第135話 幌馬車から見る空
ワグナで過ごした後半は朝から晩まで修復作業に明け暮れ、
『何の為にココに来たんだっけ?』
と考えてから思わず、
『あぁ、青春を取り戻すんだったか…』
と思い出したのと同時に、
「青春なんて何処にあった!?」
と叫んでしまう僕が居た。
ロイド君達と取り戻す予定だった青春は何処にも見当たらず、殴り合った調子コキ冒険者と軽く友達になった程度で、
【土手で殴り合って夕日見て友情】
みたいな熱い展開も無く、青春漫画に有りそうな助けた女性に惚れられるという感じのイベントも皆無で、有ったのはオジサンチームが大人な酒場でドワーフのお姉さん(皆さん百歳近いベテラン)の方々との忘れられない時間を過ごしたというぐらいしか変わった事もなかった。
しかし、予定していた壊れたマジックアイテムの買い付けはヨゼフさんと出会えた事により最高な成果を得られ、下町の方々のお役に立てるような事業も起こせた事には満足している。
なので後の事は一旦ワグナのご領主様から紹介された商会の方を1人ウチの商会に助っ人として来てもらい、後日テイカーさんが派遣してくれた方と組んでワグナ支店を切り盛りしてもらう手はずであり、アル君を慕うあの時の荷物係の少年フレッド君は、料理上手なママとセットで、支店の厨房と買い出しなどのお使い要員として正式にウチの商会のワグナ支店メンバーになってもらい、回収業務に参加した方々のお昼ご飯を作ってもらい始めたのだが、僕たちが町を離れる前には、ダグさんがフレッド君ママに伝授した我が家のレシピが人気らしく、
「無料じゃなくて構わないから…」
と下町の皆さんからお願いされる程であり、テイカーさんに派遣された職員さんが到着してからにはなるが、下町の奥様達を何人かパートに雇い食堂も開く予定らしいので皆さんには是非頑張って頂きたい。
とまぁ、とりあえずこの町で僕が出来そうな事は一通り終わったので、
「では、カイン様をお師匠様であるゼルエルガさんの元へ!」
と、少し冷たい秋の風を感じながら幌馬車にてワグナの南に位置するカルセル方面へと向かったのであった。
ゼルエルガさんはクリスト様と一緒にカルセルの近くの村を壁で覆うという工事依頼を貿易の拠点となる大都市で、カサール領より遥かに儲かっているカルセルのご領主様からかなりの額で受けてウハウハなのだそうだ。
『羨ましい…儲かっているのも、ラブラブでお仕事出来るのも…』
などと、ひがみそうになるがカイン様が通信魔道具越しにゼルエルガさんから聞いた話ではかなり大変な工事だったらしく、カルセルとしても獣人族の暮らす地域との国境の町として、ゴーレムの訓練や整備をしたり、現在我が家の主力産業である石鹸のカルセル地方工房などちょっぴり秘密にしたい場所の為にかなり頑丈な壁を建設して村は、ぱっと見ほとんど要塞の様になっているらしく、
「やはり流石は国一番の土魔法使い…見事な仕事です。 それにカサール子爵殿のご子息の率いる建設ゴーレム集団の働きは見ているだけで時間が過ぎるのが早く感じるほどで…」
などというカルセルのご領主様からの報告が国王陛下の耳にも届くと、次の仕事が王家から入ったそうで、カイン様はゼルエルガさんにも負けない土魔法師としてその仕事のお手伝いも兼ねて派遣されたらしく、カイン様は、
「師匠とは王都を出る前にカルセルの町からの通信魔道具で話したっきりですので、今現在もカルセル近くの村に居るかすら怪しいですが、とりあえずカルセルまで来なさいと言われていますので…」
と少し不安そうにしており、僕は
「ルーベルさんの念話で何とか連絡は出来ないかな?」
と聞いてみると、ルーベルさんは、
「私の念話は王都にあるボトム公爵家のお屋敷の執事殿と、ロイド様の上司である宰相閣下のみの登録でいっぱいでして…カイン様のお師匠であるゼルエルガ様の居場所を探る為にニルバ王国の軍事用の通信魔道具網を使うのは流石に…ジョン殿の商会への連絡は旅立つ前に宰相閣下とカサール子爵殿から了解を得ておりましたので可能でしたが…しかし他の町の領主の方々を呼び出して尋ねるなど…」
と、スーパー便利ギフトの念話には色々と制約があるらしく、
『なら自前の連絡手段が必要か…』
と考えて、
「ライト兄さんが持ってたけど、あの通信魔道具って買えないの?」
と、聞く僕にロイド君は、
「あれは国が認めた人間にしか基本は売らないですし、2つで1つな希少素材を使った高級品ですがそれ単体の通話が出来る距離が決まってますからね…どうしても領主間の通信網として国が殆ど独占状態です…」
と、通信魔道具が前世の携帯電話の様に気軽に使えない事を知ったのである。
「え~、じゃあカサールの本店とワグナの支店を通信魔道具で繋ぐ計画が使えないのか…これは困った…」
と頭を抱える僕に、ロイド君は、
「いや、ジョン君もニルバ王国や冒険者ギルドの連絡網みたいに中間の町にも支店を出して、中継させたら良いんじゃないかな?」
と教えてくれたので、
「なら対となる通信魔道具が2セット有れば…そうだ、カサールからマーチン辺りに支店を出して中継したらワグナまで通信範囲にならないかな?」
などと言って幌馬車の中で妄想を膨らませていると、ルーベルさんがなにやらブツブツ独り言を呟いたかと思うと、
「ジョン殿、宰相閣下から通信魔道具を5セットなら今回のヨゼフ殿という人材を見つけてくれた褒美にするが希望するかと申されていますが?」
と言ってくれたので、とりあえずお願いしたのであるが、
『欲張って5セットもらったけど…まぁ、テイカーさんにお願いしとくか…』
と、ルーベルさんにお願いして通信魔道具の件をカサール子爵様経由でテイカーさんへの伝言をお願いしたのであるが、僕は、
『う~ん…念話はどんなに離れていても通話が出来るから便利だが、相手先が数個と限られるし、通信魔道具に関しては相手先が1個のみで距離の制約もある…電話というより無線とかトランシーバーっぽいな…』
などと分析しつつも、色んなギフトや魔法が有る今のこの世界よりも、前世が凄く便利だった事に今更ながら気がつき、
『ゲームみたいな剣と魔法の世界に憧れはあったが、いざ剣と魔法の世界に来てみるとなぁ…あぁ、本当に魔法みたいな世界は科学で便利な前世だったのではないだろうか…』
と考えてしまう。
知らぬままなら文句もないが、下手にあの便利で安全な日常を知っている為に、幌馬車から見える空を眺めながら、
『またコンビニ行きたいなぁ…ホットスナックが食べたいよ』
とか、
『いや、今の季節なら肉まんもアリだな…』
などと妄想の世界を漂いながら、
『あぁ、何で僕は肉まんの作り方を知らないんだ…なんかの料理漫画で小麦粉練っていたのは知ってるが、僕の知識で肉まんに再会出来るとは思えない…醤油や味噌もこっちの世界には無いし、作り方すら知らない…もっと自炊を頑張って近所の奥様達みたいに自家製味噌とか作っていたらあるいは…』
と、食べたいが材料が無い物や、材料は有りそうだが作り方を知らない物ばかりな事に1人で悶え苦しみながら百面相をしていると、皆が心配しつつも話しかけて良いものかと不安気に僕を見つめており、かなり恥ずかしくなった僕は、
「大丈夫…命には全く関わらないちょっとした発作だと思って…」
とだけ伝えると、ダグさんが、
「そうですか…あの幼かった坊っちゃんも悶々するお年頃に…恋愛の事なら少しぐらいは相談に…」
という…
『いや、我が家にてトリシャさんのストレート過ぎるアタックにすら気が付かない鈍感系中年男に恋愛の何を相談するのやら…』
と呆れる僕は、ダグさんに、
「いや…ダグさんには恋愛の相談はしないよ」
と宣言するのだが、当のダグさんは、
「もう、そんな事言って…さぁ恥ずかしがらずにっ♪」
とウキウキで聞いてくるのであるが、これにはバルディオさんやリーグさんも呆れながら、
「ちょっと今晩三人で話そうか…」
とダグさんに提案しているのを、
『頼むよ…メリーさんからもこの旅の間にダグさんにトリシャさんの件をビシっと言うように指示されてるんだ…神様、醤油も味噌も肉まんも一旦我慢しますので鈍感系なダグさんが二人からの忠告でピンと来ますように、どうかお願いします』
の願をかけるのであった。
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