8話:命の恩人ユニコーン
衝撃の光景を目にし、誰もがあっけにとられていた。
明らかに人間にはできない動き、それは「桃馬の正体は人間ではない」という事を示すのには十分であった。
だが、その様子をみたクラスメイトの反応は俺の予想とは全く異なるものであった。
「今の見たか。桃馬ちゃんのあの跳躍を...、神々しすぎて俺にはユニコーンが見えたぜ...。」
「ああ、世界に祝福された美貌の持ち主だからな、俺たちの目が錯覚を起こすのも当然だぜ!。桃馬ちゃんマジ天使!!。」
「さすがは桃馬様...。運動神経も抜群なのね、さすがは私たちの教室に舞い降りた万能の天才、不可能を可能にするお方ね!。」
各々が勝手に都合のいい解釈を始めていた、なんてこったい。
だめだ、今俺が「こいつは人間じゃない!!」と叫んだところで誰も信じないだろう。
というか自分を救ってくれた恩人に対してそんなことを言えば、むしろ俺の方が「お前は人間じゃねぇ!!」と言われるだろう。
しかしここで俺は思いついた。
ユニコーンにやられて脳内ピンク色のクラスメイトどもはともかくとして、体育教師はどうだろうか。
大人としての分別と人生経験がある彼であれば、もしかすると分かってくれるかもしれない。
そう思って体育教師の方を見ると、ピンクのユニコーンと何やら話をしていた。
「もう、あぶないじゃないですか先生!!、生徒にケガをさせたら大問題ですよ!!。」
「本当に申し訳ない君の言う通りだね、つい熱くなってしまったよ。私のやらかしをカバーしてくれたこの恩は一生忘れない、君は私の教師人生を救ってくれた神様だ!。」
すでに手遅れであった、取り込まれるのが早すぎる。
「最早この場には俺の味方はいないだろう」とそう思った時であった。
たった一人、ただ一人だけ周囲とは異なる反応を見せる奴がいた。
「ゆ、UMAだ。本当にUMAはいたんだ...。馬野ルルちゃんに情報を送ったら喜んでくれるかな?」
聞きなれた声、相変わらずの発言内容、それはクラスにおける俺の唯一の友、半田陽太であった。
やはりまたコイツか。
まさかVtuberに入れ込みすぎることがこんな形で役に立つとは思わなかった。
世の中何があるか分からない、まさに「人間万事塞翁が馬」といったところだろう。
◇
体育の授業を終え、クラスに戻った俺は考え込む。
ユニコーンの事が少しずつではあるが分かって来た、いったん情報を整理してみよう。
まずはユニコーンには人間を魅了して都合のいい行動をとらせる能力があるということだ。
だが全員が魅了されてしまうかというとそういうわけでもなく、通用しない人間もいる。俺と半田陽太がその例だ。
次に自分の姿をある程度自由に変えられるということだ、人間の姿になることも出来るし、体の一部分だけユニコーンにすることも出来る。
もちろん完全に元の姿になることも出来る。
そして何よりも...、どうも本気で俺に惚れているらしいということだ。
口先だけで好き好き言っているわけではなく、本気だという事が分かった。
先ほどの一件では自分の正体がバレてしまうリスクがあったにもかかわらず、全力で俺を助けに来てくれた。
このことは否定しようのない事実なのだから認めざるを得ない。
とはいえこのユニコーンにはご丁寧に元居た世界へお帰りいただきたいというのが正直なところだ。
俺が危ない目にあったのも、元はと言えばあのユニコーンが軽快にノックをさばき続けたせいだ。
そうだ、アイツが全部悪い。
今はとにかく仲間が必要だ、たった一人で立ち向かうにはユニコーンはあまりにも強大すぎる。
すなわち「対ユニコーン大同盟」、ユニコーンをユニコーンとして認識できる選ばれし人間の集団を結成する必要がある。
幸いにも我が友、半田陽太はその尖兵となるだろう。
「馬野ルルちゃんのため」とか適当に理由をつければよろこんで鉄砲玉となることは間違いなしだ。
来るべきユニコーンとの決戦に向けて、俺は奮い立つのであった。




