第160話 語らいの時間
久しぶりとなるバートン様との語らいの時間はとても楽しく、そして改めて申し訳ない気持ちにもなった。
彼は僕が投獄された時から何とかして僕を助けだそうと、お父上である辺境伯様に掛け合って下さったり、学校の皆に声をかけて署名活動などをして下さったが僕を助ける事が出来なかった事を悔やんで、
『せめてジョン君が守りたかったものだけでも…』
と、ペアの町の領主に手を上げて下さったのだが、
「正直な話、他の町より産業も少ないこのペアの領地をたった数年で復興させるのは大変だったでしょうに…」
という僕にバートン様は、
「なに、ジョン君が残してくれた錬金術に頼らない肥料の知識を持った農家達が新たに領主になった私を支えてくれたから…」
と笑っていたのであるが、そんな手札だけで領民の活気が戻る程の復興が出来る人間は世の中にそうそう居ないと思われる。
バートン様は僕を追放から守るべく学校にて署名活動などをしていた時に、僕の居たクラスの中でも僕と比較的仲が良かった生産系ギフトのチームだったイザベラ嬢と、
『ジョン君を助ける!』
という共通の目標の為に協力する関係となり、そして信頼から恋愛に発展し結婚に至ったという流れらしいのであるが、
「そんな事ならそう言ってくれたら…結婚祝いぐらい贈ったのに…」
と僕が少し拗ねながら、
「メリーさんもダグさんもそんな事言って無かったよ」
と云うとバートン様は、
「まぁまぁ…気を悪くしないでくれよ、メリーをジョン君の所に送り出す時にはまだイザベラとは文通程度だったし、ダグを送り出した後暫くして正式な婚約をしたからなぁ…黙っていた訳ではないんだ…」
と、使用人達にも婚約間近まで言って無かった事を楽しげに話してくれ、どうやらバートン様夫婦の思いは、
『ジョン君と再会するのは彼の追放が解かれた時に堂々とこのペアの地にて!』
という意見で統一していたそうで、下手にこちらの事を知らせてしまわずに夢が叶って再会出来た時の僕の反応を楽しみにしていたらしく、その為に盗賊討伐作戦以来カサール家との通信魔道具によるホットラインが有るにも関わらず、婚約や結婚についてはあえてカサール家サイドにも秘密にしてもらっていたのだとか…
『カサール伯爵様やクリスト様は知ってたのか…』
と、少し内緒にされていた事にショックを覚えたが、
『まぁ、以前から僕が【大恩人】として話していたバートン様からのお願いにニルバ王国貴族としての礼を示す形で、カサール伯爵家の方々も秘密にしていたのだろう』
と理解した瞬間に、
『身内みたいにカサールの町で顔を合わす僕への内緒事を…カサール伯爵家の方々にも要らぬ気遣いをさせていたのか…』
と、申し訳ない気分になった僕であった。
そんな感じで夕食の時間までバートン様と楽しく話して、奥様となったイザベラ様の実家であるリント王国側では珍しく錬金術が盛んなエラダーム子爵領と協力する形で、ペアの領地にてポーションにつかう薬草を栽培する事で安定した収益を産み出し領地を立て直した事を聞いたり、僕がニルバ王国で過ごした話を、バートン様は、
「ジョン君、盗賊討伐の時に新型のゴーレムを使ったのは知ってるけど、それを作る時に神様の啓示を受けてゴーレムの研究をしていた錬金術師の遺品と巡りあったっていうのは本当かい?」
などと興味深々で聞いてきたので、僕が、
「神様…ですか? 古道具屋で物々交換しただけですけど…」
と素直に答えると、バートン様は、
「吟遊詩人や旅芸人の追放賢者の物語では…」
と、前々から気にはなっていた【追放賢者】というキーワードについて色々と教えてくれたのではあるが、
『物語は盛りたいが、本人や身内に指摘されたくないから…』
と、カサール伯爵領地を避けて広まった吟遊詩人や旅芸人の演目としての盛りに盛った僕の話があるらしく、本人としては、
「そんな物語になるみたいな華々しい人生は歩んでないのに…」
と困惑するしか無かったのだが、バートン様は、
「いやいや、誰がどう見ても波乱万丈で、物語向きだよ…ジョン君の人生は…」
と呆れていたのであった。
そんな楽しい時間はあっという間に過ぎ、夕食時には視察団の皆さんとペア子爵家のお屋敷で働くダグさんの一番弟子と言われる料理長さんの自慢の料理をいただいたのであるが、
『う~ん…昔の我が家の料理よりは食材や調味料も良いものだから美味しけど、ニルバ王国より香辛料とかはあまり入って来ないのかな…』
と、久しぶりに食べたリント王国側の料理に対して少し残念に感じていたのであるが、ダグさんより十歳程若そうな料理長さんは、
『どや!』
という自信満々の顔でメインの肉料理を、
「師匠直伝のボア肉の香草焼きで御座います」
などと言っているのである。
確かに幼い時にダグさんの作ってくれた懐かしの味ではあり、手に入る食材も僕の食べていた物より遥かに良いものの為に旨いのではあるが、しかし…
『馬車で2日ほどしか離れてないが、十年近く戦争で国交が絶たれていたからか…これは僕が何とかせねば!』
と心に決める程であったのだった。
そうと決まれば話は簡単で、食後に少しバートン様にも時間をいただき、我が家のメンバーにもニルバ王国から五セットもらった通信魔道具の1つをマジックバッグから取り出してリモートにて会議に参加してもらう。
この会議のメインは、バートン様にテイカーさんと協力してくれるペアの領地内の商人を紹介してもらい、我が家の商会がコーチャー周辺で集めた香辛料などをペアの町まで輸出できる様にし、ダグさんのお弟子さんに手に入るようになった香辛料を使った料理をダグさんがこの通信魔道具にて伝授するという、
【ペアの町、食の都化計画】
である。
カサールにある多くの大商会は王都やニルバ王国側の大都市を本店としている為に、カサールまでの輸送や販路に重点を置けば商いとしては十分であり、カサールからリント王国サイドに大きな販路を開拓する必要がない、なのでリント王国への大陸の南側で栽培される香辛料などの商品は行商人などの小口の商いのみである。
【珍しい】というだけで購入する者は居るかもしれないが、それでは食文化の発展にまでは時間がかかる。
という事で、大恩人であるバートン様にいつまでも体に良さげなハーブの香りがメインの料理ばかりを食べさせているのは僕の食へのプライドが許さないので、イザベラ奥様と女子トークでキャッキャウフフしているベルちゃんを一旦、
「ご飯後だから味見程度の少量ずつ配るのを手伝って」
とお願いして回収し、ダグさんの弟子である料理長さんにも、
「師匠であるダグさんが作ってくれた料理ですよ…時間停止機能付きのマジックバッグで持ってきたから熱々だから味見して下さい」
と会議に招待したのである。
『さぁ、驚くが良い…ハーブだけでは辿り着けないスパイスとハーブの世界を…』
とほくそ笑みながら僕は、パラパラ系ではあるが米との出会により納得の出来まで到達した再現レシピで作られたカレーを少量ずつテーブルに座るペア子爵家の方々の前に並べ、
「一口で構いませんので、どうぞ…」
と促したのであった。
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