6話:バージンロードだユニコーン
ユニコーンに連行されて学校にたどり着いた俺だったが、教室へ入室するときも一緒だった。
だが予想通りというか、クラスメイトからの反応はかんばしいものではなかった。
「今すぐその汚い手を放せ!、桃馬ちゃんの手が腐り落ちるだろうが!!」
「嘘よ...、桃馬様が...。私達の桃馬様が汚されて...。」
男子からも、女子からも思い思いの罵声を浴びせられた。
あとこいつは、"ちゃん"じゃなくて君付で呼べ、男だぞ。
騒ぎを聞きつけた他クラスの野次馬まで駆けつけて、まさにカオスとしかいいようのない状況が出来上がっていた。
「ハイハ~イ☆、みんなどいてね。僕とダーリンがお通りするよ♡」
その一言で、周りを取り囲んでいたクラスメイトたちは片膝を付き、首を垂れた姿勢を取った。
俺たちが通れるように真っ直ぐスペースを開けて両端に整然と並んでいる。
目から涙を流し、「耐えるんだ、桃馬ちゃんのお願いだから...。」みたいなことをブツブツといっている、正直怖い。
「ねえ見て!、僕たちのクラスメイトが祝福してくれてるよ、二人の素敵なバージンロードだね!」
「いや、どう見ても祝福していないぞ。」
「これはもう結婚でしょ!、ここまでしてくれた皆に恩返ししないとね♡」
「結婚じゃなくて怨恨だぞ、あと怨返しされそうなんだけど、俺が。」
地獄みたいな雰囲気の中に無事入室を果たした俺だったが、あることに気が付いた。
我が友「陽太」は先ほどの騒動に加わらずに自分の席でスマホを眺めていたのだ。
特にいつもと変わらない行動だが、他のクラスメイトがユニコーンに魅了されてしまったことを思えば驚くべきことであった。
思えばユニコーンからの"お願い"を拒絶した唯一の人物も陽太であった、もしかしてお前はユニコーンに抗えるのか?。
「おはよう陽太、馬野ルルちゃんのことは大丈夫か。昨日は相当にショックを受けていたみたいだが?。」
昨日の様子とは打って変わり、今日は背筋を伸ばして姿勢よくスマホを眺めていた。
昨日は机には突っ伏してメソメソ泣いていたことを考えれば驚異的な変わりようだ。
俺の挨拶を聞いた陽太はこちらに振り返った。
彼の目は"この上なく澄んで"おり、俺は嫌な予感を感じざるをえなかった。
「おはよう...、よく来てくれたね。俺はついに目覚めたよ、"真実"に。いつものように話を聞いていってくれるよね。いや、聞け。」
陽太が言っている「話を聞く」というのは、毎朝コイツの推しのVtuber馬野ルルに関する話を俺が黙って聞くことをさす。
なお、真面目に聞いていたわけでなくて大半は受け流して適当に相槌を打っていただけだ。
陽太の方はそんなことを知ってか知らずか、「自分の話したいことを自分が満足するまで話せた」という事実に満足していたようだった。
要するに、いつものように会話のサンドバッグになってほしいという事だろう。
まあいいだろう、昨日の傷心状態からは立ち直れたようではあるし、今の奴の状態に興味もある。
「いいぞ、思う存分話をしてくれ。昨日は本当に大変だったな。思う存分話せ...。」
俺はいい笑顔を浮かべてOKを出した、それを合図に堰を切ったかのように陽太が話を始めた。
「ようやく分かったんだ。俺はとんでもない思い違いしたよ、異性コラボを企んだのはルルちゃんの責任じゃないんだ、本当に恥ずかしいよ。ルルちゃんの裏にいる運営がね、奴らが仕組んだことだったんだ。全部あいつらの仕業だったんだ。だからルルちゃんは異性コラボなんてしていない、運営が無理やりやらせたことだからセーフなんだって、...ね。」
俺は陰謀論が誕生する瞬間に立ち会っていた。
馬野ルルは個人Vtuberで運営はいないぞ我が友よ、お前が以前に聞いてもいないのに教えてくれたことだろうが。
ショックのあまり架空の存在である「運営」を生み出し、そこへ責任を転嫁したという事か。
実際には存在していなくても、彼が存在していると思えば存在しているのだろう、...彼にとっては。
やたら"澄んだ眼"をしていたのはこういうことだったのか。
俺は我が友の行く末が心配でならなかった。




