7話:馬脚あらわすユニコーン
「オーラーイ、オーラーイ」
心地よい日差しの中、校庭には健全なる少年少女の声が響き渡る。
俺たちは今、体育という科目の中で汗を流していた。
本日の授業はソフトボールで、今は外野ノックを受けているところだ。
「キャー!、桃馬様ステキー!!」
女子達の歓声があがる。
その声が向けられた先には奴がいた。
「えへへ、上手にボールを捕るのは難しいね☆。」
俺の日常を壊したピンクのユニコーン。人間の姿をしてはいるものの、その正体は人ならざる怪物だ。
この事実を知っているのは俺だけであり、どうすれば信じてもらえるのか悩んでいた。
少なくともクラスメイト達はもうダメだろう、ピンクのユニコーンが転校したその日から、完全に奴のファンになってしまったからだ。
そんなことを考えているうちに、外野ノックの順番が俺に回って来た。
ポーンと上がったフライボールを追いかけ、落下地点に入り、悠々とグラブを構える。
白球は見事な弧を描き、俺のグラブから跳躍してみせた。
グラブを出る喜びをいっぱいにかみしめたかのように、今は元気に地面を走り回っている。
「こんの下手くそがぁ!、やめちまえ!」
「そうだやめちまえ!、桃馬ちゃんの恋人なんかやめちまえ!」
「そうだそうだ!、今すぐ桃馬様を解放しろ!!」
色々なものがごちゃまぜになった野次のような何かを浴びた、もはや意味が分からない。
ピンクのユニコーンが来てからというもの、クラスメイトに存在を無視されること以外は特に問題の無かった俺の日常は壊れた。
代わりに、クラスメイトからこの上なく存在を強く意識されようになったが、いい迷惑である。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお馬野ルルちゃん好きだぁああああああああああああ」
魂の雄たけびを上げ、外野フライに飛び込んだのは我が友、半田陽太だ。
落下地点は彼の飛び込んだ場所からは大きく離れており、色々な意味であさっての方向に飛び込んでいく男らしい有様であった。
◇
外野ノックが終わり、次は実戦に近い形で守備練習を行う時間になった。
当然、内野にも人を配置した状態での練習だ。
なお俺はクラスメイトの推薦により「セカンド」の守備ポジションについた。
「調子に乗るな、出過ぎた真似をせずに身の程を知れ」という意味を込めてセカンドに推薦したとのことだ、非常に失礼である。
ピンクのユニコーンは「ショート」の守備位置についていた。
理由は言うまでもない、「ずっと君の隣にいたい♡」とかいういつもの理屈だ。
なお「ショート」と言えば守備の花形とされる重要なポジションだ、競技は異なるが野球好きな諸兄であればご存知だろう。
クラスメイト達の視線はピンクのユニコーンに集まる。
どうせ「可憐な美少年の華麗な守備を目に焼き付けておきたい」とでも考えているのだろう。
その期待を裏切らず、ピンクのユニコーンこと桃馬は襲い掛かるボールをすくっては投げ、すくっては投げを繰り返した。
「すごい!すごいぞ桃馬ぁ!、もっと...、もっと行くぞ!!」
ノックをしている体育教師に変なスイッチが入ってしまったようだ。
どんな球でも簡単に取って見せるピンクのユニコーンに刺激され、普通では打たないような強烈な球を打っていた。
はっきりいって危ない予感がする...、そんなことを考えていた刹那のこと。
猛烈な速度のボールが俺めがけて飛んできた。
桃馬に向けて打ったつもりだったが、変に力が入ってしまいコントロールに失敗したのだろう。
人は危機的な状況に置かれると世界がスローモーションに見えるのだという、「タキサイキア現象」と名前がついている現象だ。
ボールは俺の顔面にめがけて飛んでくる。
このままボールが直撃すれば無事ですまないだろう、最悪命の危険すらありうる。
残念おれの人生はここで終わってしまった...。
そう思った瞬間のこと、俺の右横で強烈な光が走った。
俺は見逃さなかった。人間の姿に化けていた桃馬が一瞬でユニコーンの姿へ戻り跳躍した。
ショートの位置からセカンドの俺のところまで一瞬で移動してみせた、当然だが人間にはできない芸当である。
俺めがけて飛んできたボールは、人間の姿に戻っている桃馬のグラブの中へ納まっている。
だが、この様子はしっかりとクラスメイトや体育教師の目撃するところとなった。
ついにユニコーンが馬脚をあらわしたのだ。




