第148話 春ですのぉ~
季節は春、冬の間に起こった地竜のバタバタからのコーチャー王国と森の民の方々との話し合いなどもようやく落ち着いて、現在僕たちはコーチャーからカサールへ向けて帰る道中である。
カサール建設のメンバーによるニルバ王国の傘下に入ってくれたコーチャー王国にある幾つかの集落を魔物の被害から守る為に石壁で囲うというニルバ王国から依頼された仕事を無事に完了したクリスト様に、コーチャーの国王陛下から、
「我が国の一部となってくれた森の民の集落も…」
とお願いされたらしいのであるが、軽く見積りを出したところあのイノシシ顔の国王陛下は下唇を噛みしめながら、
「ぐぬっ…払えぬ…」
と悔しがっていたそうで、すでに息子の様に可愛がっているロイド君の知恵を借りようと陛下が泣きついた結果、
「カサール建設に技術を学ぶ為にコーチャーから実習生を出して、建設用ゴーレムと共に段階的に呼び戻して、国営の建設組織にしましょう」
というロイド君の提案を採用し、ルベールさんの念話でニルバ王国サイドとも話し合って最終的には、ニルバ王家からクリスト様に、
『実習生の教育についてニルバ王国からの正式な依頼と、建設用ゴーレムの追加生産の開始』
という二点を依頼されたのである。
しかもこの依頼にあたり、ロイド君はニルバ王家に、
「実習生を育成して送り出した場所に返すということは、その場所にてカサール建設が将来独占出来たであろう稼ぎをニルバ王国の為に放棄するのも同じ…」
などと交渉してくれ、どうやらコーチャー王国だけでなくニルバ王国の各地からも実習生を受け入れる事にはなったが、その代わりカサール建設はニルバ王国の直営となり資金の心配なく当面は育成事業だけで食べていけ、更にクリスト様が快く実習生の受け入れを了承した事はカサール子爵家としての功績にもカウントしてもらえたようで、来年辺りには出世して伯爵になるそうで、クリスト様もゼルエルガさんもニコニコである。
そして、行きは建設用ゴーレムをマジックバッグにしまってガラガラだったカサール建設の荷馬車には、第一期実習生としてコーチャーの方々だけでなく今回腕を失った森の民のダダンさんも数名の集落の仲間と乗り込んでいる。
片腕では狩人として暮らすのは厳しい事から、
「何でもするので…」
と志願したのかと思っていたのだが、幼い頃より好きだったトラ顔のガルバさん家の第三夫人であるシシルさんと、自信を取り戻して完璧になったガルバさんとは勿論、他の奥さん達とも仲良しなのを見ていられなかったのが大きく、
『奪う事は無理だな…』
と心底理解して、どちらかと言えば逃げの旅立ちなのである。
そして、実は森の民の中で片足を失った男性であるコリンさんという狐顔の男性が同じく狐顔の妹であるムムさんと共にウチの幌馬車に乗り込んでいるのだが、こちらは表向きは、
『狩人として働けないコリンさんをウチの商会で働いてもらう為』
というのに妹さんがついて来た形であるが、本当は地竜の一件の時に妹さんを逃がす為に足を失ったコリンさんを見つけたダダンさんは怪我をしたコリンさんと恐怖で動けないムムさんを守りながら自分も右腕を食い千切られてもコリンさんとムムさんを引きずる様に脱出したらしく、
『前から少し気になっていたがもう押さえられない!』
とムムさんがダダンさんにゾッコンになってしまい、シシルさんとの件も知っているムムさんが、
「時間をかけてチャンスをうかがいたいから…」
と、ウチ商会の職員として良い距離感を保ちつつダダンさんの体と心の回復をカサールにて見守り、そして万全の状態のダダンさんにアタックしたいとお願いされ、ムムさんのお兄さんであるコリンさんが、
「片足で役にたたないかも知れませんが手先はソコソコ器用なので…」
と妹を心配して付き添う形なのである。
という事で、愛しのイボイノシ…いや姫様との今後の事もありコーチャーにてお別れする事になったロイド君とルベールさんの二人の代わりに、ウチの幌馬車には新たに二人の仲間が加わり賑やかに旅をしているのであるが、約一名、カサールに近づくにつれ日に日に口数が少なくなる者が…そうダグさんである。
なんだかんだ色々起こりダグさん本人も忘れていると思っていたのであるが、出発前に彼が全く気が付かなかった冒険者であるトリシャさんからの気持ちをバルディオさんとリーグさんのおじさんチームがしっかり伝えてくれており、どうやら彼なりにずっとその事を意識していたようで、彼女との対面が近づくにつれてダグさんの料理の味が定まらなくなっており、
『おぉ…本日はかなり塩っ辛いな…』
などと、日に日にブレる朝のスープの味も旅の楽しみになって来た頃、僕たちはカサールの町へと帰って来たのであった。
しかし、久しぶり我が家の玄関口にてふと…
『あれ…僕は青春を取り戻す旅に出たはずだったよな…』
と、旅の目的を思い出したのであるが、旅の友であるロイド君が一人青春しただけで、アル君の方は立派に商人として成長して師匠であるテイカーさんに、今回の旅の収支やらコーチャーなどで仕入れて来た商品の報告をしており、メリーさんの煎れてくれたお茶をすすりながら、僕は、
『青春を探しましたが何の成果も得られませんでしたぁぁ』
と心の中で叫ぶしか無かったのであった。
しかし、青春こそ見つからなかったが、壊れた魔鉱鉄の装備を格安で仕入れるルートに、米の安定供給に向けての準備、あとは新たに森の民との出会いにより魔物素材の仕入れ先も出来たので商会としての稼ぎにはプラスの旅になったので、
『はいはい、もう僕は金が青春ですよ…』
と、いじけながらもメリーさんから家の中の報告や、テイカーさんから商会についての報告を受けたのちに、
「では、ライト兄さんやエルバート師匠に挨拶した後でカサール子爵様のお屋敷にも寄るから遅くなる」
と告げて、リーグさんとバルディオさんと一緒に我が家を出たのであった。
家から最初にバラッドさん達の工房に寄りマジックバッグからお土産がわりの地竜の骨などの素材をガラガラと取り出して、
「リペアの魔法でジェロニモは直したけど、地竜との戦いで僕だけボロボロにされたから新しいゴーレムをこの地竜の骨を使った魔合金をベースに作りたいんだけど…」
とお願いし、成長して貫禄が増したバラッドさん家のお子さんには、
「パパにもちょっとあげてね…」
とカルセルのお菓子などをプレゼントし、次に訪れたライト兄さんの自宅兼工房にて、
「積もる話もあるだろうから…」
と、バルディオさんをイデアさんとライト兄さんのお宅に放置した後に、リーグさんと二人でエルバート師匠の工房に向かったのである。
師匠の家に行く道中にギャンさんの店に寄り、
「魔鉱鉄の装備が安定供給できる様になったから近々持ってくるよ」
とだけ伝えたのであるが、ギャンさんのお店の内部はどうやら僕たちが出発前に始まった新町からのアルバイト女性達がおりなすギャンさんをめぐる静かな戦いの場となっており中々に香ばしい雰囲気であったが、
「春ですのぉ~」
と、後から事情通の新町の奥様方に詳細は聞くとして下手に聞くと長くなりそうだったので、リーグさんと店を出たのだった。
ギャンさんの店から裏通りを抜けてエルバート師匠の工房に向かう。
カサール子爵様も、
「エルバート殿、我が家でもっと良い場所に工房を用意いたすので…」
とカサール子爵家に多大な貢献をした師匠に一等地への引っ越しを提案したのだが、エルバート師匠は、
「もうじき天に召される老いぼれに金を使わずに、領内の子供達の為に使ってくださいませ」
とその誘いを断り、
「その代わり今まで通り、騎士団へのポーションの納品の仕事をお願いできますかのぅ」
とだけお願いした素晴らしい師匠であるが、僕としても、
『国家錬金術師としてもっと目立つ場所とは言わないが、せめて便利の良い場所に工房をかまえても良いのに…ここから市場まで遠いから…』
と心配だったのであるが、久しぶりに訪れた師匠の工房の前で僕は、
「あれ…久しぶりだから道を間違えたかな?」
と思わず呟き、辺りを確認してしまったのであった。
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