第158話 それぞれの思い
マルダート男爵様ご夫婦から相談された婚約のお話であるが、僕が返事を考える暇さえ与えて貰えず、お嬢様に何故か全力で拒否されてしまった。
『まぁ、好みのタイプでは無かったのでしょう…』
と自分に言い聞かせ、夕食後には仕事終わりのジル君とゆっくり話したはずなのであるが、やはり僕の繊細なハートにダメージは入っていたらしく、彼と何を話したかはあまり覚えていないが、文字カルタの収益により弟のチル君がお母さんと一緒に王都にて絵の勉強が出来ているらしく、ジル君が喜んでいたのだけは覚えているのでとりあえず良かったという事で無理やり納得しつつ翌朝マルダートの町を出発したのであった。
王都でメイドに変装していたリリー嬢のように僕のやらかしによりNGを食らうのは百歩譲って仕方ないにしろ、昨日のように特に何もなく全力で拒否されてしまうと、
『なぜだ…何か気に障る事でもやっちゃったかな…』
と、べつに婚約どうのこうのでは無く、自分では気が付かない男としての欠陥を指摘されたようで引きずってしまう。
数時間後にはあの日、辺境伯様の領都の地下牢から檻馬車に乗せられて通過した以来の国境を越えてペアの町に向かうというのに、普通なら色々と込み上げる複雑な感情なんかを噛みしめているはずであろうシチュエーションなのだが、現在の僕は分かりやすく、
『べっ、別に期待とかはして無かったけど…でも…一方的にフラれた気分だな…』
と落ち込んでおり、僕の隣ではそんな事など知らないベルが、
「お兄ちゃん、静かだね…お腹いたいの…おトイレなら馬車を止めてもらうけど?」
と心配してくれ、僕は、
『昔ならダイレクトに、「う○こ?」とか聞いてきたのに…ベルも「おトイレ」って言えるようになったんだ…』
などと感心しながら彼女に、
「大丈夫だよ…久しぶりのリント王国だから、緊張してるの…かな…」
などと強がってみせると、ベルは寂しそうな顔で僕を見て、
「そうか…追放された国に行くんだもんね…お兄ちゃんでも怖いよね…」
と言ってくれ、僕の手をキュッと掴み、
「大丈夫、私がついてるから」
と励ましてくれたのであった。
メンタルがやられている時にこの優しさは反則であり、
『泣いてまうやろ!』
と心の中で叫びつつも、
「有り難う…」
とだけ彼女に伝えて、それ以上余計な事を喋ると涙声になりそうなので黙っていたのであるが、ベルはずっと僕の手を握りしめたまま黙って隣に寄り添ってくれていたのであった。
そんな優しいベルのおかげで、
『よし、訪問団の役目に集中しよう!』
と気持ちを切り替える事が出来た頃にはリント王国とニルバ王国の国境線まで来ており、一旦馬車を降りて手続きをするのであるが、
『なんだろう…凄く視線を感じる…』
と、ニルバ王国側の出国手続きは簡単に終わったのであるが、リント王国側の入国の手続きにて国境警備の一人の兵士さんに滅茶苦茶見られているのである。
『どうしよう…追放は解除されたんだよね…』
と不安になりつつも、恐る恐る、
「あの…」
とガン見してくる兵士さんに声をかけると、その兵士の男性が僕に、
「おいおい、二年近く一緒に過ごしたのに五年ばかり会わないだけで俺を忘れたのかよ…」
と語りかけた瞬間に僕はようやく彼が誰か理解したのであった。
「看守のお兄さん!」
と声を出す僕に彼は、笑いながら、
「そういや名前は名乗って無かったか…まぁ、看守と収容者だったもんな…」
と話していると、周りのリント王国の国境警備兵の方々が、
「本当に噂の賢者様と小隊長は知り合いだったんですね」
などと驚いているのであるが、僕としてはお兄さんに、
「えっ、小隊長って…看守の仕事はクビになったの?」
と聞くとお兄さんは、
「馬鹿言うなよ、国境警備兵士が国境代わりになっていたあの町で看守の仕事を手伝ってただけだ」
と復興前のマルダートにて働いていた経緯を教えてくれ、その後無事に出世して今は国境警備兵士団の小隊長として五人の部下を持っているそうで、その五人の部下達が口々に、
「いや、小隊長がリント王国から追放された賢者様と仲良しだったと飲む度に言ってたから…」
と、酔っぱらいの戯言として聞き流したり、
「小隊長が今のマルダートの壁の修復現場に居た事は知ってましたが、どうせ賢者様とやらを見たことがある程度なのを友達だと…」
と、中には可哀想な妄想だと決めつけていた者までおり、実際に今こうしてニルバ王国側から来た騎士団に囲まれて、リント国王陛下からも丁重に迎えるように通達があったらしい人物である僕と気さくに話している姿を見た部下の方々は、
「流石小隊長!」
などと今更に彼を持ち上げているのだが、当の本人は、
「俺…そこまで信用されて無かったんだ…」
と現実を知ってしまったらしく落ち込んでいたので、僕は部下の方々に、
「僕の噂とやらはどんな物かは知りませんが、少なくとも僕という人間が国賊の息子として収容所で囚人達に憂さ晴らしついでに命を奪われ無かったのは看守だった小隊長さんが気にかけてくれたからです…だから仲良しなんて云う簡単な関係ではなく【命の恩人】の一人ですよ」
と伝えると、五人の部下達は、
「おぉ…」
と驚きの声と共に小隊長さんを尊敬の眼差しで見つめていたのであった。
そして、そんな予期せぬ再会があった後に我々はリント王国へと入国し、本日は懐かしのペアの町に向かい、明日からはリント王国の王都を目指して西へ西へと向かう予定なのであるが、リント王国の王都を目指すこの旅に一際本気の方が一名…それは、リント王国からニルバ王国へと連絡要員として派遣されていた念話ギフト保持者のお姉さんである。
以前リント側の国王陛下にリモートにて僕に土下座をするように指示された可哀想なお姉さんは、
「王都に行ったらリント王国の念話師を辞められる!」
とあの時以来リント王国に不満を持っており、ニルバ国王陛下からも同情され、
「ウチに来る?」
などと言われていたらしいのであるが、念話ギフトは便利で希少な為に退職が難しく、
『ニルバ王国に彼氏が出来て…』
とか、
『結婚したら仕事を辞めて家庭に入りたいので…』
などと、リント王国の念話師としてもであるが、あの様な扱いをする国王の国からもお暇をいただこうと頑張ったのだが、どうやら認めては貰えず困っていたところ、
『追放してしまった賢者様をリント王国へ連れてくるなら…』
と条件付きで退職が許可されたらしく、僕をリント王国の王都まで連れて行けば晴れて自由の身となれニルバ王国の城で知り合った男性と結婚出来るとあり、
「さぁ、ここからは騎士団の方々の通信魔道具網も上手く機能しないかも知れませんのでワタクシにお任せ下さい」
とヤル気に満ち溢れつつ、
「待っててねダーリン…そして待ってろよあの野郎…」
と、ダーリンが誰かは知りたいが、あの野郎について聞いてしまうと長くなりそうなので、
『リント王様…あの土下座の指示1つで希少なギフトを持つ優秀な部下を一人失ったんですよ…』
と遥か西の空の下に居るであろうまだ見たことが無いリント王国の国王陛下に向けて念話ギフトなど無い僕が届く筈も無い念を飛ばしてみたのであった。
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