第149話 お師匠様にお願い
エルバート師匠の工房の隣の大工や細工職人さん達の工房が有った辺りに大きな建物が知らないうちに建っており、それだけでも僕はリーグさんと二人で、
「あれ、道…間違えたかな?」
と顔を見合わせるほどに驚いたのであるが、目の前の見慣れた建物は確かにエルバート師匠の工房だと確認して中に、
「お久しぶりです師匠」
と僕が声をかけながら入ると、師匠の工房には知らない女の子が店番に座っており、
「いらっしゃいませ」
と元気よく挨拶をしてくれている。
一瞬頭がフリーズした僕が絞り出すように、
「あの…師匠は…」
とだけ聞くと、その女の子は、
「あぁ、お師匠様なら隣の母屋にて他の弟子の指導をなさっておりますよ」
とニッコリと微笑んでいるのであるが、色々と気になるキーワードが複数有った為にとりあえず、彼女に、
「あの…貴方は…」
と聞く僕に彼女は、
「私はメイダと申しまして、エルバートお師匠様の弟子を…」
と言うので僕は、そこでピンと来たのである。
カサール子爵様から我が家のシルフちゃんの錬金術の師匠に将来なって欲しいと言われていたエルバート師匠が、
「実は今、弟子になりたいと言っておる者が複数いてのぅ…」
と、あの狭い工房では一人の弟子を教えるのがやっとなので、家庭教師タイプならば我が家に来て錬金術を一からシルフちゃんに教える事ができるが、それもシルフちゃんがもっと大きくなってからであり、
「先に寿命が来たらライトの奴で我慢してくれるかの?」
などと、シルフちゃんの頭を撫でていた事を思い出し、
『そうか…僕が自分で師匠の工房に来るのは久しぶりだもんな…一年近く留守気味だったし…』
と、なんとなく目の前の状況が把握出来たのではあるが、僕が、
「ではメイダさん、師匠に何時なら会えるかな?」
と一旦アポを取って帰ろうとすると、メイダさんは、
「夕方にはこちらに戻られますが…お師匠様に伺って参りますので、お名前を…」
と言うので、僕は、
「あぁ、ゴメン、名乗ってもらったのに自己紹介がまだだったね」
と詫びてから、
「新町の奥に住んでる弟子のジョンって言ってもらえば師匠に伝わると思うから…とりあえず旅から帰って来た挨拶と、ちょっと師匠にお願いしたい事があるので会いたいと…」
と伝言を頼むと彼女は、ビシッと立ち上がり、
「噂に聞く兄弟子のジョンさんでしたか!」
と驚きながらも、
「それならそうと早く言ってくださいよぉ~」
と拗ねた様に言ったかと思うと、
「少々お待ちを~」
と言いながら工房からバタバタと走って出ていったのであった。
慌ただしく出ていった彼女の背中を見送り、誰も居なくなった工房にてリーグさんと二人で、
「母屋とか言ってたけど…」
などとまだ答え合わせが出来ていないキーワードについて話していると、メイダさんが再び現れ、
「他の弟子達もジョンお兄さんに会いに工房に行きたいと言っておりまして、こちらでは狭くて話も出来ないから、お師匠様がお二人に広い母屋の方へ来て頂くようにと…」
と僕らを呼びに来たので、【母屋】というキーワードの答え合わせも兼ねて彼女について行く事にしたのである。
案内された母屋と呼ばれる建物の広い部屋には、まるで理科室のような創薬の為の道具が各テーブルに並び、その道具の前で知らない顔ぶれがこちらを見つめて、その先の教卓のような場所にエルバート師匠が少し気まずそうに座っており、
「無事に帰ってきたようだのぅ…」
と、こちらに笑いかけてくれているのだが、もう聞きたいことだらけな僕は、とりあえず生徒のように並ぶ若者に混じり、ちょこんと座るおじさんやおばさんの事から師匠に聞いてみたのであった。
どうやら、僕の目の前に並ぶ十数名は全て僕の弟や妹弟子にあたるらしく、王都の学校を出たエリートがエルバート師匠に教えを乞おうとカサールに来たり、カサール領内から弟子になりたいと集まった若者と、おじさんとおばさんはなんとご夫婦であり、カサールに出店した大都市に本店を持つ大きな商会の元会長であり、孫夫婦がカサールの店で独り立ちするのに手伝いとして隠居していたご夫婦が付き添ってきたそうで、何故にこのご夫婦が弟子になったかというと、
「孫嫁の命を救って頂いたお師匠様に出資したいと申し出たのですが断られてしまい、なんとしても恩返ししたくて弟子として無理やりお師匠様にご恩返しを…」
と旅の道中で軽い怪我をした孫嫁さんがカサールに到着後にどうやら傷口からバイ菌でも入ったのか治癒師もお手上げな悪い状態になり足先を切断する事になってしまい、師匠がその話を聞いて、
「前回弟子からの注文で作ったエクストラポーションの余分がありますので…」
とバルディオさん親子の為に依頼したエクストラポーションの残りを提供したそうで、その女性の旦那さんでありカサールに新しく出来た商会の支店長である大商会の息子さんがエルバート師匠のパトロンになることを申し出たのであるが、師匠がその話を断ると、付き添いで来ていた旦那さんの祖父母が、
「薬を作る知識を学んで老後の楽しみで薬草園でも…」
などと言って師匠の弟子になり、
「弟子が師匠の為に動くので…」
と半ば強制的に、師匠の工房の近隣の職人さんを息子に譲った商会の傘下に引き込み新たに他所に建てた工房に引っ越しをしてもらい、空き地となったこの場所にエクストラポーションで足が直った孫嫁さんのお里である大商会とも手を組み、エルバート師匠の弟子専用のこの住み込み可能な建物を建設したのだそうだ。
そして商会の情報網で王都の学校を出たエルバート師匠に弟子入りして錬金術師を目指す貴族の子供などを招き、エルバート師匠に子供を預けた貴族の権力と、自分達と孫嫁さんの実家である二つの大商会の金の力で守るという錬金術の塾という形の後援会組織が出来上がっていたのであった。
おかげでエルバート師匠は、錬金術を教える事に集中出来て、依頼の入ったポーションなどをたまに錬成すれば食べて行け、買い出しや掃除など身の周りの世話なども弟子達が色々と手伝ってくれているので安心なのであるが、エルバート師匠としては、
「のんびり隠居したくて王都から帰ってきたのに…」
と少し困り顔をしてはいるが、それなりに楽しそうに過ごしている様子なので、僕は、
「ゴーレム作りより、やっぱり師匠はポーション作りで歴史に名を残していただかないと…それには弟子をまだまだ増やしてもらいポーションと言えばエルバート師匠の一門だとニルバ王国だけではなくて他国にも…」
などと師匠に声援を送ると、エルバート師匠はタメ息と共に、
「しかし、目立つ弟子の一人は傷軟膏すら作ろうとせずに未だに見習い錬金術師止まりなのだが…のぅ、ジョン…」
とドデカいブーメランが僕に突き刺さったのであるが、僕は、
「いやいや、師匠…僕は師匠の為にポーション作りのお仕事を依頼出来る様に日々お金を稼いでおりまして…」
と苦しい言い訳をしたのちに、師匠に、
「という事で、師匠にエクストラポーションを作って頂きたくお願いに参りました」
と伝えるとエルバート師匠は、
「王都ならば素材を集めるのも容易だがのぅ…カサールではなかなか手に入らない地竜の新鮮な血などの希少素材が…」
と心配されているので僕は肩にかけたマジックバッグを師匠の机の上に置き、
「実は地竜の生息地近くに知り合いが出来まして…この時間停止機能付きのマジックバッグの中には樽に詰まった新鮮な地竜の血と、正式な名前は知りませんが地竜の上位種の血が入っております」
と告げると元商会の会長だった夫婦は、
「お師匠様、あとの素材の手配は我々が…」
と申し出て、他の弟子の若者達は、エクストラポーション作る現場が生で見れると、
「お師匠様、助手には是非自分を…」
とか、
「私も近くで見たいです師匠!」
などと、色めき立つのであった。
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