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おまけ番外編 例のDVDの話

活動報告のアンケートでリクエストのあったお話です。久しぶりに書けて楽しかったです!


『……あのさ、空花。先に言われちまったけど、俺もやっぱお前のこと――――誰よりも心底、スゲェ好きだ』


 少々編集を施した綺麗に広がる夕焼け空に、イイ感じに流れるムードのあるBGM。

 身長差のある男女二人が向かい合って立つ様子は、まさしく恋愛ドラマのワンシーンだ。

 告白を終えた精悍な顔立ちの少年の横顔が、淡いオレンジの光に照らされる。それに頬を染めて、素朴な容姿だがとびきり可愛らしくはにかむ少女。


 二人の顔がアップで映し出され、そして――――

 


 音無響介は、そこでポチッと再生停止ボタンを押した。


「――――はい。以上が、俺がスマホで撮影した動画を、家で音も入れて編集した、『空花と部長の愛の物語~告白編~』です。なお、製作期間は一日です。昨日徹夜でやりました」

「おおう……響介マジ職人」

「神編集ね」


 部室にポータブルDVDプレイヤーを持ち込み、自分の仕上げた動画の上映会を終えた響介は、えへんと胸を張っている。ボサボサの長い前髪の隙間から、薄ら覗く瞳は心なしか自慢げだ。でもよく見れば隈が出来ている。


 茶色がかった髪に屈託のない明るい雰囲気の朝陽と、モデル体型で赤いリボンのポニーテールが特徴的な湖夜の幼馴染コンビは、そんな響介の職人魂に拍手を送った。


 床に座ってプレイヤーを囲み、共に見ていた他の演劇部メンバーも歓声をあげる。


「すごいです、響介先輩! 再生時間は決して長くは無い、言うならちょっとしたロングCMサイズなのに、このクオリティ……さすがです!」

「言ってくれたら、私も動画編集を手伝ったのに。背景の光の加減とか、パソコンで微調整してみたかったな」


 食い入るように動画を見ていたミッチェルは、天使のようなベビーフェイスを紅潮させ、興奮気味に男にしては大きな目を輝かせている。

 前髪を花型のピンで留めた清楚系女子な灯は、響介の腕を褒めつつも、手伝えなかったことにちょっとだけ残念そうな顔だ。


「ふふ。こういう作業は、うちでは響介くんが一番強いですよね。大会のビデオや今までの講演の様子も、すべて丁寧に編集してDVDに焼いてくれていますし。受験勉強の合間の息抜きにぴったりな、素敵な動画を見せてくれてありがとうございます」


 おっとりと頬に手を当て、芹香は微笑む。見送り会も終え、三年生の彼女はすでに引退済みだが、今日は「もしお時間あったら」と後輩たちに招待を受けて、放課後のこの時間に久しぶりに部へと足を運んでいた。

 県外の難関大学を受ける予定の彼女は、先生方の期待の星だ。それでも本人は至ってマイペースで、模試もA判定らしく、いつもどおりの物腰の柔らかさを崩さない。


「リクエストどおり、皆さんの分のDVDも焼き増し済みです。ケースもちゃんとついてますよ。パッケージデザインは暦先輩がしてくれました」

「あらあら、凝っていますね」

「えっ! なにこれすごい!」

「うわ、これは売り物レベルですよ……!」

「マジか、暦先輩何者だよ」

「相変わらず謎の人ね……」


 配布されたDVDを受け取ると、空花と大地のツーショット写真をCG加工した、非常に芸術性の高いパッケージが目を惹く。よく見ればラミネート加工もされている。


  総じて気合入れ過ぎだった。


 暦は元風紀委員会所属の、姿を見られたらラッキーなツチノコレベルの隠しキャラだ。演劇部においては、裏方関係の仕事をすべて請け負っていたスーパースタッフである。彼女も引退済みの芹香と同じ三年生のはずだが、受験勉強の片手間で作ったというのだから驚きだ。


「ついでに、動画内の場面をカードに印刷し、これまた立派に整えた、おまけの特典ポストカードも作ってくださっています」


 おまけまであった。

 暦が何を目指しているのか、それは演劇部メンバーにもわからない。


「暦ちゃんの分のDVDは、私から渡しておきますね」

「じゃあ司馬先生の分は僕が」


 芹香とミッチェルがそれぞれ二枚ずつ受け取る。司馬は顧問のダメ教師であり、今はミッチェルのクラスの担任だ。


 これで動画上映会もDVD&特典配布も終了し、みんな満足満足で一件落着……といったところで、部室のドアがガラッと開く。


「あ、カモがネギ背負ってきた」

「みんな、もう揃ってるの? ちょっと先生に捕まって遅れちゃって……でも大地先輩は連れてきたよ!」

「いったいなにをはじめる気だ? あとおい、朝陽。カモがネギとかどういう意味だ」


 現れたのは、DVDの中で主演を勤めていた空花と大地だった。紆余曲折の果てにお付き合いをはじめた二人は、仲良く並んで一緒に登場だ。


 朝陽の不穏な呟きは空花には届かなかったが、大地にはバッチリ聞こえていた。

 なんだ、カモネギとは。俺と空花、どっちがカモでどっちがネギだ。いやそんなことはどうでもいい、またなに企んでやがるコイツ等。

 そんな疑心暗鬼たっぷりな思考を展開させ、彼はジットリと部員たちを睨む。睨まれた部員たちは「オレタチナニモワルイコトシテイナイヨ、ナア、コヨル?」「ソウヨ、タダジブンノヨクボウヲカナエテモラッタダケヨネ、アサヒ」と、わざとらしいカタコト喋りをしている。


「大地先輩、ダメですよ、そんな厳しい顔したら。眉間に皺まで寄せて。演劇人は笑顔だいじ、ですよ!」

「お、おう」


 下から大地を見上げて、空花が自分の頬を突いて笑みを見せる。大地はそれを受けて、「俺の彼女めっちゃかわいい」と感想を抱く。ただのバカップルだった。


「はいはい、そこの犬も食わないバカップルさんたち。さあ、早くこちらに座ってください。素敵な上映会をはじめますよ」


 パンパンと芹香が手を軽やかに叩けば、朝陽と湖夜が「二名様、ごあんなーい!」と二人をDVDプレイヤーの前に案内する。

 ミッチェルはサッと小道具入れから取り出した座布団を敷いて、灯はプレイヤーの画面の位置を整える。準備が出来たところで、響介は再生ボタンを再び押した。



 ……流れた動画に、空花は頬を染めつつもその出来に感動し。

 大地は久々に本気のお説教を部員たちにしたことは、言うまでもない。

 

 


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