた犬に無理やり散歩を促すように、時折グイッと力を入れて何かを引きずると、


「痛ゃい…たしゅ…けて…」


と消え入りそうな声が微かに聞こえて来るのであった。


「ん?」


と、僕が不思議そうにそちらを見つめていると、騎士達が、


「ご主人様…」


と焦る声と共に、


「誰も手を出すでない…下手に動くとご主人様は殺されてしまう」


などという指示を出す声が近づいてきてくると、完全武装のベルが、


「お兄ちゃん、怖かったぁ!」


などと僕に抱きつく時には、ドン引きするぐらいタコ殴りにされノックアウト状態で引きずられたアグノーティス伯爵と、その部下のオッサンも片目を腫れ上がらせながらヨタヨタと僕の足元に到着したのであった。



読んでいただき有り難うございます。


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