第157話 久しぶりのマルダート
カサールの町を出て、次にニルバ王国側最後の町となるカサール伯爵領のマルダートの町で一泊すれば、いよいよリント王国へと入国する事になる。
『マルダートの町か…リント王国方面に行く用事がなかったのと、色々と辛かった記憶がチラつくからあえて行かなかったけど…』
などと思いつつ貴族馬車に揺られていると隣のベルが、
「どうしたのお兄ちゃん…」
と、僕の顔を覗き込んでくる。
急に視界に飛び込んで来たベルの顔に一瞬驚くが、もうすぐベルの生まれた集落近くだと気がつき彼女に、
「何でもないよ…ちょっと昔の事を考えていただけだよ…それよりも今日はマルダートまでの移動で時間が有るからちょっと休憩時間をもらってお墓参りでもする?」
と誘ってみるが、ベルは、
「学校を卒業した時にターニャちゃん達と一緒に行ったから大丈夫…それよりもマルダートに行ったら多分お兄ちゃんはビックリするんじゃないかなぁ~」
などとお墓参りを断り、なにかマルダートの町にて僕に見せたい物があるらしく、僕は、
「えっ、ベルはマルダートの町に行った事あるんだ…」
と驚いていると、彼女は、
「学校のお友達も居るし、冒険者としての依頼もカサール伯爵領内が多かったからね…でも、何をマルダートの町で見せたいかはまだ内緒だよ」
と笑っているのであった。
その後、僕としては追放以来初めてとなるマルダートの町へと到着したのは昼過ぎの事で、ベルが見せたいものが何かは分からないが、
『訪問団として代官であるマルダート男爵様にご挨拶をしてからになるぞ…ベルが見せたいものとやらを見る為にブラブラする時間はあるかな?』
などと心配していたのであるが、
『あぁ~、何となくだけどこのお屋敷の間取りは知ってるぞ…』
と、収容されていた時の記憶で、看守の方々が使っていたお屋敷の入り口をくぐり、
『清掃作業で来た看守さん達の宿舎だった所だ…今はお屋敷のホールか…』
などとあの頃を思い出していると、そのホールの入り口扉の前にてマルダート騎士団の紋章が入った鎧姿の青年が、
「リント王国視察団の皆様、ようこそ、どうぞ中へ…」
と重たい扉を開けてくれ、視察団のリーダーやニルバ王国ゴーレム騎士団の方々に続いて部屋の中に入ろうとする僕にその青年は、
「ちょっと、ジョン兄さん…何か一言ぐらい無いんですか…冷たいなぁ…」
とガッカリしながらベルの方に、
「ベルちゃん宛にテイカーさんに伝言を頼んでたのに…」
と文句を言う青年の声に僕は心当たりがあり、立派な鎧の兜を覗き込み彼の顔を確認し、そして確信した僕は驚きながら、
「ジル君か!?」
と訪ねると、鎧姿のマルダート騎士団の青年も、
「えっ、知らなかったの?」
と驚き、ベルだけがクスクスと満足そうに笑っていたのであった。
話の流れでは、ジル君もベル達と同じ学校に通っており、一緒に勉強に励んでいたそうで、国境の町の代官であるマルダート男爵家より、
「リント王国文字が読める人材を…」
という依頼が学校に届いたらしく、先生達は我が家の子供達に就職先の斡旋をしようとしたのであるが、王都の学校に編入やら冒険者と商人の二足のわらじやら、ベルも冒険者をやりつつお嫁さんになるという夢の為にその誘いを断り、ベル達と一緒に卒業する為に頑張っていたジル君が、
『たしか、リント王国出身のお父さんの書いた狩りの指南書を読む為にリント王国文字をマスターしているんだよね』
という理由から、
「成績もなかなか良かったしマルダート男爵家の文官にならない?」
とのお誘いに、ジル君は、
「丁度弟が絵の勉強に母と王都に数年行きますので、その間だけなら…」
との条件で、ジル君は弓も上手なので文官ではなく騎士団兼、リント王国側とのやり取りの際の翻訳担当者としてマルダート男爵家に就職したらしいのであるが…
「そんなの初耳だよ!」
と今日一番の驚きを見せている僕に、イタズラっ子みたいに、
「ビックリしたでしょ…」
とベルが笑っており、ジル君も、
「やっぱり言ってなかったか…」
と呆れているのであった。
しかし、ジル君はすぐに仕事モードに戻り、
「主が参りますので…中へ」
と僕たちを促し、僕は、
「後でね…」
と、ジル君に声をかけホールの中へと入ると、収容施設の頃は看守さん達のベッドが並ぶだけのだだっ広い空間だった場所には立派な絨毯や壺などの調度品が並び、
『おぉ、いかにも貴族のお屋敷…』
といった雰囲気の空間になんだか不思議な感覚を覚えてしまう。
すると暫くしてマルダート男爵様とカサール伯爵様の娘でもある奥方様と王都の学校を卒業してマルダート魔法師団長としての肩書きもついたお嬢様が入室し、視察団としての僕たちに挨拶をしたのである。
しかし、視察団としてのやり取りもそこそこに、マルダート男爵様は、
「では皆様、本日の宿として我が家の客間を用意しております…」
と、我々を部屋に案内してくれるのかと思えば、僕とベルだけ、
「夕食まではまだ時間が有るし…」
とお茶に誘われたのである。
『本当はジル君ともっと話したいけど…』
とは思うが、彼も騎士団としてのお仕事の最中であり、ホールの扉係のジル君に、
「仕事が終わったらゆっくり話そう」
とだけ伝えてマルダート男爵様一家とのお茶会に参加する事にしたのであった。
僕はマルダート男爵様に、
「マルダート男爵様…王都からの方々とお話とかしなくても?」
と心配すると、彼は、
「もう、ジョン君…パーティーなどで顔も合わせているからラルクで良いって言ってるだろ…水くさい…視察団のリーダーさんとは義父殿がしっかり話しているので私が話す事なんて…それよりジョン君がマルダートに来てくれている事の方が大事だよ!」
と言っているのであるが、戦争の件と収容されていた件により無意識にマルダートの町を避けていた事もあり、
「いや…ほら…僕ってこちらの方々にご迷惑をかけた家の…」
とブツブツと言い訳を言っていると、カサール伯爵様の血を色濃く引き継ぐクレア奥様が、
「今回の訪問はリント王国からの追放が解かれたからですよね…ならばもうジョン君が引け目を感じる事は何もありません!」
と言い切り、そして、
「実家が伯爵の地位までになった事もですが、特にお兄様の結婚…ゼルエルガ御姉様とクリストお兄様を巡り合わせてくれた大恩人でしょ…それにゴーレムとか…あとは、マーク村の発展だってジョン君の商会のおかげだし…」
などと僕の功績を並べて褒めてくれ、ラルク男爵様は、
「そうそう、ジョン君のおかげで我が家も恩恵を受けているんだから…特に最近では学校を出た優秀な人材を確保出来てカサール伯爵領は安泰だよ…あとはクリスト義兄様に世継ぎと我が家の娘の嫁ぎ先でも見つかればな…」
と言いつつ、
「そうですわねぇ…」
などと、夫婦してチラ…チラッチラッと僕を見てくる。
どうやら発売すぐから魔力供給魔道具を使いこなし魔法師として王都の学校でも有名だったお嬢様には見合いの話が沢山来たらしいのであるが、お嬢様ご本人が、
「魔力が少なくまともに魔法師としてやって行けそうにない時には挨拶をしても無視していた様な奴が、新型ゴーレムだの魔力供給魔道具などで有名になった途端にカサールお爺様の孫娘だからとすり寄って来て…気持ち悪い!」
と、全てのお見合い話を蹴って、
「王国魔法師団に入ったらまた面倒臭い事になるから…」
と実家に帰ってきてマルダート魔法師団なる今はお嬢様1人だけの部隊を作り、両親共に、
『これでは婚期が…』
と頭を抱えているそうで、2歳程しか歳の離れていないベルとは気が合うのかキャッキャウフフと楽しそうにお喋りしている二人を眺めつつ、ラルク男爵様と奥様のクレア様は、
「ジョン君…どうにかならないか?」
と僕に聞いてくるのである。
恐る恐る僕が、
「どう…とは?」
と聞くと、ラルク男爵様は、
「いやね…何度も国王陛下から貴族に誘われているジョン君を男爵家の婿になんて厚かましい事は考えてないから、娘をもらってはくれないか…」
と言っており、それを聞いたお嬢様はベルとのお喋りをピタリと止めて、真っ青な顔で、
「お父様、なんて事を言い出すのです!」
と猛反対し、奥様が、
「でも…」
と反論しようとするも、
「お母様も、ジョンさんに失礼でしょ!」
とカサール伯爵様を思い出させるような気迫で両親を黙らせると、僕に、
「ごめんなさい…」
とだけ言って頭を下げたのであった。
『…えっ…真っ青な顔で否定されてからの「ごめんなさい…」って…そんなに嫌でしたか?』
と、婚約する気は全く無かったが、それでも1人の女性からのハッキリとした拒否の態度はハートにくるもので、少し落ち込む僕であった。
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